IFRS適用の方針が不透明な中でも、企業は自社の経理プロセスやITシステムの改善に取り組んでいる。いわば宙ぶらりんなこの時期をどう生かすか。サントリー、出光興産、東京ガスの3社が自らの考えを示した。
IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)適用についての金融庁の判断が固まらない中で、企業は先を見越した動きが求められている。適用年度を決めてIFRS適用の対応を進める企業や、あえてプロジェクトを休止している企業などその対応はさまざまだ。2012年2月に開催されたIFRSコンソーシアム主催のイベントでは、サントリーや出光興産、東京ガスのIFRS担当者が現状と今後の展望について語った。
3社のうち、サントリーと東京ガスはIFRS対応を続けている。一方、出光興産はプロジェクトを休止した。まずは各社のコメントを紹介しよう。
サントリービジネスエキスパートの執行役員 経理センター長の石川一志氏は、「われわれはまだIFRSプロジェクトを行っている」と説明した。サントリーグループ全体のシェアードサービスセンターである同社では、2011年4月にIFRS対応プロジェクトを開始。選任3人、兼任8人の体制でプロジェクトを推進しているという。サントリーホールディングスは非上場だが、継続開示会社で有価証券報告書を提出している。社債による資金調達も行っていて、石川氏は「上場会社並みに(IFRS対応を)やろうというのが会社の方針だ」と話した。
サントリーは5つのワーキンググループを設置し、IFRS対応を進めてきた。2011年6月の金融相によるIFRS強制適用見直しの発言(参考記事:IFRS強制適用が延期、金融相が「2015年3月期の強制適用は考えていない」)以降は、幾つかのワーキングループを凍結したという。ただ、「専任チームは残している。いつかはIFRS適用をしないといけないのは間違いない。専任チームを確保できているときにやるべきことはある」と話した(参考記事:他社のIFRSプロジェクトから学べること)。
東京ガスの経理部 IFRS推進グループ マネージャーの吉田岳氏は、「最短で2017年3月期の強制適用を目標にプロジェクトを進めている」とIFRS対応を継続していることを説明した。プロジェクトグループは2010年4月に設置し、専任者も置いているという。現在はグループ全体のアカウンティングポリシーを策定中で、2012年度第1四半期には決定する方針。その後、アカウンティングポリシーをどう業務に落とし込むかを検討するという。「その先は状況を見ながら決める」とも話した。
一方、出光興産の経理部 主幹部員 佐藤光昭氏は「IFRSプロジェクトは当初、2011年9月に専任者を置く予定だったが、今は休止して活動していない」と話す。会社としては「強制適用が決まったら対応するというスタンス」で、金融庁の議論を見守っている状態だ。ただ、事業のグローバル化を進めているため、「当社が強制適用の対象にならなくてもIFRSを適用することは必要だと個人的には思っている」と話した。IFRS適用の方針が決まるまではシステム対応や決算期統一などを着実に進めていくという。
3社のコメントを受けて、パネルディスカッションに参加したトーマツのIFRSアドバイザリーグループ パートナー 公認会計士の東川裕樹氏は、「私が今担当している企業では、IFRSプロジェクトを止めている会社はほとんどいない」と話した。また、日本オラクルのアプリケーション事業統括本部 担当ディレクターの桜本利幸氏は、同社製品を採用してIFRS対応を進めている東芝の事例を紹介し、「プロジェクトの進行などは変わっていない。オンスケジュールで進めている」と話した(参考記事:現在進行中! 住友商事と東芝のIFRS適用を見る)。
各社とも課題を抱えつつ取り組みを続けている。サントリーの石川氏は、IFRS適用について「経営にどう生かすかという議論から入らないといけないが、なかなか答えが見つからない」と指摘した。だが、「われわれの一番の課題はグローバル展開」として、IFRS適用による共通尺度の導入が重要と話した。「グローバルを中心とした経営情報の見える可が大事だ」。
東京ガスの吉田氏は、長期的な同社の課題として3点を挙げた。1つは子会社との連携。「子会社が具体的に何をやって、どういう課題があるかを深掘りして理解したい」。2つ目は人材育成。経理実務を担ってきた人材が定年で大量に退職しつつある一方で、就職氷河期世代の採用を絞ったために人材の年齢バランスが取れていないと説明した。「IFRSを見据えて、人員の減少にどう対応するかを考えていく」。3つ目は、システムについて。子会社から集める連結パッケージはこれまで単純に残高ベースだったが、「IFRSによる注記の増加も意識して、トランザクションベースで集めることができないかと考えている」と述べた。
システムについては各社とも改善を考えている。サントリーの石川氏によると、同社の会計システムは、国内は手組みによる自社開発。海外の買収企業はSAPが中心だ。石川氏は、「システムに関しては何を実現したいかが鍵になる」として、「グループの経営情報をいつ誰が何を見るのかでシステムの構成は決まってくる」と話した。この観点では、国内は子会社も含めて現状の会計システムに統一する方がシェアードサービスの活用もしやすくなり、効率性が上がると判断。一方、海外では「システムを統一しても何を見たいのかが不明。まだ統一はないと思っている」と話した。
出光興産の佐藤氏は、「会計システムは一から作り直すことを考えている」と述べた。同社はERPを使って会計システムを構築してきたが、アドオン開発が多いシステムで維持費がかさんでいるという。新会計システムでは「できるだけ基本機能に仕事を合わせていく」方針で、開発コストの増大を防ぎ、メンテナンス性も高める。国内の会計システムを構築した段階で、次のステップとしてグローバルの子会社にその会計システムの適用を検討していくという。
一方、東京ガスの吉田氏は、「IFRS対応費用の最小化がプロジェクトの大きなミッションなので、既存システムを活用する。システムの刷新は考えていない」と話した。ただ、同社は既に国内子会社を対象にした統一会計システムを整備している。もっともその利用は強制ではないので、全ての子会社が統一会計システムを使っているわけではない。吉田氏は、「IFRS対応をせざるを得ないというときには、用意している統一会計システムに(子会社が)だいぶ流れてくるのではと思っている」とも話した。
サントリーと東京ガスはほぼ予定通りのIFRS対応を進める中で、出光興産はプロジェクトを休止。だが、システムについては出光興産が最も積極的だ。IFRSの強制適用が確実視されていた2009〜2010年ごろと比べて、プロジェクトの推進やシステム対応など、企業の対応方針に幅が出てきたという印象だ。企業が単に制度対応だけではなく、自らの問題としてIFRSとシステム対応を真剣に考え始めた結果といえるだろう。
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