“SDNの父”に聞く
「SDN」の定義はなぜ分かりにくいのか?
ネットワーク分野で聞かれるようになった「SDN」。しかしエンドユーザーからはまだまだ分かりにくい。そもそもSDNの定義とは何なのか。“SDNの父”に聞いた。
SDN(Software Defined Networking)にはさまざまな課題が存在するが、まず必要なのは新興技術である同技術の定義を固めることだ。市場にはSDN技術をうたう製品が多く出回っているが、エンドユーザーはどこに投資すればよいか判断できないのが現状だ。
OpenFlowの開発者であり、米VMwareのネットワーキングチーフアーキテクトのマーティン・カサド氏は、自身が考えるSDNの定義やネットワーク仮想化との違いについて語った。
――OpenFlowやSDNの父であるカサド氏に最初に聞きたいのは、ネットワーク仮想化技術が新たに登場したことで、SDNの定義が分かりづらくなった点だ。今考えるSDNの定義について教えてほしい。
カサド氏 ネットワーク仮想化とSDNは異なる存在で、それぞれ違った意義がある。SDNは仕組みを指すが、ネットワーク仮想化はいわばソリューションだ。SDNはシステム構築者にとって有用で、私はよくエンジン開発に例えている。自動車のエンジニアは、新しい開発手法でエンジンを開発するが、消費者はエンジンではなく車を買う。
もう少し分かりやすく言うと、例えばプログラム開発の場合、SDNはプログラム言語であり、プログラムはSDNで開発する。開発者は顧客に「私はPythonで開発していて、Pythonを売っています」とは言わない。「私はこのプログラムを開発し、ベースにPythonを使っている」と説明する。
私の考えるSDNの定義は、米スタンフォード大学と米カリフォルニア大学バークレー校の共同プロジェクトで最初に定義したものと変わらない。SDNは、データプレーンからコントロールプレーンを、そしてデータプレーンからハードウェアを切り離して標準化し、より多くの機能を提供できるようにしたネットワークアーキテクチャだ。
SDNは、グラフィックスエンジニアリング、セキュリティ、ポリシー、ネットワーク仮想化など、さまざまな課題に適用できる。一方のネットワーク仮想化は、ネットワークの理論的枠組みを変更するためにエンドユーザーが利用する製品、またはソリューションだ。サーバの仮想化がサーバの運用や管理方法を変えたように、ネットワーク仮想化はネットワークの運用や管理方法を変える。ネットワーク仮想化でSDNを採用することも可能だが、する必要はない。両方を比較することは非常に難しい。
最も伝えたいのは、システム開発者にとって有用な手法とエンドユーザー向けソリューションを混合しないよう注意してほしい点だ。議論を先へ進めるためにも、まずは用語を明確に定義して基盤を作る必要があると感じている。
――イノベーションが急激に進み、SDNへの期待が高まる現在、企業やベンダーはどのような課題に直面しているのか。
カサド氏 まず企業にとっての主な問題は、SDNの定義が不明瞭であることだ。そのため、SDNをどう評価したらよいのか分からなくなっている。ベンダー側については、さほど課題はないと思う。というのも、彼らは自由に何かを開発し、それをSDNと呼んでいるだけだからだ。一方のエンドユーザーは、さまざまな形で提供されるSDNを見て、SDNが一体何なのか混乱している。事態を収めるためにも、定義をはっきりさせることが必要だ。
――VMwareは、ハイパーバイザーと直接連携することでベンダー、ハイパーバイザー、クラウド管理プラットフォームを問わず運用可能なSDNコントローラー「VMware NSX」を2013年後半に提供すると発表した。VMwareが現在展開するクラウドおよびネットワーク仮想管理へのアプローチを踏まえて、同コントローラーの役割について教えてほしい。
カサド氏 発表では、エンドユーザーには2つの利用モデルを提供することを明らかにした。1つは、垂直統合スタックの一部として利用するモデルで、全てのコンポーネントをより簡単に利用、運用することができる。もう1つは、個別コンポーネントとして利用するモデルで、ソフトウェアスタックを問わず統合することが可能だ。VMware ESX環境、KVM環境、VMware vCloud環境、OpenStack環境を問わず、異種環境をサポートできる。ベストオブブリードのコンポーネントを横断的に提供する上でも、垂直統合と水平統合の両モデルともにサポートできるようにした。
――VMwareの目標が、コモディティハードウェアを含む全てのハードウェアにSDNやネットワーク仮想化を展開することにある場合、やはり米Cisco Systemsとのパートナーシップは影響を受けるのだろうか。
カサド氏 現在の状況を語る上で、それは必ずしも正しくないことを強調したい。サーバ仮想化がどのサーバとも互換性があるように、ネットワーク仮想化もあらゆるハードウェアと互換性がある。だからといって、管理性を含むハードウェアの幾つかの差別化ポイントを損なうわけではない。
よって、コモディティハードウェアの世界が変わるという表現は正しくない。ネットワーク仮想化は、エンドユーザーに選択肢を与える。ハードウェアプラットフォームを選べる他、差別化を図るためにカスタマイズ可能なソリューションを選ぶかどうかも選択できるようになる。われわれは、こうした選択に関わったり、またはアドバイスを提供したりはしない。われわれは現在そして今後もCisco Systemsと緊密に連係していく。今回の件で関係性が変わることはない。
――最後に、SDN関連の議論で補足したいことはあるか。
カサド氏 付け加えたいのは、1点だけだ。現在、SDNの用語にまつわる混乱は大きく、ネットワーク仮想化とのつながりも分かりづらい。そうした中で、ネットワーク分野ではSDNやネットワーク仮想化とは別の、例えばWeb 2.0データセンターやビッグデータセンターといった、物理インフラを提供する汎用ハードウェアで大きなトレンドが動いている。今後ソフトウェアベンダーの役割はますます重要になってくるだろう。
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