信用危機で不安定な市場に立ち向かう上で、大規模なITオーバーホールがどのように役立ったか、英シュローダーでIT部門を統括するマシュー・オークリー氏に話を聞いた。
マシュー・オークリー氏は、法学の学位を取得してオックスフォード大学を卒業したが、ITにキャリアを転向した。11年間スイスの投資銀行UBSに勤務した後、資産運用会社のシュローダーに入社し、これまで8年にわたりIT部門のグローバル統括者を務めてきた。
オークリー氏の職務は、ビジネスアプリケーションとインフラストラクチャが対象であり、シュローダーの3000人の従業員のIT要件への対応が求められる。同氏は、5万ポンド程度の小規模なプロジェクトから数百万ポンド規模の戦略的計画まで、常時70〜100件のITプロジェクトを監督しつつ、大掛かりな投資プログラムの計画を練ってもいる。これらを全て規制が厳しい環境でこなし、さらにIT担当の常として、突然課された難しい要求に対応する必要もある。
注:本記事は、プレミアムコンテンツ「Computer Weekly日本語版 2013年5月29日号」(PDF:無償ダウンロード提供中)に掲載されている記事の抄訳版です。EPUB版およびKindle版も提供中です。
シュローダーは、2120億ポンド相当の投資を管理している資産管理会社だ。27カ国で事業を展開し、ロンドンに本社を構える。金融業界の多くの企業とは異なり、シュローダーは現在も成長を続けている。その成長のおぜん立てをするのが、オークリー氏の仕事だ。ビジネスチャンスを生かせるように確実にITを準備しておくことが、常に焦点の1つになる。「ITに対する要求は急激に高まり、IT部門は規模が2倍になった」とオークリー氏は言う。
オークリー氏はロンドンからIT部門を指揮している。アジア太平洋地域はシンガポールに、欧州大陸地域はルクセンブルクに、南北アメリカ地域はニューヨークにそれぞれ拠点がある。拠点ごとに、オークリー氏直属のIT統括者がいる。
シュローダーで最後に実施した大規模なIT投資プログラムは、プラットフォームの入れ替えプロジェクトだ。2006年に開始された2年間のプロジェクトで、バックオフィス刷新の取り組みの一環として27年間運用してきたコアシステムを置き換えた。このコアシステムは寿命を迎えていたため、置き換えが必要だった。
「タイミングが良かった。2008年の世界金融危機が発生した後では、プロジェクトを完了させるのは難しかっただろう」とオークリー氏は明かす。「バックオフィスのプラットフォームの寿命を10〜15年延ばすことができた」
具体的には、社内開発したレガシーの投資管理システムであるポートフォリオ管理システム(PAS)を、デンマークのSimcorpが提供する詳細なカスタマイズが可能なソフトウェア製品「Dimension」に置き換えた。
PASは他の数百個のシステムと連携していたため、置き換えにはかなりの労力を要した。完了まで2年間、3万8000人日をかけた。オークリー氏は、「これで、シュローダーの環境が整った」と話す。
このプロジェクトが完了して間もなく、景気後退と大不況に見舞われることになる。シュローダーでは大幅な人員削減は実施せずに済んだものの、裁量支出を削る必要があったという。「拡張性の目標は達成できた。ビジネスは劇的な成長を遂げ、インフラストラクチャもそれに合わせて拡張できている」
シュローダーは現在、投資およびデータシステムの改善を図る大規模プログラムの下で、資産運用事業への投資を進めている。このプログラムには、相互に関係する12のプロジェクトが含まれ、2、3年を要する見込みだ。
「先のバックオフィスプロジェクトは、特定のシステムの導入を目的とした、対象が絞られた取り組みだった。現在進行中のプログラムは、さまざまな要件を対象としている」とオークリー氏は説明する。「これは、多方面においてゲームの先手を打つための複合的な取り組みだ。目標は、成長を支えることだ。システムを改善しさえすればビジネスを育成できると考えるほど、IT部門は愚かではない。システムは事業の成長に合わせてその成長を支え、新たなビジネスを効率よく管理できる機能を提供する必要がある」
そのためには、システムの拡張性を確保する必要がある。それには、投資システム、データプラットフォーム、エンドツーエンドプロセスの機能を強化し、できる限り良好なエコシステムを確立しなければならない。シュローダーでは、取引および発注管理システムをアップグレードし、新しい投資リスクツールとデータスクラブツールを導入する予定だ。
金融業界は規制が厳しく、次々とコンプライアンス要件が課されるという流れが変わる気配はほとんどない。「大きな変更はつきもので、中には事前の通達が十分にないまま実施されるものがある」とオークリー氏は話す。
オークリー氏は、IT部門はどんな状況にも即対応できる必要があるというのが信条で、最後まで新しい規制について知らされないことが多い現状に愚痴をこぼさない。
「規制当局と金融サービスのIT担当者間の連携が強まってほしいが、そのことに過度にとらわれないようにしよう」とオークリー氏は言う。
「われわれにも最初から知らされるべきだという思いから、いろいろと文句を言うものだが、時には問答無用でやらなければならないことがある。ITには、“目の前に課題がある、つべこべ言わずにやっつけよう”と、腕まくりをして現実的に取り組むタイプの人間が多く必要だ。規制を課した側との連携が深まるのがよいというのは正論だが、現実的には、IT担当は求められるものをそつなく提供していかなければならない」
不意に突き付けられた難しい要求に対応する場合、通常はITプロジェクトの要員確保を基に計画を練ることになる。「要員は遊んでいるわけではなく、全員に仕事が割り当てられている。予定外の物事に対応しなければならないので、プロジェクトポートフォリオ管理は複雑になる」(オークリー氏)
オークリー氏の話は、BYODやiPad、Surfaceに及びます。彼がMicrosoftのCEO、スティーブ・バルマー氏と会話した内容とは? 続きはComputer Weekly日本語版 2013年5月29日号にて。
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