「ビッグデータという言葉は好きではない」ロータスF1チーム、ハックランドCIOF1チームCIOが語るIT活用

マシンの設計やレースシミュレーション、テレメトリーシステムのリアルタイム分析など、あらゆる分野でITを駆使するF1チーム。ロータスF1チームはどのようなシステムを使っているのか、ハックランドCIOのインタビュー。

2013年07月02日 08時00分 公開
[Cliff Saran,Computer Weekly]
Computer Weekly

 ロータスF1チームのCIO、グラエム・ハックランド氏は、16年間にわたりこのレーシングチームのために働いてきた。その間、トラックの中でも外でも、ITの活用方法が大きく変わっていくのを目の当たりにしてきた。

 ネットワークエンジニアとしてキャリアを始めたハックランド氏は、仏Renaultがチームを引き継いだ時点では、ITインフラストラクチャマネジャーになっていた。

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 チームの本拠地は英国オックスフォードシャーにあり、現在ハックランド氏は、そこでほとんどの時間を過ごしている。

 「以前はトラックでメンバーをサポートしていたが、最近は制限があってね」と言う。

 設計、製造、風洞システム、車の空気力学を最適化するための数値流体力学(CFD)シミュレーションを実行するスーパーコンピュータなど、チームに必要なITを支えるアプリケーションとインフラストラクチャを整備するのが、ハックランド氏の仕事だ。同氏はセキュリティも担当し、上級管理職チームの一員でもある。

 ハックランド氏は昔を振り返って言う。「チームに入ったころは、主に大型のUNIXシステムでCADを実行し、UNIXワークステーションをレースに持って行ったものだ。5台のノートPCをトラックに持ち込み、工場では緑の文字の端末を使っていた」

先行してテクノロジーを導入

 しかし、F1は非常にテクニカルだ。前述の取り合わせは現在の標準からすると原始的に見えるが、F1に長年携わるハックランド氏によると、「F1は常にどこよりも先駆けてITテクノロジーを導入している」という。

 ハックランド氏自身はビッグデータの大ファンではないが、F1での成功を左右するのは高速データ分析に尽きることを認めている。

 車のデータは、以前は1枚のFDに収まっていた。今ではF1マシンからGバイトのデータが生み出される。

 「ビッグデータという言葉は、混乱を招くので好きではない。われわれにとってのビッグデータの課題は、空気力学データやCADデータなど、複数のデータセットを使って車のパフォーマンスを引き出すことだ」とハックランド氏は語る。

 このような分析は、レーストラック内にとどまらない。

 「金融サービス業のリアルタイムデータ分析との共通点が多くある。トラック内では長くても90秒以下で、数百件のパラメータの分析を基に決断をしていかなければならない」とハックランド氏は話す。このパラメータには、タイヤ圧、天候の状態から、ライバルチームの位置やそのタイヤ戦略など、あらゆる項目が含まれる。

 ロータスF1チームでは、サイロ化したシステムに換えてMicrosoft Dynamicsを使用し、製造プロセス全体を一元的に管理している。ITコンサルティング企業の米Avanadeにソフトウェアの開発とテストを委託している。ソフトウェアは、サービス指向アーキテクチャ(SOA)で、Microsoft .NETを使って構築されている。

 同チームでは、Dynamicsなど市販のソフトウェアも利用しているが、競争優位性を高められる場合は、独自開発したシステムを利用している。

 「CFD、風洞、統計、統計分析などで、競争優位性を高められると判断した場合は、ソフトウェアを独自に開発する」とハックランド氏は言う。

 ロータスF1チームでは、データ分析機能の改善を図り、現在、あるシステムの開発にも力を入れている。

 Avanadeは、エンジニアリングとデータをMicrosoft Dynamicsに連携させる「Strategy」というシステムの開発に取り組んでいる。Strategyは、レース情報、エンジニアリングおよびシミュレーションデータを処理する統計エンジンで、車とレース戦略の継続的な調整を可能にする。

 同システムを使うことで、PLM(製品ライフサイクル管理)、ERP、レース情報アプリケーションを包括的に管理できるようになる。

分析の能率化

 ハックランド氏は、CADとMicrosoft Dynamicsの連携を計画している。連携できれば、エンジニアリングデータを使って車のパフォーマンスの分析を能率化できるだろう。

 「現在はかなり手作業が多く、全てのデータをまとめるのに数日かかる」とハックランド氏は説明する。DynamicsとCADが連携すれば、データ分析速度は上がるだろう。

 ハックランド氏によると、このようなデータ分析をしなくても、1レースなら勝てる可能性はあるという。しかし、F1チャンピオンシップの場合は、Strategyのようなソフトウェアを使って、シーズンを通してマシンを改良できるようにする必要がある。

 ただしStrategyは、今よりも2014年のシーズンに重要になるだろう。

 ハックランド氏は次のように説明する「2014年は1.6L V6ターボエンジンの使用が義務付けられるなどのレギュレーション変更があるため、Strategyソフトウェアは次のシーズンに極めて重要になる」

 「前シーズンのデータは、そう簡単には参考にできなくなる。ほぼ最初からやり直しになるだろう」

続きはComputer Weekly日本語版 2013年6月26日号にて

ハックランド氏によるチームのIT化の説明はまだまだ続きます。本社のネットワーク事情やクラウドの導入などについては、

で読むことができます。


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