サービスカタログの作成や利用者視点での機能変更など、ITILをIT以外の分野にも応用するCERNの支援業務責任者の取り組みを紹介する。
あの大型ハドロン衝突型加速器で有名なCERN(欧州原子核研究機構)は、IT以外の業務運営支援にITサービス管理(ITSM:IT Service Management)を利用している。
CERNの支援業務責任者、レイナウド・マルテンス氏は、ITSMの「IT」にとらわれず、サービス管理のベストプラクティスを、この素粒子物理学研究のメッカCERNにおけるごみ処理、防災、人、運輸、緑地管理などの分野に応用している。
「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)はIT以外にも使える。IT以外の分野には、ITILに匹敵するガイドラインがない」とマルテンス氏は話す。
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マルテンス氏は、CERNの新所長が就任して以来、ITSMを応用したファシリティ管理の陣頭指揮を執っている。
「これは、ITSMのベストプラクティスを確立している最中に思い付いた。だが、ITSMの(ファシリティ管理への)利用を同僚に検討してもらえるようになるまで半年かかった。まず、利用可能なサービスを説明するサービスカタログを用意することにした」とマルテンス氏は語る。
マルテンス氏は、利用者向けのサービス目録の役割を果たすビジネスサービスカタログを作成した。「ITのサービスデスクと似ていてITILを参考にしているが、SLA(サービス品質保証)の内容はクリーニングについてだ。ユーザーはこのSLAを基に“ゴミ箱がいっぱいなので、空にしてほしい”といったリクエストができる」(マルテンス氏)。このように、サポートデスクと同じ概念が、サービスデスクに応用されている。
2010年、CERNはIT機能の一部をサービスデスクに統合した。このとき、ITのサービス記述方法を変更するための追加作業が必要になった。
「IT(の記述方法)は、観点を機能から利用者に切り替える必要があった。例えばOracleはサービスではなく機能だ。OracleをMySQLに変更したとしても、利用者にとってはデータベースサービスであることに変わりはない。これは、配車サービスと似ている。車をリクエストした場合、BMWが手配されることも、フィアットが手配されることもある」(マルテンス氏)
2011年2月までに、CERNでは300項目からなるファシリティ管理用のサービスカタログが完成し、ヘルプデスクポータルでの運用が開始された。このポータルは、SaaS(Software as a Service)型のITサービス管理ツール「ServiceNow」を基盤とし、CERNでの利用者の一元的な窓口となっている。
マルテンス氏によると、ServiceNowによって、ファシリティ管理ヘルプデスクへのリクエスト処理のプロセスを統一できているという。
CERNのこのサービスポータルはインタラクティブなインタフェースを備え、職員や客員研究員がファシリティ管理サービスをリクエストできる。オフィスおよび研究室のインフラ、医療や消防などの安全・救急サービス、コンピューティングインフラ関連のサービスがカバーされている。
CERNのサービスデスクが扱う範囲が広いことから、コールセンターのスタッフはエキスパートではなく、案件を割り分けるコーディネーターになる。マルテンス氏によると、ファシリティ管理用のサービスカタログのおかげで、コールセンターの全員が正しい機能を特定できているという。「とてもうまくいっている。(別の部門に誤って)サービスチケットが回されるケースは少ない」
このようにファシリティ管理を変えていくために、マルテンス氏は以下のようなアプローチを使った。
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