AWSのマルチクラウド戦略【中編】
AWSが「マルチクラウド」を無視できなくなる理由
複数のクラウドを併用する「マルチクラウド」に対して、AWSは積極的ではない。自社サービスのみでユーザー企業のニーズを満たそうとするAWSの戦略は、長く続かない可能性がある。それはなぜなのか。
MicrosoftやGoogleが「Azure Arc」や「Anthos」といった、複数のクラウドを併用する「マルチクラウド」を想定した管理ツールをいち早く提供する一方で、Amazon Web Services(AWS)はこうした動きに出遅れている。前編「なぜ“AWS縛り”ではなく『マルチクラウド』が選ばれるのか」に続く本稿は、その背景を探る。
併せて読みたいお薦め記事
AWSとMicrosoft、AWSのマルチクラウド戦略
- Microsoftの「Azure Arc」は「Anthos」や「AWS Outposts」と何が違うのか?
- Google「Bare Metal Solution」とAWS、Microsoft、IBMのベアメタルの違いは?
- IaaSのマルチクラウド対応を比較 AWS、Azure、Googleの共通点と違いは?
企業ITのマルチクラウド化
マルチクラウドに消極的なAWS
「『ユーザー企業がAWSだけを利用するように仕向けたい』とAWSが考えることは、現在の市場リーダーとしては当然のことだ」。こう語るのは同社のパートナーであり、クラウドストレージをファイルサーバとして利用するためのゲートウェイ製品を提供するPanzuraのCEO、パトリック・ハー氏だ。
ハー氏によると、AWSは必ずしもマルチクラウドに反対しているわけではない。「AWSは、自社サービスがユーザー企業のあらゆるニーズに応えられると考えているだけだ」と同氏は話す。AWSは既に、クラウドサービスと、ユーザー企業がオンプレミスのインフラに構築したプライベートクラウドを組み合わせる「ハイブリッドクラウド」に取り組んでいる。そのため同氏は「AWSはマルチクラウドでも大きな後れは取っていない」と考察する。
「急いでマルチクラウド戦略を推し進めないもう一つの理由は、AWSがMicrosoftのようにオンプレミス向け製品からライセンス収益を得ることができず、クラウドサービス市場での高い占有率に頼らざるを得ない点にある」。そう語るのは、ITコンサルティング企業Sparkhoundでクラウドインフラのコンサルタントを務めるブライアン・ブロック氏だ。
AWSは当然ながら、ユーザー企業が同社のクラウドサービスを使用することで利益を得ている。そのためマルチクラウドの普及によって、AWSのクラウドサービスから他社のクラウドサービスに移行する道筋をユーザー企業に提供することは、収益の減少を意味する。「自社サービスの革新と改良に時間を費やすことは、AWSが市場で有利な状態を維持するための最も効果的な方法だ」とブロック氏は指摘する。
だが長い目で見ると、AWSはこれらの戦略を維持できない恐れがある。
AWSの“マルチクラウドへの抵抗”は持続できるか
「マルチクラウドに対するAWSの抵抗は、法規制順守やプライバシー維持のために複数ベンダーのクラウドサービスを使用せざるを得なくなっている、ユーザー企業のITシステムの現状に逆行している」と、住宅ローン向けクラウドサービスベンダーEllie Maeで、クラウド運用のバイスプレジデントを務めるジャスティン・ブロドリー氏は言う。
AWSはオープンソースのコンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」をAWSで利用するための「Amazon Elastic Kubernetes Service」を提供している。だが使いやすさや他のAWSサービスとの接続性から、同社の「Amazon Elastic Container Service」(Amazon ECS)を、推奨マネージドコンテナオーケストレーションツールと位置付けている。
Kubernetesは有力なコンテナオーケストレーションツールだ。他ベンダーがKubernetesをコンテナ戦略の中心に据えている状況を見据えると、AWSも同じように行動するのが賢明だろう。ユーザー企業は、ベンダーロックインを回避しながらインフラを構築する方法として、現在のAWSの姿勢を望んでいるわけではないためだ。
ただしAWSは、競合他社がマルチクラウドの最適な手段を突き止めるのを単に静観している可能性もある。ITコンサルティング企業Kelserでシニアシステムエンジニアを務めるティム・コルビー氏は「マルチクラウドに舵を切る前に、MicrosoftのAzure Arcがどうなるかを見届けることは、AWSにとってメリットがある」と語る。
マルチクラウドを先送りにすることは、短期的にはAWSのビジネス拡大に寄与する可能性がある。ただしデータベース管理システムベンダーのMemSQLで最高マーケティング責任者(CMO)を務めるピーター・ガジェンティ氏は「AWSがマルチクラウドに対するユーザー企業のニーズに消極的になることは、AWSの印象に影響を与えかねない」と警告する。
後編も引き続き、AWSのマルチクラウド戦略を説明する。
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
比較資料
[セコムトラストシステムズ株式会社] 「自社に合うEDR」はどれか分かる? 比較・検討時の見極めポイントを解説 -
製品資料
[アルプス システム インテグレーション株式会社] まだ社内で眠らせたまま? AI活用の糧となる「データ資産」を有効利用するには -
市場調査・トレンド
[AvePoint Japan株式会社] “SCS評価制度”対応の第一歩、自社環境と要求事項とのギャップを把握する方法 -
製品資料
[株式会社BREXA Technology] 情報整理の自動化でインシデントの初動対応を効率化、AIエージェント活用のコツ -
製品レビュー
[ヴィーム・ソフトウェア株式会社] SCS評価制度を導入するだけで十分? 組織の防御力を高める活用方法とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
2
「WSUS」終了の時限爆弾 “本命”移行先ツールとMicrosoft提唱の新管理手法
-
3
Claude Codeでは「エージェントを作るな、スキルを作れ」 Anthropicが示すAI構築術
-
4
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
5
VMware離れの決め手は“機能”以外だった 情シス109人が選んだ新基準と死角は
-
6
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
7
「ERP(統合基幹業務システム)の導入・活用」に関するアンケート
-
8
パッチなしで「今すぐサーバを落とせ」 Kiteworks異例警告の波紋
-
9
「ITインフラとデータ保護・バックアップ対策」に関するアンケート
-
10
「IBM i(AS/400)はクローズドなシステム」という誤解 DXに寄与する一歩
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
「Google Workspace」活用事例34選、先進の生成AIによる組織変革の全貌
-
2
Linuxのスキルを証明する“激推し”の認定資格はこれだ
-
3
バックアップは“取っているから大丈夫”なのか? ランサムウェア時代の備え方
-
4
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
5
月1000枚の紙を削減 9年動けなかった組織が、業務改革のその先に得たもの
-
6
「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略
-
7
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
8
ソフトウェア開発の属人化と手戻りをどう防ぐ? 速さと品質を両立させる方法
-
9
AI活用を停滞させる「2:6:2の壁」を乗り越えるためのポイントとは?
-
10
ドラマで分かる、標的型攻撃メールの被害を受ける企業と回避できる企業の分岐点
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー