これでも使う? Clubhouseの怪しいセキュリティ/プライバシー問題Clubhouseの諸問題【前編】

突如話題が沸騰した「Clubhouse」だが、次から次へと問題も噴出した。同意なく収集される連絡先、暗号化されているかどうかも分からない通信、ちらつく中国の影。専門家の意見は?

2021年04月20日 08時00分 公開
[Alex ScroxtonComputer Weekly]

 セキュリティの専門家は、Alpha Explorationが提供する話題のSNS「Clubhouse」について、そのプライバシーと広範囲にわたるセキュリティを疑問視している。それは、あるユーザーがClubhouseのサービスの範囲を超えてプライベートな音声チャットを転送する方法を見つけ、音声をアプリ外に漏えいさせるという事件が起こったためだ。

 Clubhouseは2020年にリリースされた招待制の音声限定SNSで、ユーザーは「幸運」な人々に限定されている。最近まで話題に上ることがなかった理由は主にそこにある。現在時点で対応しているのが「iOS」端末のみであることも理由の一つだ。2021年1月にイーロン・マスク氏などの著名なインフルエンサーがClubhouseの使用を口にし始めて以来、その名が知られるようになった。

 Clubhouseは中国でも人気を集めた。一時「グレートファイアウォール」外で運用できたため、ユーザーが中国によるウイグル自治区への弾圧、香港の民主化運動、台湾独立などの話題を自由に話し合うことができた。だが中国当局の知るところとなり、中国では利用が禁止されている。

 音声データを公開できる欠陥(現在は修正済み)の他にも、セキュリティのオブザーバーを困惑させる問題がClubhouseには多数ある。

 Clubhouseでアカウントを作成すると、ユーザーは端末のアドレス帳のアップロードに同意させられる。つまり、知人がClubhouseに登録するとその知人のアドレス帳を介して自分の同意なしに連絡先情報がClubhouseに取得される。そしてClubhouseからレコメンドされたり、さらなるつながりや登録を促されたりする恐れがある。

 このため、ドラッグの密売人やセラピスト、虐待や嫌がらせを受けてきた以前のパートナーなど、多くのユーザーが秘密にしておきたいつながりが暴露されると報告されている。

 さらに懸念されるのは、Clubhouseのバックエンドインフラの所在地だ。

 バックエンドインフラはAgoraという企業が所有する。なぜこれが問題かというと、2021年2月初頭にスタンフォード大学のインターネットオブザーバトリー(SIO)が行った調査の過程で、AgoraはWebサイトにシリコンバレーの住所を掲載していながら、実際には上海で創設されたスタートアップ企業であり、Clubhouseユーザーの生の音声にアクセスできる可能性が高いことが分かったからだ。

中国とのつながり

 SIOは、中国でホストされていると考えられるサーバにルームのメタデータが送信されており、中国の団体が管理するサーバに音声データが転送されていることを少なくとも一度確認したという。ユーザーのClubhouseのID番号とチャットルームIDはプレーンテキストで送信されるため、ClubhouseのIDとユーザープロファイルを結び付けることも可能だという。

 つまり、エンド・ツー・エンドでの暗号化(SIOはClubhouseによる実装を疑問視している)がなければ、音声データはAgoraによって傍受、コピー、保存される恐れがある。Agoraの所在地を考えると、これらのデータが中国の監視法の対象であり、国家安全保障や犯罪捜査の一環として必要であれば当局がアクセスできることになる。Huaweiもこの法律によって英国での活動を禁止された。

 Agoraはネットワークの監視と課金目的を除き、ユーザーの音声やメタデータを保存していないと主張している。これが事実ならAgoraはClubhouseのユーザーデータを保有しておらず、当局による合法なデータ要求は不可能ということになる。

 とはいえ、Agoraの報告が虚偽である可能性が除外されるわけではない。中国の諜報(ちょうほう)機関が独自にネットワークにアクセスする可能性も残っている。調査担当者によると、メタデータが本当に中国に送信されていれば、恐らく中国政府はAgoraのネットワークにアクセスせずにメタデータを収集できるという。

 またチームによると、(システムへのハッキングを除けば)中国がClubhouseからそのデータに直接アクセスすることはほぼ間違いなく不可能なので、Clubhouseの平均的なユーザーのリスクがTwitterなどよりも高いとは言えないという。

 SIOの発表後に出されたClubhouseの声明によると、クライアントが中国のサーバにpingを送信しないようにするため、暗号化とブロックをさらに追加するという変更をロールアウトしたという。またこのポリシーの確認と検証のためにサイバーセキュリティのサポートを外部から受けるとしている。

明らかになる弱点

 Clubhouseが安住の地を見つけたのは、早朝のジョギングやスキンケアといった自己啓発をLinkedInに書き連ねるようなビジネスパーソンの間だった。そのためClubhouseは多くの企業端末やネットワークに存在している可能性が高い。

 そして1カ月のうちに、サイバーセキュリティやプライバシーの問題が複数浮上した。多くのオブザーバーにとっては、Clubhouseはコロナ禍初期における「Zoom」と似た位置にあるようだ。どちらも爆発的な普及によって設計や開発における幾つかのセキュリティ欠陥が顕在化した。

 米国のサイバー保険とリスク専門企業Coalitionのジェレミー・ターナー氏(脅威インテリジェンス責任者)もこうした見方をする専門家の1人だ。同氏は次のように話す。「Clubhouseのセキュリティ侵害は、技術スタートアップ企業によくある問題を示している。開発者やユーザーが主に重視するのは技術面のメリットで、それが動機付けの要因になることが多い。だが、それは近視眼的だ」

 「リスクへの配慮は後回しになる。スタートアップ企業はセキュリティとプライバシーの懸念に配慮できる速度で動くべきだ」

 「新しい技術を早期採用者の手に渡す時点ではリスクが無視されやすい。だがセキュリティ対策は新しいユーザーエクスペリエンスと変わらないくらい徹底的に考え抜く必要がある。初期段階は開発のリスクがはるか遠くに感じられるのが常で、リスクが現実になって初めてその存在を実感する」

 ProPrivacyのレイ・ウォルシュ氏(デジタルプライバシーの専門家)も次のように補足する。「Clubhouseは、プライバシーとセキュリティ保護機能に深刻な問題を現在も抱えているように思える。会話が録音される可能性をClubhouseユーザー全員が認識することが不可欠だ」

 「アプリにセキュリティを施してこの脅威を完全に解決する責任はClubhouseにある。アプリ開発者が安全性を証明できるまで、Clubhouseは完全に公開されるパブリックなコミュニケーションフォーラムであり、誰でも発言を聞くことができると考えるのが一番だ」

後編では、Clubhouseのまだまだある問題点を紹介する。

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