メジャーリーグは「データ野球」をどう変えたのか 進化の歴史を振り返るMLBがGoogleと実現する試合データ活用【前編】

メジャーリーグベースボール(MLB)は、2000年代初頭からWebサイトを利用し、野球の試合データをファンや報道機関に提供してきた。MLBの試合データの活用方法はどのように変化してきたのか。

2021年11月16日 05時00分 公開
[Eric AvidonTechTarget]

 野球は統計が重要な役割を果たすスポーツだ。米プロ野球のMLB(メジャーリーグベースボール)は、試合データ分析システムの「Statcast」を構築し、2015年に導入した。2020年にはStatcastのインフラをGoogleのクラウドサービス群「Google Cloud Platform」(GCP)に移行することで、ファンとチームの双方に提供できるデータと情報を大きく変えることに成功してきた。

メジャーリーグの「データ野球」進化の歴史

 故ロジャー・マリス氏の1シーズンの本塁打記録である「61本」や、故ハンク・アーロン氏の通算本塁打記録「755本」、故テッド・ウィリアムズ氏が最後の4割打者になった1941年の打率「0.406」などの数字は、何十年にもわたり野球ファンに記憶されてきた。こうした数字は各球団の地元新聞にあるスポーツ欄のボックススコア(試合結果の要約)に掲載されたり、ベースボールカードの裏面に使われたりする。統計と野球との関係は深い。

 MLBによる統計の集計方法と利用方法は、約20年前の2000年代初頭に変わり始めた。

 2001年、MLBが公式Webサイトの「MLB.com」に試合中継機能を導入すると、ファンはコンピュータで試合の経過を追い、ボックススコアをリアルタイムで見ることができるようになった。その5年後の2006年、MLBは3次元(3D)の投球追跡機能を追加し、球場の観戦者とテレビなどのデバイスで観戦しているファンの双方に、投球のスピードと球種を伝えるようにした。

 2015年、MLBはStatcastの利用を始めた。試合中の選手とボールの動きを追跡するStatcastの技術により、MLBはそれまで取得不可能だったデータを取得して分析できるようになった。MLBでStatcastのソフトウェア工学シニアディレクターを務めるロブ・エンゲル氏は、Googleが2021年に開催したオンラインカンファレンス「Google Cloud Next '21」の分科会セッションで登壇。「Statcastを使うことで本塁打の飛距離など、ボールのあらゆる動きを捉えられるようになった」と話した。野球選手の動きを追跡することで、MLBは「足が一番速い選手」「肩が一番強い外野手」「フライが捕球される確率」「ブロッキングが一番うまいキャッチャー」など、新たな情報も得られるようになった。

 MLBは2020年、StatcastのインフラにGCPを採用した。GCPへの移行により、分析機能をさらに強化させる考えだ。新機能である3Dのポーズトラッキングは、センサーが各選手の身体の18カ所を追跡し、各センサーから位置情報を取得する。これらの位置情報と、投球と打球の情報を、いったんGCPに取り込む。その後ほぼ瞬時にWebサイトを閲覧する観客やアナウンサー、MLBの30チームに提供する。エンゲル氏は「これにより、試合をビデオゲームのような没入感のある3D映像として描き出せる。この技術でできることはとても多い」と語る。

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