生体細胞を使った「AI」モデルの開発プロジェクトが動き出している。開発からトレーニングまでのプロセスと、将来の可能性を開発担当者が語った。
ホン・ウェンチョン氏は、AI(人工知能)ベンダーCortical Labsを立ち上げ、研究を開始した。ウェンチョン氏が取り組んだのは、人の神経細胞に計算問題を解かせようとする試みだ。その過程とは。
ウェンチョン氏の頭に浮かんだのは、古典的なビデオゲームであるピンポンゲーム「PONG」だった。PONGをプレイさせる試みは、AIベンダーDeepMind Technologies(2014年にGoogleが買収)がAIにやらせた最初のタスクや、イーロン・マスク氏が猿を使った実験と同じものだ。ウェンチョン氏はマスク氏の実験については知らなかったという。「当時2、3年を費やして神経細胞のデータを集め、どのようにプログラムすれば、神経細胞がゲーム内のラケットを操作してボールを返せるようになるのかを研究した」(ウェンチョン氏)
Cortical Labsは当初、タスク遂行に必要な複数種類の神経細胞を組み合わることができる、マウスの胚細胞を使っていた。しかし同社のCSO(最高科学責任者)がネズミアレルギーだったため、代わりに人の幹細胞を使うこととなった。
ウェンチョン氏の研究チームは神経細胞の最適な組成を知らなかったにもかかわらず、「幸運なことに過程が正しかったことを証明できた」とウェンチョン氏は語る。人の幹細胞から培養した神経細胞は、マウスの神経細胞よりも良い結果を残した。
研究チームは、PONGをプレイすることに対するトレーニングにおいて、人の脳の神経回路を模倣した機械学習モデル「人工ニューラルネットワーク」(ANN:Artificial Neural Network)と、生体の神経細胞を比較した。その結果、ANNの一つである「深層強化学習アルゴリズム」よりも、生体の神経細胞の方がより効率的に機能した。深層強化学習アルゴリズムは、囲碁でプロの棋士に勝利したAIモデルである、DeepMindの囲碁用AIモデル「AlphaGo」の基となっているモデルだ。
「なぜ『自分で考えるロボット』が増えないのかを考えると、その学習アルゴリズムがあまりにも非効率だからだ」とウェンチョン氏は語る。例えばロボットの前に障害物があった場合、どうすべきかを判断するためのサンプリング(標本抽出)に「5分もの時間がかかる」(同氏)という。
生体神経細胞を応用できるもう一つの分野がサイバーセキュリティだ。言語処理モデルを使って学習したセキュリティツールは、既知の脅威しか防御できない。攻撃者は既知の方法だけではなく、新しいエクスプロイト(脆弱性を悪用するプログラム)も使う。「そうした脅威にリアルタイムに対処できるセキュリティツールが必要だ」とウェンチョン氏は語る。
次回は、ウェンチョン氏が開発した技術の、さらなる改良と課題を取り上げる。
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