北國銀行、SBIホールディングス、みずほフィナンシャルグループ、第一生命保険の生成AI活用事例を、課題や解決策と併せて解説する。
画像やテキストを生成する人工知能(AI)技術「生成AI」は、業界や業種を問わずさまざまな企業で使われ始めている。今後重要となるのは、“生成AIを使ってどのようにビジネスの競争力を高めるか”という視点だ。
Googleのクラウドサービス部門Google Cloudが2024年6月4日に開催した「Google Cloud金融サミット '24」のパネルディスカッションでは、北國銀行、SBIホールディングス、みずほフィナンシャルグループ、第一生命保険が生成AI活用の取り組みについて講演した。
金融大手各社は生成AIをどのような業務に生かし、ビジネスの競争力を高めているのか。取り組みの中で見えてきた課題や解決策と併せて解説する。
北國銀行では、勘定系システムの刷新プロジェクトが始動している。同行はプログラミング言語「COBOL」で書かれたソースコードを「Java」などモダンなプログラミング言語に書き換える際に生成AIを活用している。
具体的には、COBOLからJavaへソースコードを直接変換する際に生成AIを活用。しかし単純に書き換えるだけでは、COBOL風のJavaコード、いわゆる「JaBOL」が出力される懸念がある。Javaの本来の特性を生かしたソースコードに変換するため、一度COBOLソースコードから日本語の仕様書を作成し、仕様書を基にJavaソースコードを出力する方法を実践しているという。
同行はソースコードの変換だけでなく、テストコードやテストケースの自動生成にも生成AIを役立てている。プロジェクトでは、「Gemini」「GPT」「watsonx」など複数のLLM(大規模言語モデル)を使用し、融資や預金、為替など、複数あるプログラムごとに最適なLLMを使い分ける計画だ。
北國銀行のシステム部でシステムのモダナイゼーション(近代化)に取り組む新谷敦志氏は、「生成AIから出力されるソースコードのうち半分でも使えれば生産性は倍になる。コスト面でも大きなメリットが見込める」と期待を寄せる。
社内における生成AIツールの利用者はシステム部門が中心だが、全社的に希望者を募って生成AIツールを提供している。従業員がプロンプト(生成AIに対して出す質問や指示)やユースケース(想定される利用例)を社内向けに発信するなど、自発的に生成AI活用を推進する動きも見られるという。
金融持株会社のSBIホールディングスは、2023年7月に生成AI活用に特化したSBI生成AI室を設立。ローン比較サービスへのAIチャットbot導入や、商品FAQ(よくある質問とその答え)の検索エンジンへのAI技術搭載など、顧客向けの施策を進めている。
同社は社内業務改善にも生成AI活用を進めており、特に事業部門が主体の生成AIツール開発に注力する。AI技術に特化したCoE(センターオブエクセレンス:専門的な知識やスキルを持った組織)をグループ横断で設置し、各事業部門のスキルに合わせて、生成AI活用の開発と活用に向けた支援を提供する。
同社は、エンジニアではない従業員が業務に必要なアプリケーションを開発する「市民開発」の実現に向けて、ノーコード(ソースコードを記述しない)開発ツールを導入する他、月次の勉強会を開催。非IT人材でも、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)ツールやRAG(検索拡張生成)(注1)、LLMを、日々利用するグループウェアと組み合わせて活用できるような仕組みを整備している。
※注1 学習データ以外の外部データベースから情報を検索、取得し、LLMが事前学習していない情報も回答できるよう補う手法。
事業部門主体の生成AIツール開発が増えると、管理部門が利用の実態を把握し切れない「野良AIツール」の利用が広がり、それに伴ってセキュリティリスクが浮上することが懸念される。SBI生成AI室のリーダーを務める佐藤市雄氏は、「基本的な開発用テンプレートはSBI生成AI室が用意し、その範囲で自由に開発してもらうというやり方を採用している」と話す。生成AIツールの利用状況の監視やログの管理などの取り組みも併せて実施することで、ガバナンス向上につなげているという。
銀行持株会社のみずほフィナンシャルグループは2023年6月以降、全社員への生成AIツール提供やアイデアソン(新しいアイデアの創出を目的としたイベント)の開催などを通して、業務における適用可能性を探ってきた。「まず早く導入して、とにかく使ってみる」段階の次のフェーズとして取り組んでいるのが、社内データや外部の最新データを用いた生成AIの活用だ。
例えば、事務手続照会にAIチャットbotを活用することで照会時間の短縮につなげる他、融資の稟議資料のドラフトや補助資料を自動作成する生成AIツールの開発にも取り組んでいる。これらはPoC(概念実証)進行中だ。
生成AIを照会系アプリケーションに組み込む際、回答の精度が懸念となる。デジタル企画部で生成AIプロジェクトを統括する藤井達人氏は「書かれている内容に関してはほぼ正確な回答を出力できる」と評価する一方で、「実際に社員が知りたいのは、人の頭の中にある、ドキュメント化されていない内容であることが多い」と指摘する。
そのため同社は今後、「データ化されていない情報のデータ化」に注力する。例えば、コールセンターの通話内容を音声からテキストに変換し、その内容を基にFAQを充実させることで、回答精度を上げる取り組みなどを考えている。
全社的なAIの取り組みを支える組織として、みずほフィナンシャルグループでは2024年4月にCoEが発足している。AIアプリケーションの内製開発体制の整備も進んでおり、将来的には顧客向けサービスの開発や提供も視野に入れる。
第一生命保険では、DX推進部が中心となって事業横断型の生成AI活用を進めている。事業部門にヒアリングして生成AIの適用領域を探り、現場に持ち込んでみて効果がありそうなものは次のステップに進めるという、現場一体型の進め方を実践している。
ビジネス化検証を進めている取り組みが、独自開発したAIアバター「デジタルバディ」を用いた営業活動支援だ。
デジタルバディはユーザーインタフェース(UI)として機能し、ユーザーは複数の生成AI機能の中から必要なものを選んで利用できる。機能の一例が、活動報告の効率化だ。例えば、顧客との商談時に録音した音声データを生成AIがテキストで要約し、CRM(顧客関係管理)ツールに格納する。他にも同社は、契約手続きの照会や、顧客からの問い合わせ対応などに生成AIを活用する狙いだ。
DX推進部の野田憲二氏は実装のポイントとして「LLMを容易に切り替えられる、柔軟性の確保が重要だ」と話す。生成AIは日進月歩の技術であり、業界特化型のLLM登場する中で、適するものを見極めて迅速に取り込んでいく必要がある。上述したデジタルバディでは、UIを1箇所に集約して、機能ごとに切り替えやすい仕組みの構築を目指している。
取り組みを通して見えた課題として、野田氏は「社内のデータや情報は、必ずしも生成AIが使いやすいように整備されていない」点を挙げ、データ整備に向けた取り組みが重要だと指摘する。
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