「生成AI」で医療現場が進化する? 代表的な活用例“6選”医療分野での「生成AI」活用例【前編】

医療分野における生成AIの活用が広がっている。どのような用途で生成AIが使われているのか。医療分野における6つの活用例を紹介しよう。

2024年06月07日 05時00分 公開
[Mary K. PrattTechTarget]

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 医療分野における、画像や文章を生成するAI(人工知能)技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)の活用が盛り上がりを見せている。

 コンサルティング企業Deloitte Consultingは、ヘルスケア業界に関する研究を提供する機関Deloitte Center for Health Solutionsを有する。同機関は2023年、61件の大手ヘルスケア企業に所属する経営層に対して、2024年のヘルスケア業界の見通しに関する調査を実施した。調査において、回答者の約75%が生成AIを実験的に導入しているか、企業全体への導入拡大を計画中だと答えた。実際に、ヘルスケアにおける生成AIへの投資も増加傾向にある。調査会社Market.usによると、ヘルスケア分野での生成AIの市場規模は2022年に8億ドルに上り、2032年には約21倍の172億ドルに成長する見込みだ。

 医療分野では生成AIがどのように活用される見込みなのか。主要な活用例を6つ紹介する。

活用例1.研究

 ミシガン大学(University of Michigan)の教授イボ・ディノフ氏は、研究における生成AIの活用例として「合成データ」(シンセティックデータ)の生成を挙げる。合成データとは、人工的に作成された、個人を特定可能な情報とリンクしていないデータを指す。例えば脳のスキャンデータは、取得に高額な費用がかかる上、入手できる量が限られている。生成AIを使って合成データを生成すれば、研究に必要なデータを確保でき、より精度と信頼度の高い研究結果が期待できるようになるという。

 コンサルティング企業Boston Consulting Group(BCG)のDX専門家集団「BCG X」でヘルスケア分野を担当するアシュカン・アフカミ氏は、創薬における生成AIの活用例を挙げる。具体的には、新規化合物の設計や臨床試験参加者の選定、膨大な研究データの検索最適化といった作業の実現だ。生成AIを活用することで、「新たな研究成果や発見を獲得するために従来かかっていたコストと時間を20〜30%削減できる」と同氏は見込む。

活用例2.臨床判断支援

 非構造化データの分析や、臨床医が患者に尋ねるための質問を生成する場面において生成AIが力を発揮する。「生成AIは電子カルテから得られる豊富なデータを解析したり、病状に対する年齢や性別、家族や個人の病歴といった要因の影響度を効果的に区別したりすることで、より患者個人に合った診断結果を生成できるようになる」。アフカミ氏はこう話す。

 情報サービス企業RELX Group傘下の出版社Elsevierは、医療部門Elsevier Healthの主導で2023年4〜5月にオンライン調査を実施した。調査対象者は、論文を投稿したことがあるといった条件を満たす116カ国の医者や看護師2607人だ。その調査結果に基づく年次調査レポート「Clinician of the Future」によると、臨床上の判断に生成AIを活用していると回答したのは回答者全体の約11%だった。「将来的に臨床上の判断に生成AIを活用したい」と回答したのは48%に上る。

 Elsevier Healthは2024年2月、医療用AIベンダーXyla(OpenEvidenceの名称で事業展開)と開発した臨床判断支援ツール「ClinicalKey AI」の米国での提供開始を発表した。同ツールは、自然言語を使った会話型検索やエビデンスに基づく情報の提供、医療分野の出版物の参照を可能にするものだ。

活用例3.患者ケア

 生成AIは、患者ケアでも力を発揮する。医用画像の解析を強化したり、病気の診断支援や患者の条件に合わせた治療計画を提供したりすることが可能だ。

 調査会社Forrester Researchのシニアアナリスト、シャノン・ジャーメイン・ファラハー氏によると、患者の福祉や健康に配慮した治療やケアを実施したり、「健康の社会的決定要因」(健康に影響をもたらす社会的要因)を探索したりする上で生成AIが力になる。

 2023年11月、Deloitte Center for Health Solutionsは2023年版の「Health Care Consumer Survey」の結果を発表した。この結果は、患者も生成AIの可能性を認識していることを明らかにしている。同調査の回答者の53%が、生成AIで自分の症状や治療法を学ぶことによって、治療の選択肢が増える可能性があると回答した。46%が、生成AIを使うことで医療費を安くできる可能性があると答えた。同調査は、2023年秋に米国の成人2014人にオンラインで実施したものだ。

活用例4.医療管理

 ファラハー氏によると、生成AIは医療管理の分野でも活躍が期待されている。生成AIを活用することで、業務時間の削減だけではなく、業務効率の向上も可能になると指摘する専門家もいるという。

 臨床医や看護師、支払窓口の従業員といったさまざまな業種の従業員の業務効率化を支援する、生成AI搭載のソフトウェアを開発しているベンダーもある。「臨床記録の取得や患者の診察記録から情報を要約することにも生成AIが役立つ」とファラハー氏は話す。そうした作業に生成AIを活用すれば、臨床医は記録の作成にかかる時間を減らすことができ、患者とのコミュニケーションに集中できるようになる。事務室やコンタクトセンターでの業務であれば、医療文書や承認フォームを迅速に用意して、患者からの要求に応えることが可能になる。

 ミシガン大学で麻酔科学のアシスタントプロフェッサーを務めるマイケル・ルイス・バーンズ氏は、医療の現場に存在する膨大な法令や規則の検索、要約、理解といった作業に生成AIを活用しているという。

 バーンズ氏は、ミシガン大学の医学部と工学部が立ち上げた医療における生成AI活用の共同イニシアチブ「E-Health and Artificial Intelligence」(e-HAIL)のメンバーだ。同氏によると、生成AIによる分析は、古い情報や手続きの抜け漏れ、法令や規則の矛盾を明らかし、求める情報を迅速に入手することに役立っている。

活用例5.広報活動や患者とのコミュニケーション

 AIベンダーOpenAIの「ChatGPT」をはじめとする生成AIサービスのベースとなるのが、大規模言語モデル(LLM)だ。LLMを活用したツールが、コミュニケーションを補助する可能性があると専門家はみる。

 アフカミ氏によると、一部の医療技術や製薬、医療機器に関わる企業は、マーケティングや営業活動で使うためのコンテンツやキャッチコピーを、生成AIを使って作成している。顧客向けの説明書などの文書作成に生成AIを活用する場合もあるという。「従来3〜6カ月かけていた業務プロセスを3〜4週間に短縮できた例もある」と同氏は説明する。

 治療指示や退院指示書の患者情報の生成、識字能力が限られる患者向けに指示内容を詳細に記述したり、画像や音声を使って情報を提供できるようにしたりすることも可能だ。

 アフカミ氏は、正確さと分かりやすさを保証するために、生成された情報を監督する体制の必要性も強調する。

活用例6.教育とトレーニング

 生成AIは学習者や研修生の教育、トレーニングにおいても、学習支援や能力向上に役立つ可能性がある。例えば生成AIを使って、学習者や研修生個人に合わせた課題や評価シナリオ、試験問題を作成可能だ。

 ディノフ氏が期待するのは、「900ページに及ぶ教科書から、学生が持つ知識を証明するための課題5つを生成AIツールに生成させる」といった使い方だ。「生成AIは教科書の内容の理解を助けるだけではなく、講義の内容に沿ったオリジナルの課題を生成し、学習者の回答の妥当性を評価することにも役立つ」と同氏は説明する。

 「地域的な事情で、医療に関する学びの機会を十分に得られない学習者もいる。そのような学習者が生成AIを使って学習や訓練の機会を得ることができれば、チャンスが広がるはずだ」。ディノフ氏はこう説明する。


 後編は、医療分野で生成AIを活用する際のリスクを取り上げる。

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