「グラフデータベース」を新型コロナの接触追跡に活用 医療機関が挑戦Neo4jの導入事例

複数のデータの関連性を示すグラフ構造を持つ「グラフデータベース」は、新型コロナウイルス感染症の研究に役立つ可能性がある。ドイツの医療機関における事例を紹介する。

2020年10月05日 05時00分 公開
[Sean Michael KernerTechTarget]

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 世界中の研究者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の発見に向けて研究を進めている。研究者のさまざまな挑戦の中には、異なるデータの関連性を基に洞察を引き出そうとする取り組みがある。データの関係性を表す「グラフ」を使うデータサイエンスの手法(以下、グラフデータサイエンス)はこの研究で重要な役割を果たしており、研究者はさまざまな研究に関する情報やCOVID-19関連のデータをグラフ化できる。そこで活用されているのが、グラフ構造を持つデータベースである「グラフデータベース」だ。

 Neo4jは、同社の同名グラフデータベース管理システムを使用するプロジェクト「Graph4Good」を立ち上げ、COVID-19に関する研究者を支援している。Neo4jは核となるグラフデータベースにグラフデータサイエンスのライブラリやデータ可視化ツール「Neo4j Bloom」、プレミアムサポートなどを組み合わせたツールだ。

 グラフデータサイエンスはNeo4jにとっての最も重要なレイヤーであり、機械学習アルゴリズムとデータサイエンスのアプローチを組み合わせて、データの関係性を予測・分析する。グラフデータサイエンスの機能は、ドイツ糖尿病研究センター(DZD:Deutsches Zentrum fuer Diabetesforschung)のデータ・ナレッジ管理責任者であるアレクサンダー・ジャラシュ氏にとって特に興味深いものだった。

 DZDは糖尿病を中心としたさまざまな疾患を研究している。「糖尿病患者は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染とCOVID-19による死亡のリスクが高い」とジャラシュ氏は述べる。DZDはNeo4jのグラフデータサイエンスライブラリをまず糖尿病研究に用い、現在はCOVID-19の研究にも活用している。

画像 データ同士の関係性をグラフ化するNeo4jの画面例《クリックで拡大》

COVID-19の追跡にグラフデータベースを活用

 ジャラシュ氏によると、DZDがNeo4jを活用する最も重要な理由は、ある時点で複数のSARS-CoV-2感染が互いに関連し始めるためだ。ただし感染の追跡に必要な全てのデータがつながっているわけではない。同氏はドイツおよび世界中の科学研究データのほとんどが孤立している状況を指摘する。

 DZDはNeo4jを使用して、それまで関連付けられていなかった複数のデータソースの関連付けに挑んでいる。ジャラシュ氏によると、SARS-CoV-2に関しては4万以上の出版物のデータセットがある。同氏は、研究者がこれまで見つけられなかった、データセット間の新しい関連性を発見できることを期待している。その際にはあらゆる種類のデータサイエンスと同様に、データ品質が重要な課題となる。

 Neo4jのデータサイエンスのリードプロダクトマネジャーであるアリシア・フレーム氏によると、Neo4jのグラフデータサイエンスライブラリは、Neo4jのグラフデータベースに既に格納されているデータを使用して洞察を導き出す。「Neo4jに保存したデータを使用できる、機械学習ツールのようなものだ」とフレーム氏は説明する。

 フレーム氏は「COVID-19との闘いにグラフデータサイエンスライブラリを役立てることができる、重要な領域が見つかっている」と語る。そのうちの一つは、連絡先の追跡と感染者の全ての接点を特定することだ。

 米国ニューヨーク市のように人口密度の高い場所で、濃厚接触者の接点を追跡するのは難しい。こうした場所は、ほとんどの人が非常に多くの人々と接点を持っているためだ。「ニューヨークの医療機関にとって、人員や医療リソースの割り当てと予測は特に重要なニーズであり、グラフデータサイエンスが役立つ」とフレーム氏は話す。

 特定の医療機関が過負荷状態になる可能性が高い時期を判断し、適切な代替施設を推薦するために、複数のデータの類似性を検出するアルゴリズムが役立つという。フレーム氏によると、こうしたアルゴリズムを使用することで「この医療機関は過負荷状態になっている可能性が高いので、代わりにこの医療機関を推薦します」といった助言を提供できるようになる。

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