新薬開発で多くの製薬企業が直面している課題の1つが治験参加者の確保だ。過去に実施された治験のデータ再利用がその解決策となり得る。過去の治験データ活用が臨床開発現場にもたらすインパクトとは。
クラウドに蓄積され続ける膨大なデータ。今、そうしたビッグデータをいかに活用するかが、さまざまな分野で問われている。医療分野での新薬開発への応用例の1つが、臨床試験を実施する医療機関選びの効率化だ。
新薬の臨床試験(注1)が現在直面している大きな課題の1つに、その試験の条件に合う患者がなかなか集まらず、予定している症例数を満たすのに時間がかかるという問題がある(場合によっては症例が1つも集まらない施設もある)。一方で、医療施設が治験に参加してもらうための準備には手間やコストも生じる。
過去に実施した治験から収集したビッグデータを活用することで、どの施設にどの疾患領域の患者が来院しているのかを知ることができる。実績データに基づいた施設選定ができるため、業務の無駄を省き、症例登録の期間を短くする可能性がある。どの施設が迅速にデータを入力しているのか、間違いが少なく品質の高いデータを収集しているのはどの施設なのかも把握できる。こうして治験の期間を短くし、データの質を高めることで、生産性の高い臨床開発(注2)が可能となり、成功の確率を高める可能性がある。
※注1:患者や健康な人に対する「治療を兼ねた試験」のこと。新薬開発を目的とする「治験」の他に、新薬開発に限らず、薬の効果を追跡調査したり、既存薬の別効能を調査・確認したりすることをも目的とする「臨床研究」でも臨床試験を実施することがある。
※注2:医薬品候補(薬剤など)を、実際に患者や健康な人に投与することで安全性と有効性(効果)を確かめ、そのデータをエビデンスとして厚生労働省に申請し、新薬として製造・販売の承認を得るまでの開発過程のこと。
上記の実現を支援する技術やサービスは、既に存在する。Medidata Solutions(以下、メディデータ)が提供する「Edge Feasibility」というクラウドサービスが、その一例だ。臨床試験を計画している疾患領域や試験の段階などを入力すると、過去に実施した臨床試験のデータを基に、臨床試験の組み入れ条件に合う患者がどの医療機関(施設)に多かったのか、あるいは質の高いデータを収集している施設はどこなのかを一覧表示できる。
同社以外にもさまざまなベンダーがビッグデータを活用して、新薬開発を支援する技術やサービスを提供している。厚生労働省も「MID-NET」という、電子カルテデータやレセプトデータなどの医療情報を大規模に収集・解析するためのデータベースを構築し、2018年4月に本格運用を開始した。これにより患者数の把握などによる市場調査や、臨床試験への効率的な患者の組み入れを目指している。
過去の治験で蓄積したデータは、さらに臨床開発の既存プロセスを大きく変える可能性を秘めている。そのことを具体的にイメージできる例として、2017年6月に米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された「Synthetic Control Arm(合成対照群)」が挙げられる。これは、比較試験における「対照群」、つまり臨床試験で医学的介入をしない群を仮想的に(過去のデータに基づいて人工的に)作る手法だ。このような手法は、以前から検討されていたものの、データが不十分であったことやコンピュータ技術が発達していなかったことなどから実現できていなかった。
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