新薬開発の分野においても、スマートフォンやウェアラブルデバイスは重要なツールだ。これらを活用して治験参加者の負担を減らし、治験に参加しやすい環境を提供する取り組みが進んでいる。
2008年7月には「iPhone」の国内販売が始まり、2009年には国内初のAndroidスマートフォンが登場した。以後、スマートフォンは爆発的に普及し、いつの間にか私たちの生活に欠かせない“日用品”となった。それどころか、今ではインターネットへの入り口として、PC以上に身近な存在となりつつある。スマートフォンと連携して、歩数や距離、消費カロリーなどの活動量、心拍数、睡眠サイクルなどを測定・収集するウェアラブルデバイスも、健康志向の高まりとともに普及し始めている。こうした中、スマートフォンを中心とするモバイルデバイスを新薬開発に生かそうとする動きが活発化し始めている。
新薬の開発に当たっては、開発中の薬の効果や安全性を人体で確認する臨床試験(注1)が欠かせない。一方で、臨床試験に参加する患者(被験者)の人数確保および質の高いデータ収集が、臨床開発(注2)に関わる者にとって大きな課題となっている。
※注1:患者や健康な人に対する「治療を兼ねた試験」のこと。「治験」が新薬開発を目的とするのに対して、「臨床試験」の目的は新薬開発に限らない。臨床試験と呼ぶ場合は、新薬開発だけでなく、薬の効果の追跡調査や、既存薬の別効能を調査・確認するといった「患者や健康な人に対する治療を兼ねた試験」の全てを指す。治験は厚生労働省へ事前申請する必要があるが、臨床試験は多くの場合、厚生労働省へ事前申請する必要がない。
※注2:厚生労働省による承認前の医薬品候補(薬剤など)を、実際に患者や健康な人に投与することで安全性と有効性(効果)を確かめ、資料にまとめて厚生労働省に申請し、承認を得るまでの開発過程のこと。
例えば、被験者が臨床試験を実施する医療機関へ2週間に1回程度通い、生活や健康状態、治療内容について自ら記録した「被験者日誌」を紙ベースで提出し、診察や検査で身体の状態を確認される、という臨床試験があると仮定しよう。この場合「実施医療機関が住居から遠い」といった理由で、参加したくてもできない被験者が生じる可能性がある。日誌の記入方法がユーザーフレンドリーではないため、被験者が記録を負担に感じることもあるだろう。うっかり記録を付け忘れて、後で思い出して記入することもあるかもしれない。これらの懸念点を解決できないと、臨床試験データの品質低下を招く恐れがある。データの品質は、試験の成否を左右する重要な要素だ。
そこで注目を集めているのが、スマートデバイスやウェアラブルデバイスなどから健康に関わる情報を直接収集するモバイルヘルス(mHealth)の技術だ。ベンダー各社は、被験者のためにオンライン入力や遠隔モニタリングなどのツールを提供している。製薬企業はmHealthを介して収集したデータを自社データベースに追加・統合し、被験者の負担を減らしながら臨床データの質を高める取り組みを進めている。
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