新薬開発における症例報告データ収集に使う「EDC」(電子的データ収集)システム。近年はクラウドで動くEDCシステムが登場し、新薬開発プロセスの効率化に貢献している。
インターネットとクラウドサービスの台頭により、インターネットに接続しさえすれば、いつでもどこにいても多彩なアプリケーションを利用できるようになった。この新たなテクノロジーの波はビジネスのさまざまな領域に押し寄せ、業務を効率化してきた。
クラウドテクノロジーは、臨床開発(注1)の領域にも変革をもたらそうとしている。臨床開発期間を短縮し、データの正確性と透明性を向上し、クラウドサービスが新薬の市場投入という分野においても重要なテクノロジーとして医療関係者の注目を集めているのだ。
人類は、病気と戦ってきた長い歴史を通じて衛生観念と医療インフラを発達させ、病気を制するための医薬品を開発してきた。一方で、いまだに治療法のない病気も少なからず存在する。環境や社会の変化によって新たな病気の定義が生まれることもある。それらを治療できる新薬の創出は、いつの時代も世界的な課題であり、こうした課題をITによって克服しようという動きが加速している。
※注1:厚生労働省による承認前の医薬品候補(薬剤など)を、実際に患者や健康な人に投与することで安全性と有効性(効果)を確かめ、資料にまとめて厚生労働省に申請し、承認を得るまでの開発過程のこと。
新薬は一朝一夕にできるものではない。図1に示すように多くのプロセスを経て新薬は世の中に登場する。
1つの新薬が誕生するまでには、膨大なコストと時間がかかる。日本製薬工業協会の試算(注2)によれば、基礎研究から販売までにかかるコストは数百億から1000億円、期間は約9〜17年、開発に成功する確率はたった3万分の1未満だという。開発コストは約26億ドル(約3000億円)にも及ぶ、という報告(注3)もある。
※注2:2015年5月日本製薬工業協会資料「革新的新薬の創出に向けて」。
※注3:2014年11月Tufts Center for the Study of Drug Development資料「Cost of Developing a New Drug」。
臨床開発においては、いかに開発コストを下げ、開発期間を短縮し、成功確率を高めるかが問題だ。製薬業界にとっても、有効な治療法を待ち望む患者にとっても喫緊の課題となっている。
こうした課題を解決するには、ITによる臨床開発業務の可視化や効率化、データの利活用が役に立つ。「Electronic Data Capture」(EDC:電子的データ収集)システムは、その具体的なテクノロジーの1つだ。
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