規制緩和でリスクが増大
新型コロナ禍で医療従事者の自宅PCがサイバー攻撃の標的に 対策は?
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、米国の医療機関は医療従事者の在宅勤務体制を整えつつある。一方で医療従事者の自宅用PCが攻撃された場合、医療システムへの侵入口となる恐れがある。どう対処すべきか。
医療従事者が自宅から患者を診察し、Microsoftの「Skype」やAppleの「FaceTime」といったコンシューマー向け音声通話ソフトウェアを使えるよう、米国政府は規制を緩和した。この措置の狙いは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大を阻止するため、医療従事者と患者をできる限り自宅にとどまらせることにある。しかしこの措置は、サイバー攻撃者にとっての医療システムへの侵入口が増える要因となる。
新型コロナウイルスの流行前から、ヘルスケア業界は攻撃されることが最も多い業界の一つだった。医療サイバーセキュリティ企業CynergisTekのプレジデント兼CEO、カレブ・バーロウ氏によると、この業界がデータ流出の検出と解決のために出費しているコストは、流出1回当たりの平均で約650万ドルだという。新型コロナウイルス感染拡大の渦中にあるヘルスケア業界は、これまで以上に脆弱(ぜいじゃく)な状態にある。このためサイバー犯罪集団はヘルスケア業界を狙う大規模攻撃の準備をしている可能性がある。
「現在の攻撃者の立場になって考えてみると、今は攻撃を開始すべき時ではない。攻撃者はシステムに侵入し、攻撃のタイミングを見計らっているところだ」とバーロウ氏は見る。
医療機関は、現時点ですでにフィッシングなどの攻撃に見舞われている。医療機関の最高情報責任者(CIO)や最高情報セキュリティ責任者(CISO)は、ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)も含めた、さらに巧妙な医療サイバー攻撃の到来に備える必要があるとバーロウ氏は警告する。「悪い相手に『今はやめて』と懇願しても無駄だ。やって来るものに備えなければならない」(同氏)
コロナ禍で医療従事者を狙う攻撃者
医療グループChristianaCare Health SystemのCISOを務めるアナヒ・サンティアゴ氏は、新型コロナウイルス危機の中で、医療システムへの侵入を試みることを目的として、攻撃者が信頼できる相手を装って医療機関の従業員をだまし、認証情報を開示させようとするソーシャルエンジニアリング攻撃が急増していると指摘する。
サンティアゴ氏によると、ChristianaCare Health Systemは組織に対するフィッシング攻撃を防止するセキュリティツールを従業員に提供している。ただし従業員の自宅のコンピュータに、勤務先と同じセキュリティ対策が実装されているとは限らない。
攻撃者は新型コロナウイルス感染状況を表す世界地図を使って不正なWebサイトを開設し、そうしたWebサイトにエンドユーザーを誘い込み、知らないうちにマルウェアをダウンロードさせようとすることもある。悪質なWebサイトは医療機関が導入したセキュリティツールでブロックできる可能性はある。ただし医療従事者の自宅が、勤務先の医療機関と同じような形で保護されているとは限らない。
ChristianaCare Health Systemはセキュリティベンダーと連携して、フィッシング攻撃やソーシャルエンジニアリング攻撃に対して医療従事者の意識を高め、自宅でも警戒してもらえるようにコミュニケーションを図っている。
医師が遠隔で患者の診察や治療ができるように規制が緩和されることは、攻撃者にとっては医師の自宅のネットワークが攻撃対象になり、ここから医療システムに不正アクセスするチャンスが増えることを意味する。このような状況下で、CIOやCISOは医療システムが不正侵入された場合を想定した計画を立てておく必要があるとバーロウ氏は提案する。
テキサス大学オースティン校(University of Texas at Austin)のデルメディカルスクールでCIOを務めるアーロン・ミリ氏は、医療機関が継続的な攻撃に遭い、警戒を続けているという話を聞いたことがあると語る。「どんな状況であれ攻撃者は付け入ろうとする。残念だが、世界はそのような状況にあり、それが現実だ。だからわれわれは常に目を光らせている」(ミリ氏)
サイバー攻撃に備えるには
バーロウ氏によれば、自宅で働く医療従事者のセキュリティ対策のために、医療機関のセキュリティチームが講じられる手段は幾つかある。
1つ目は、医療機関が適切な「VPN」(仮想プライベートネットワーク)を導入し、正しく設定することが重要だ。VPNは、セキュリティが手薄なLAN内のデバイスと、医療機関のLANとの間の安全な接続を可能にする。
2つ目は、各医療従事者に自宅用コンピュータのセキュリティ対策を徹底させることだ。これは「エンドポイントセキュリティ」とも呼ばれる。エンドポイントセキュリティは、デバイスが病院のネットワークに接続する前に、一定のセキュリティ基準を満たせるようにする。
3つ目は、医療システムが不正侵入されたり、ランサムウェア攻撃に見舞われたりした際にどう対処すべきかが分かるよう、計画を立てておく必要がある。この計画には、医療機関の上層部が在宅勤務している状況も組み込む必要がある。
もしランサムウェア攻撃に見舞われた場合、それにどう対処するのか。IT部門の全員を招集できない時にどうするのか、どのように意思決定するのか、誰と連携するのか――。「そうした計画を最新の状態にしておく必要がある」とバーロウ氏は話す。
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