医療業界はクラウド利用に期待と懐疑の目
医療の標準規格「FHIR」普及に向けAmazon、Microsoft、Googleなど大手6社が共同声明
Amazon、Microsoft、Google、IBM、Oracle、Salesforce.comという大手テクノロジー企業6社が、医療情報の相互運用性の取り組みを支援する共同声明を発表した。これは相互運用性を確立する後押しになるかもしれないが、全く役に立たない可能性もある。
国際HL7協会(Health Level Seven International)が策定した、医療情報の共有を目的とした標準仕様である「FHIR」(迅速な医療情報相互運用のためのリソース:Fast Healthcare Interoperability Resources)をベースにしたAPI「Blue Button 2.0」に関するカンファレンスが2018年8月13日にホワイトハウスで開催され、大手テクノロジー企業6社が共同声明に署名した。その声明で、6社は特にクラウドとAI(人工知能)技術に重点を置き、医療分野における相互運用性を実現することに合意した。
共同声明に署名したのはAmazon、Microsoft、Google、IBM、Oracle、Salesforce.comだ。Blue Button 2.0のような業界標準として確立しているAPIを使用し、摩擦のない相互運用性を実現するという目標を定めた。Blue Button 2.0は、メディケア(高齢者と体が不自由な人を対象とした米国の公的医療保険制度)向けのAPIだ。
6社はあらゆる医療関係者を巻き込み、妥協せずに継続的な対話を目指すことを示した。医療関係者には保険者から患者、アプリケーション開発者までを含む。
FHIR標準の推進
医療データを容易に利用できることを望む患者からの要求が、かつてないほど高まっている。そうした中で今回の共同声明が発表された。大規模病院は患者からの要望に応えて、FHIR標準のAPIをベースにしてデータ共有の方法を改善しようとする新たな取り組みを進めてきた。だが、テクノロジーの革新や相互運用性に関して、医療業界が他の業界に大きく後れを取っていることは広く知られている。こうした中で、大手テクノロジー企業がコンソーシアムを組み、FHIR標準の普及を推進しようとする今回の計画は、一部から温かく受け入れられた。だが一方で懐疑的な見方もある。
この声明で印象的なのは、クラウドの使用を明確に宣言していることだ。大部分の医療機関はセキュリティからコストまでさまざまな理由でクラウドの利用を避けている。調査会社KLAS Researchが発行した2017年の報告書によれば、病院の31%が「クラウドの取り組みを拡大しない」あるいは「クラウドに移行しない」予定であることが明らかになっている。米国診療情報管理協会(AHIMA:American Health Information Management Association)のキャシー・ダウニング氏は、インタビューの中で「クラウドは実のところ、もろ刃の剣だ」と話している。クラウドを使えば、一部の小規模な医療機関が実現できる環境よりも安全な環境を実現できる可能性がある。だが、相互運用性でクラウドが中心的な役割を果たすという確信はダウニング氏にはない。「この相互運用性を求める取り組みにクラウドが本当に関係するのかどうかは分からない。保護措置(セーフガード)についてじっくり考え、あらゆる側面を評価する必要がある。これは『オンプレミスとクラウドのどちらがいいか』という問題よりも重要だ」(ダウニング氏)
「大手テクノロジー企業の注目を集めることは医療業界にとっては明るい兆しだ」と、KLAS Researchのコーレイ・テート氏は語る。だが、この取り組みが機能するには市場の存在が欠かせない。「医療業界は山の麓に立っている。最初の歩みはとても簡単だ。だが、長期的な登山を支えるビジネスの実例が市場から出てくるかどうかは分からない」(テート氏)
そうした事例が存在しない可能性もある。「テクノロジー企業6社で構成されるこのグループは、ほとんどの病院と重要な意味での関わりがない」。こう語ったのは、医療マーケティング会社Chilmark Researchのジョン・ムーア氏だ。同氏は次のように続ける。「これらの企業は巨大で影響力も大きい。だが、医療業界においてこのグループの存在はかなり異質だ。結局のところ、重要なのは各医師のワークフローがどのようになっているかだ。そのワークフローの中にこれらの企業は入っていない。テクノロジー企業が相互運用性の問題をどのように解決できるのだろうか。さらに問題を複雑にしているのは、ほとんどの病院が競争相手になる病院と患者データを共有するのを望んでいないことだ。むしろ、病院は患者自身に直接的な責任を負ってもらうことを選んできた」
テクノロジーによるサポートは素晴らしい可能性を秘める
「全関係者が慎重に進めるのであれば、大手テクノロジー企業から注目されるのは幸運と捉えるべきだ」。こう主張する医学博士のスタン・ハフ氏は、医療システム企業Intermountain Healthcareのチーフメディカルインフォマティクスオフィサーと、FHIR標準のAPIを開発した臨床情報モデリングイニシアチブ(CIMI:Clinical Information Modeling Initiative)の共同議長を務める。「今回のテクノロジー企業6社の共同声明が重要なのは、FHIR標準に対する信頼をもたらし、FHIR標準に関連する開発への投資を促すからだ。私としては、このグループと既存の組織との連携を後押ししたいと考えている。例えば、HL7、国家医療IT調整室(ONC)、HSPC(Health Services Platform Consortium)、CIIC(Clinical Information Interoperability Council)などの組織との連携だ。全ての組織でFHIR標準が同じ方法で導入されるようにすれば、いつか本当の意味での相互運用性が実現する」(ハフ氏)
この共同声明では今後の計画についての詳細をほとんど示していないが、オープンソースコミュニティーを含めた関係者全員を巻き込む必要性が強調された。「業界へのさらなる影響を把握するための具体的な計画を聞くには少し待つ必要があるだろう」とハフ氏は述べる。
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