「電子健康記録」(EHR)、「電子医療記録」(EMR)、「個人健康記録」(PHR)は、いずれも患者の医療データという点では同じだが、活用方法やデータの共有範囲、管理主体に違いがある。
「電子健康記録」(EHR:Electronic Health Record)はデジタル版の個人医療データだ。米国の場合、認可を得た複数の医療機関がデータを収集、管理し、医療機関の間でデータを交換できる。これは長期記録とも呼ばれ、1回の診察や来院で得た情報ではなく、ある一定の期間にわたって集めた情報から構成される。EHRには基本属性データや医療記録の他、検査データ、放射線診断データ、薬剤データなどの臨床記録が含まれる。
さらにEHRシステムは、「個人健康記録」(PHR:Personal Health Record)サービスを使って自身の電子記録の一部にアクセスする手段を患者に提供する。これにより患者はセキュリティが確保されたWebポータルを利用して、検査結果などの情報を表示できる。
本稿はEHRとPHR、そして「電子医療記録」(EMR:Electronic Medical Record)を取り上げ、それぞれの違いを整理する。
医療業界ではEHRとEMRを区別しないで使うことが多い。だが実際のところ、これらは法的分野では意味が異なる。
EMRは医療機関が長い間使ってきた一般名称で、電子化した患者記録を指す。長年にわたり、医師や病院は自身の業務を改善するためにさまざまなEMRシステムを独自に導入している。基本的には、紙のカルテを電子記録に置き換えたものがEMRだ。
米国保健福祉省(HHS)の医療研究品質庁は、EMRの大まかな意味を「病院や診療所など、1つの機関内において患者の健康情報を保持する一連のデータベースから抽出した記録」と定義している。一般的にEMRは、診断や治療に使用する情報を含む。
EMRシステムは医療機関の間で広く普及している。ただし異なる医療機関のEMRシステム同士が相互運用できるとは限らない。つまりEMRは患者に追従せず、他の医療機関とデータを共有できない場合がある。
前述のようにEHRとは、さまざまな施設が長い期間をかけて作成してきた患者のEMRデータの集合体を、医療機関の間で共有可能にしたものを指す。EMRとは異なり、EHRは診断や検査の結果など患者の医療記録を広い意味で捉えており、患者が医療機関を変えても追従できる。ただし医療機関がEHRシステムでデータにアクセスするためには、他のEMRシステムと相互運用可能なEMRシステムを備えている場合に限られる。
EHRのデータ共有要素は、EMRシステムがもたらす問題とは別に、プライバシーやセキュリティに関する問題を引き起こす。EMRとは異なり、EHRには医療データを国家全体にわたって関連付け、データ収集から共有、報告をしやすくするための支援戦略が背景にある。その戦略を主導するのは政府だ。
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