0.5歩先の未来を作る医療IT
「オンライン診療」普及を後押し 2020年度診療報酬改定の必修ポイント
2020年度の診療報酬改定ではオンライン診療の要件が緩和されるなど、医療機関のIT活用に影響するポイントが幾つかあります。押さえておくべき主要なポイントをまとめました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う緊急事態宣言が、2020年5月25日に全国で解除となり、ひとまずは日常の経済活動の再開に向けて新たな第一歩を踏み出すことになりました。しかし世界的にはいまだ新型コロナウイルス感染症は猛威を振るっており、わが国でもいつ第2波がやって来てもおかしくない状況です。予断を許さない状況が続くことは間違いなく、最近では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)との共存を指す「ウィズコロナ」という新しい時代を象徴するキーワードを目にする機会もあります。
政府は感染拡大を防ぐ行動変容を促すための機軸となる「新しい生活様式」という指針を提示しました。この生活様式を、医療機関の受療行動に当てはめることで、医療機関が今後進むべき道が見えるのではないでしょうか。新しい生活様式に基づき、いわゆる「3密」(密閉、密集、密接)を避ける対策の徹底が求められる医療機関にとって、オンライン診療に代表されるIT活用は必要不可欠になっています。
2020年度の診療報酬改定がオンライン診療にもたらす影響
新型コロナウイルス関連の騒動でどこか遠い昔のことのように感じますが、診療報酬は2020年4月に改定されたばかりです。2020年度の診療報酬改定(以下、2020年改定)は、働き方改革とIT活用という時代の要請を受けた内容がかなり盛り込まれています。
2018年度の改定に続き、2020年改定では診療報酬における「ITの利活用」の新たな評価項目が加わりました。最新技術を医療に取り込むことで医療の質の向上と業務効率化を進めることが目的ですが、まるで「ウィズコロナ時代においてはITの利活用が重要になる」という予測の下に改定されたかのようです。
Web会議やビデオ会議の活用
2020年改定では、医療機関における会議(カンファレンス)実施時のIT活用が評価対象になりました。以前は原則的に対面で会議を実施し、やむを得ない場合に限りITツールの活用を認める方針でした。改定後は安全管理委員会などの院内会議で、ITツールによる会議参加が認められました。院内会議だけでなく、「退院時共同指導」におけるITツールの活用も評価対象になっています。
新型コロナウイルス対策で外出自粛が求められる中、テレワークが一般化し、対面の会議はWeb会議に置き換えることが当たり前になりつつあります。医療業界においても診療報酬の改定によって、会議時のIT活用を推進する動きが目立っています。
オンライン診療の要件緩和
2018年度の診療報酬改定で新設された「オンライン診療料」は、2020年改定で実施要件が見直しとなりました。オンライン診療は実施前に一定期間の対面診療をしてから始めないと保険適用にならないルールがあります。2020年改定では、この対面診療の必要期間が6カ月から3カ月に短縮されました。緊急時の対応についても「30分以内」という時間的要件が外されました。対象患者は、定期的に通院が必要な「慢性頭痛患者」に加え、「在宅自己注射指導管理料」を算定する糖尿病や慢性肝疾患、慢性ウイルス肝炎患者が追加となっています。
従来の遠隔医療の観点を重視し、診療報酬の算定可能なケースを追加した改定もあります。「へき地、医療資源が少ない地域に属する保険医療機関」において、医師の急病で代診を立てられないといったやむを得ない事情や、二次医療圏内(注1)の他の保険医療機関の医師が初診からオンライン診療を実施するケースについて、オンライン診療料が算定できるようになりました。
※注1:医療圏とは、都道府県が医療提供体制を作るために設定する地域単位。一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏の3種類がある。二次医療圏は、予防医療や入院治療など一般的な医療を提供する区域で、複数の市区町村を組み合わせて設定する。
オンライン在宅管理料などの要件緩和
オンライン在宅管理料と精神科オンライン在宅管理料についても要件が見直しとなりました。オンライン診療料と同様に、事前の対面診療の期間は6カ月から3カ月に短縮しました。「連続する3カ月は算定できない」という要件も撤廃し、要件を満たしていれば毎月算定できるようになりました。オンライン在宅管理料については「月1回の訪問診療」に限定されていた要件も「月1回以上の訪問診療」に変更となっています(精神科オンライン在宅管理料にはこの要件はありません)。「対面診療と同一医師が対応する」という要件も一部緩和し、次の条件が加わりました。
ただし、在宅診療を行う医師が、同一の保険医療機関に所属する5人以下のチームで診療を行っている場合であって、あらかじめ診療を行う医師について在宅診療計画に記載し、複数医師が診療を行うことについて患者の同意を得ている場合に限り、事前の対面診療を行っていない医師がオンライン診療による医学管理を行っても差し支えない。
外来よりも在宅医療に関して緩和された要素が大きいことを見ると、在宅医療のオンライン利用を進めたいという政府の考えがあるものと考えられます。
かかりつけ医と連携した遠隔医療の評価
てんかんや指定難病など、希少疾患や高度な専門性を必要とする疾患に対してオンライン診療を実施することを評価する「遠隔連携診療料」が新設されました。一般的にこうした疾患を扱える専門医療機関は多くありません。患者が日常的に相談しやすい近隣のかかりつけ医の元で、遠隔地の専門医療機関がオンライン診療を実施するのは受診のハードルを下げ機会を増やすという点でメリットがあります。この点数は診断をするまでの間に「3カ月に1回限り」算定でき、診療報酬の請求は「対面による診療をしている保険医療機関」が実施します。報酬の分配は相互の合議に委ねることになっています。
ITを活用した栄養指導、禁煙外来、服薬指導
外来と在宅における栄養食事指導を評価する「外来栄養食事指導料」は、2回目以降の指導について「オンラインによる指導」の実施が認められました。「ニコチン依存症管理料」についても、全5回のうち2回目から4回目にオンライン指導の評価が新設されました。そして2019年の薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)改正を受けて、ITを用いた服薬指導(オンライン服薬指導)が、対面による服薬指導の例外として認められることになりました。
時限措置で初診から電話・オンライン診療が解禁
新型コロナウイルス感染症の拡大に対処するため、厚生労働省は時限的・特例的に初診時のオンライン診療を容認することを決定し、具体的な取り扱いを定めた事務連絡を2020年4月10日に全国送付しました。これにより、音声通話やビデオ通話のためのITツールを用いた診察や処方、服薬指導が「初診」から実施可能になりました。
従来の制度でオンライン診療が可能なのは再診のみでした。音声通話やビデオ通話による診療は患者の情報把握に限界があり、初診で実施するのは大きなリスクがあると考えられていたためです。今回は時限的な措置ですが、初診からのオンライン診療が解禁されたことになります。
この措置を受けて、初診でオンライン診療によって診断や処方をする場合は、初診料の214点を算定することが可能になりました。その際に医薬品を処方し、FAX(ファクシミリ)などの通信手段で処方箋情報を送付する場合は、処方料や処方箋料を算定できます。薬局においても、ITツールを使ったオンライン服薬指導ができるようになりました。
新型コロナウイルスによる外圧が、医療現場にIT活用と変革を求めている
初診時のオンライン診療を容認する今回の措置は、新型コロナウイルスのクラスター(小規模な患者の集団)感染が医療機関で相次ぎ報告されていることを重く見てのことだと考えられます。患者を守り、医療スタッフを守り、医療機関を守るという観点から、厚生労働省は一時的とはいえ大きな決断をしたと言えます。
医療ITをめぐる2020年度改定、そして新型コロナウイルス対策のための緩和制度は、医療現場に新たな変化をもたらそうとしています。ウィズコロナ時代に向けてITを活用することこそ、医療機関を守る策だと考えて、大いに活用してほしいと考えます。
著者紹介
大西大輔(おおにし・だいすけ)MICTコンサルティング
一橋大学大学院経営学修士(MBA)コース修了。医療コンサルティング大手に入社。2002年に医療IT機器の常設展示場「MEDiPlaza」を立ち上げ、企画運営、スタッフ指導、拠点管理などを担当。2016年10月に医療ICT専門コンサルタントとして独立し、MICTコンサルティングを設立。医療機関向けシステムの開発アドバイス、導入アドバイス、医療IT人材の育成などを行う。過去2000件を超える医療機関へのシステム導入の実績から、公的団体を中心に講演を多数実施している。現在、医療事務・クラーク専門学校の非常勤講師も務めている。
このコラムについて
医療機関のIT化は他の業界に比べて5~10年は遅れているといわれます。また、医療現場でIT製品を導入する際、スタッフから不安の声が上がるなど、多かれ少なかれ障害が発生します。なぜ、医療現場にITが浸透しないのか。その理由を探るとともに、解決策を考えていきます。
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