300億円の「医療情報化支援基金」は電子カルテ普及と標準化の追い風になるか0.5歩先の未来を作る医療IT

「地域包括ケアシステム」の真価を引き出すためにも医療情報の共有は不可欠です。しかし電子カルテの標準化は長期戦の様相を呈しています。300億円の「医療情報化支援基金」は、この現状を打破できるのでしょうか。

2020年02月04日 05時00分 公開
[大西大輔MICTコンサルティング]

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 日本では長らく医療情報の標準化の必要性が叫ばれていました。その声を受けて厚生労働省は「保健医療情報分野の標準規格」(以下、厚生労働省標準規格)を定め、病名や医薬品名、臨床検査項目名、データの形式、データの伝達方法などを整備して標準化を積極的に推進してきました。

 厚生労働省標準規格を利用するメリットが大きいことは、医療関係者であれば誰もが理解しているはずです。にもかかわらず、いまだに電子カルテをはじめとする医療情報の連携は困難なままです。地域における情報共有ネットワークも地域ごとに構築する試みにとどまっています。

 電子カルテの買い替えについても、旧システムから新システムへのデータ移行はスムーズにいかないことが珍しくないために、高いハードルがあります。電子カルテは20年以上前に誕生し、それ以来多くのベンダーが登場しましたが、各ベンダーが独自に製品開発を進めてきたために、なかなか標準化が進んでこなかった背景があります。

 厚生労働省を中心とした標準化推進事業「厚生労働省電子的診療情報交換推進事業」(SS-MIX:Standardized Structured Medical record Information eXchange)が策定した医療情報の交換・共有のための規格「SS-MIX」と、その発展形である「SS-MIX2」を基にして、地域連携に必要なデータを標準形式で抽出して交換するプロトコルも存在します。主要な電子カルテベンダーはこれらの仕様を製品に取り入れていますが、いまだに情報共有もデータ移行も難しいのが現実です。

 こうした状況の中、医療情報の標準化は果たして進んでいくのでしょうか。厚生労働省が2019年9月にまとめた資料を基に考察します。

データヘルス改革

 日本は世界に先駆けて超高齢社会となり、早急に医療・介護分野の問題解決に取り組む必要があります。そこで2017年、厚生労働省は「データヘルス改革推進本部」を設置し、健康、医療、介護分野のデータ整理と利活用についての議論を繰り返してきました。具体的には、

  1. ゲノム医療、人工知能(AI)技術活用
  2. 自身の医療データを日常生活の改善につなげる「個人健康記録」(PHR)
  3. 医療・介護現場の情報利活用
  4. データベースの効果的な利活用

といった4分野の推進を目指し、データヘルス改革に取り組んでいます。

 厚生労働省は2019年9月9日に公開した資料「今後のデータヘルス改革の進め方について(概要)」で、前述の4分野の未来像を提示しています。例えば「医療・介護現場の情報利活用」については、患者の過去の医療情報を医療・介護現場で適切に確認できるようにすることで、より質の高いサービス提供が可能になることを例示しています。このことが国民や現場にもたらすメリットとしては、

  • 過去の診療記録を参照して、全国どこでも安心して最適な医療や質の高い介護を受けられる
  • 重複投薬の削減が期待できる
  • 介護事業所のIT化によって介護従事者の負担が軽減される

などを挙げています。

取り組みを加速させるための方策

 今後の取り組みを加速させるための方策として、厚生労働省は同資料で以下の項目を挙げています。

  • 保健医療情報を全国の医療機関で確認できる仕組みの推進
  • 薬剤情報、特定健診などの情報について、医療保険のオンライン資格確認の基盤を活用して、全国の医療機関で確認できる仕組みの稼働
  • その他のデータ項目に関する運営主体や費用負担の在り方の検討と工程表の策定
  • 電子カルテの標準化の推進と医療分野における標準規格の基本的な在り方の検討
  • 電子処方箋の本格運用に向けた検討
  • 介護事業所のIT化の推進と医療・介護情報連携に必要な標準仕様の作成、普及

「医療情報化支援基金」が電子カルテに与える影響

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