「病院がAIを使いたくない理由」はこれだ 医療従事者への調査で明らかに医療現場で活躍する「AI」の役割【第4回】

AI技術は医療にとってメリットがあるが、デメリットもある。具体的には、どのようなデメリットがあるのか。医療従事者への調査結果と専門家の意見を基に考察する。

2023年06月29日 06時15分 公開
[Mary K. PrattTechTarget]

 人工知能(AI)技術を利用することで、医療機関は正確な診断や効果的な治療計画を実現できる――。マサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)で人工知能(AI)の研究を手掛けるアマル・グプタ氏は、そう考えている。AI技術を活用して医療を迅速に提供することで「患者の体験とアウトカム(医療行為に対する成果)を総合的に改善できる」とグプタ氏は主張する。

 医療におけるAI技術の利用にはデメリットもある。医療機関がAI技術を利用する上での課題とは何なのか。

医療機関が「AI」にうんざりする理由はこれだ

 まず挙げられるのは、システム導入における問題だ。AI技術の導入に伴うコストが導入の妨げになる可能性がある。MITの出版部門MIT Technology Review Insightsと、GE(General Electric)グループでヘルスケア事業を担うGE Healthcareの調査レポート「AI Effect」によると、回答者の57%が「既存のシステムに、AI技術を活用したアプリケーションを連携させるのが困難だった」と答えている。この調査はMIT Technology Review InsightsとGE Healthcareが共同で2019年に実施。調査対象は米国および英国の医療従事者および医療機関の職員908人だ。

 データのプライバシーの懸念もある。患者のプライバシー保護との兼ね合いによって、AI技術が編み出す結果の正確さや偏り、信頼性に不安が生じる可能性がある。

 医療情報管理システム学会(HIMSS:Healthcare Information and Management Systems Society)でバイスプレジデントを務めるジュリアス・ボグダン氏は、AI技術は内部構造を把握しにくい「ブラックボックス」だと受け取られがちなことを課題に挙げる。「ブラックボックスは信頼できないという考え方がある」ボグダン氏は指摘。こうした考え方は変わりつつあるものの「依然として障害ではある」と語る。

医療現場におけるAI技術の未来は?

 課題や懸念はあるものの、医療機関も、IT専門家も「医療におけるAI技術の活用は、今後も拡大する」とみる。例えば近い将来、感情を分析するAI技術を患者のケアに応用する可能性が考えられる。これが実現すれば、医療従事者が精神医療や保健指導などを提供する際に役立つ。神経内科医や理学療法士が、AI技術を使って患者の動作や姿勢を測定し、神経学や生理学の観点から障害を診断したり、治療効果を追跡したりすることができる可能性がある。

 AI技術を搭載したシステムがいつの日か、医療従事者を支援するだけではなく、独自に診断を提供するようになる可能性がある。ただし専門家は、こうしたシナリオは何年も先のことだと考えており、慎重さとガバナンスの必要性を強調する。AI技術搭載システムが正確で信頼できるものであり、そうあり続けられるように、医療業界やITベンダー、規制当局が厳格なガバナンスを推進する必要がある。

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