COVID-19の影響で待機手術が相次いで延期となり、現在は「どのように再開するか」を検討する段階に来ている。手術の優先順位を評価する煩雑なプロセスを電子カルテに組み込んだ米国医療機関の事例を紹介する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)によって、米国医療機関は待機手術(注)を停止せざるを得なくなった。そして今は、患者の手術スケジュールを組み直すことが再び悩みの種になっている。
※注 事前に手術計画を立てて、全身状態を精査した上で実施する手術のこと。対義語は緊急手術。米国ではCOVID-19のパンデミックに対して外科系医学会が待機手術の暫定的な中止を推奨していた。
米国の医療グループValley Healthは、患者の待機手術をどのように再開するかを模索するために、まず紙ベースのスコアリングシステムを使用したという。具体的には手術を必要とする患者を手作業で評価し、優先順位を付け、スケジュールを組み直した。このプロセスは煩雑な上、時間もかかった。そうした状況を受けて米国の電子カルテ(EHR:電子健康記録)ベンダーのEpic Systems(以下、Epic)は、このスコアリングプロセスをデジタル化し、EHRに組み込むことにした。
Valley Healthの中心的存在である医療機関Winchester Medical Centerは、緊急の場合を除いて手術室を完全に閉鎖し、その後、安全に再開する方法を考えなければならなかった。「こうした状況を誰も経験したことはないだろう。Epicの担当者は、この珍しい状況のために独自のツールを考案してくれた」。Winchester Medical Centerで外科医長を務める医学博士のハワード・グリーン氏はこう説明する。
グリーン氏によると、Winchester Medical Centerは当初、シカゴ大学(University of Chicago)が開発した「MeNTS」(Medically Necessary, Time-Sensitive)という優先順位付けプロセスのスコアリングシステム(以下、MeNTSスコア)を導入し、待機手術のスケジュールの組み直しに着手した。
MeNTSスコアは、症例の種類、患者の医学的背景、人口統計情報などのデータを含む21個の要素を考慮して、各患者の数値スコアを算出する。Winchester Medical Centerがこのスコアリングシステムを導入した当初は、外科医が各患者の記入済みMeNTSスコアシートを手術室のスケジュール管理者にFAX(ファクシミリ)で送信し、スケジュール管理者がそのスコアシートをグリーン氏が監督する患者優先順位決定委員会に届けていた。グリーン氏が率いるこの委員会は、待機手術のスケジュール見直しに当たって医療機関に大きな負担が掛からないように、利用可能な病床数や担当スタッフを考慮しなければならなかったという。
当初は記入用紙を使用して、Zoom Video CommunicationsのWeb会議ツール「Zoom」を使って毎晩山のような書類を手作業で処理していた。委員会で書類を読み上げ、問題なく進められるかどうかを判断し、決定したスケジュールはWinchester Medical Centerで開発したスケジュールカレンダーに手書きした。だが「あまりに面倒だった」(グリーン氏)ため、Epicにこうしたプロセスのデジタル化を手伝ってもらうよう要請することになった。
EpicのツールによってMeNTSスコアのデータ収集が高速になり、判断効率が上がったという。患者の年齢など、患者のスコア付けに使用する情報の一部は既にEpicのEHRに入力済みだった。そのためEpicはそうした情報をまとめて、追加のMeNTSスコアデータをツールに読み込ませる方法を開発した。こうしてスコアリングのプロセスを自動化し、スコアリングを済ませた全ての患者をEHRに表示できるようになったことで、スケジュール組み直しプロセスの処理も速くなった。
グリーン氏は「Epicのツールのおかげで患者のMeNTSスコアと症例を即座に確認できた」と評価する。その上で、希望日に予定通り患者の手術が可能なことをクリックして承認したり、承認に当たって他の情報が必要かどうかを確認したりすることが可能になった。「手術スケジュールの管理者はこうした状況をいつでも確認できる」(同氏)
後編は医療グループDuke University Health Systemの事例を解説する。
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