医療機関CIOが新型コロナで直面する「最大の課題」とは?医療ITの課題は、業界そのものの課題

新型コロナウイルス感染症は米国の医療業界にどのような影響を及ぼしたのか。医療機関のCIOが優先して対処すべき課題は何なのか。専門家に話を聞いた。

2020年09月23日 05時00分 公開
[Makenzie HollandTechTarget]

 医療法人Intermountain Healthcareの元CIO(最高情報責任者)で、現在は医療ITベンダーELLKAYのCIOを務めるマーク・プロブスト氏によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)の影響で、医療のサービス提供に関するコスト削減のプレッシャーが高まっている。「その実現はCIOの肩にかかっている」(プロブスト氏)

 プロブスト氏によると、パンデミックによって医療業界のCIOが取り組むべき優先課題は変化した。医療業界のCIOは、革新的な技術の導入や古いITシステムの見直し、医療サービスの提供プロセス効率化を迫られているという。米国の医療業界が直面している課題について、同氏に詳しく聞いた。

―― 今回のパンデミックで、医療ITのどんな技術分野に注目が集まったのでしょうか。

プロブスト氏 医療サービス提供の継続性に重要な役割を果たしたのは、遠隔診療に関連する技術革新だ。遠隔診療のコンセプトは新しいものではないが、関連するさまざまな技術が進化している。遠隔診療に関連する支出はこれから増えていくだろう。今後は医療業界全体が「取りあえず遠隔診療を実現した」から「実用的で利用可能な遠隔診療が必要だ」という意識に変わらざるを得ないからだ。遠隔診療は注目度の高い分野であり、ますますイノベーションが進むと考えている。

 ITを医療に生かすデジタルヘルスケアの分野にも、注目を集める新技術が登場している。大勢の人の体温を測定する検温計や、人工知能(AI)技術を活用した感染者患者接触追跡システムもある。これらは断片的で、新しく、ニッチなものもあるが、その実力が目に見える形で現れている。こうしたイノベーションを推進するための投資は今後も続くだろう。大規模組織にはそれを可能にするだけの資金がある。

医療ITの「最大の課題」

―― パンデミックの影響により、医療業界のCIOはどのような課題に直面することになりますか。

プロブスト氏 医療ITの最大の課題は、医療業界の最大の課題でもある。それはコストの削減だ。「コストを削減しない」という選択肢はない。「遠隔診療を導入すれば、今までよりコストを削減できる」というレベルの話ではない。もっと大規模な、痛みを伴う医療提供コストの削減が必要だ。

―― 医療提供のコストを削減する上で、医療業界のCIOはどのような役割を担いますか。

プロブスト氏 それはCIOによって異なる。指示待ち型で技術的な仕事しかしないCIOなら、その役割は小さいだろう。だがCIOの仕事はそれだけではない。CIOはエグゼクティブチームの重要な一員であるべきだ。組織の総コストに占めるITコストの割合は膨大であり、ITは重要な役割を果たしている。私が見る限り、米国の医療機関のIT運用効率はあまり高くない。組織の中でそれほど注目されていないからだ。IT運用効率を高めるためにできることは、まだたくさんあるだろう。他の業界を参考に、効率化できる部分を探す必要がある。

―― IT運用を効率化するために、CIOは何から始めたらよいでしょうか。

プロブスト氏 他部門との緊密な連携が不可欠だ。例えば1つの組織で5種類のCRM(顧客関係管理)製品を使っていたら効率が悪い。他部門と話し合って1つの製品に統一する必要がある。統一するには元手が必要だ。統一によるコスト削減効果を他部門やセキュリティ部門に説明し、理解と協力を得なければならない。緊密な連携が必要であり、単独でできることではない。

 他の業界も参考にすべきだろう。医療業界はこれまでアウトソーシングに極めて慎重だった。特定の分野は専門家に任せる方がよい場合もある。適切な方法で医療業務の効率を高めるためには、これまでよりもアウトソーシングを活用する必要がある。

―― 今後の2年間にCIOが取り組むべきことは何でしょうか。

プロブスト氏 コスト削減と効率化がモットーになるだろう。そのためにはシステム間の相互運用性を高めることが必要だ。データを移行する時間がないからといって、古いシステムを使い続けていては、相互運用性の確保はおぼつかない。これらはCIOの長年の課題であり、いつかは取り組まなければならないと分かっていたことだ。コスト削減の機運により、こうした問題にいよいよ着手せざるを得なくなるだろう。残念なのは、これまでより少ないリソースで取り組まなければならない可能性があることだ。

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