実業家イーロン・マスク氏らがOpenAIに970億ドルの買収提案を表明した。マスク氏が買収の意向を示した背景には、中国のAIベンダーDeepSeekの台頭があるとみられる。
AI(人工知能)技術ベンダーOpenAIの共同創業者でありながら一度解任され、Microsoftに雇用された後にOpenAIのCEOに復帰したサム・アルトマン氏が、再び危機に直面している。実業家のイーロン・マスク氏との対立は新たな展開を迎え、マスク氏と志を同じくする投資家グループがOpenAIの買収に970億ドルを投じる意向を表明した。
マスク氏の買収提案に対し、アルトマン氏は2025年2月11日(現地時間)、短文投稿サイト「X」に「お断りします」と投稿。「ご希望であればTwitter社を97.4億ドルで買収させていただきます」と応戦した。
2024年6月、マスク氏は、OpenAIとアルトマンCEOが「設立時の合意に違反した」として米サンフランシスコ上級裁判所に提訴した。OpenAIは当初、非営利組織として設立されたが、AIワークロード(AI技術に関連する計算処理などの一連のタスク)の処理に必要なインフラを確保するため、営利企業として再編された。OpenAIはMicrosoftから100億ドルの支援に加え、大規模言語モデル(LLM)を実行するためのクラウドサービスの提供も受けた。
2025年1月、ドナルド・トランプ米大統領は「Stargate Project」を発表した。大手ベンダーOracleなどが今後4年間で5000億ドルを投資し、OpenAIのインフラを構築する計画だ。
同年2月10日のブログエントリ(投稿)で、アルトマン氏は「AIが人間と同等の認知タスクを処理できる時代への適応」について触れ、Microsoftとの提携について「Microsoftとの関係を見直す意図はない。長期的な提携を継続する」と確約した。
しかしOpenAIのLLM開発における地位は、中国のAIベンダーDeepSeekの登場によって脅かされている。DeepSeekはユーザー企業に対し、OpenAIの料金を大幅に下回る価格を提示しているためだ。
米国の議員らは、米国民のデータが中国政府に共有される可能性があるとして、DeepSeekの規制を試みている。しかしDeepSeekのAIモデルはオープンソースであり、任意のパブリッククラウドで実行可能だ。実際にAmazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloudは、DeepSeekのAIモデル「DeepSeek-R1」を提供している。
AIモデルの実行にかかるコストは、必要なGPU(グラフィックス処理装置)によって異なるが、経済的な方法の一つは、DeepSeekのクラウド向けLLMに接続できるAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を利用することだ。
OpenAIのLLM「GPT-4」の場合、API料金は100万入力トークン当たり2.50ドルかかる。一方、DeepSeekのAPI料金は、100万入力トークン当たり0.55ドルだ。さらにプロンプトキャッシュ(以前入力したトークンを再利用する機能)を使用する場合は、100万入力トークン当たり0.14ドルとなる。
OpenAIよりも安価に実行できるAIモデルの登場は、投資家の不安を煽る可能性がある。実際にDeepSeekの発表後、GPUベンダーNVIDIAの株価は下落した。DeepSeekの新しいLLMの登場から数週間後、マスク氏は株式市場の混乱に乗じ、OpenAIに買収の提案を持ち掛けたとみられる。
一方、マスク氏が創業したAI技術ベンダー「X.AI」と同社が開発するAIチャットbot「Grok」をどのようにするか疑問は残る。同社は2024年11月、シリーズC(成長拡大段階)投資ラウンドで60億ドルを調達したが、マスク氏と投資家グループはOpenAIの買収を目指している。ただ、買収が成功すれば、マスク氏が米国のAI戦略とStargate Projectの主導権を握ることは明らかだ。
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