日本IBMはAIの本番展開について、IBMならではの考え方について詳細に解説し、基盤モデルに関しても規模拡大に頼らない現実路線を打ち出した。
日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)はこのところAI(人工知能)関連の情報発信を強化している。2025年3月中旬にAI戦略全般に関する説明会を開催した同社だが、3月下旬には同社のAI関連製品として提供する「watsonx」について深掘りする説明会を開催した。
同社の田中 孝氏(テクノロジー事業本部 Data and AI エバンジェリスト)は「2025年は生成AIの本番展開の年」と位置付けた上で、「IBMは『本番展開』をどのように捉えているのか」という点から説明を始めた。
日本IBMではこれまでも多くのユーザー企業の生成AI活用の取り組みを支援してきた実績があるが、田中氏は「生成AIを本番業務で使うことが、イコール本番展開というわけではない」とした。その上で「AI活用のユースケースや課題領域をより業務に密接な領域へと裾野を広げていき、それを本番業務の中で活用する。そういったことがまさに今年、これから起こっていくと考えている」と語った。そうした取り組みを進める上で重要になるのがプラットフォームへのAI機能の組み込みだ。
同社は顧客のITシステム全体を支えるプラットフォーム『デジタルサービスプラットフォーム』(DSP)を拡張し、AI機能を組み込んでいくことを発表している(図)。「その思いとは、AIの活用は単独に存在するのではなく、お客さまの業務と一体となって、そしてその業務を支えるお客さまのITシステムやITシステムのプラットフォームと一体になって初めてインパクトの大きいAIの活用ができると考えており、AIの構築をご支援する際も、プラットフォームの視点から支援するというメッセージだ」(田中氏)という。AIをAIプロジェクトとして独立に扱う段階ではなく、ITインフラの基盤を構成するプラットフォームにAI機能が組み込まれることで、AIを活用可能な業務領域であればどのような業務であっても自然に活用していける環境を作ることが同社の考える「本番展開」ということだ。
IBMでは以前からAI領域の研究開発に取り組んできたが、その内容は時代に応じて刻々と変化している。エキスパートシステム(特定分野の専門家の推論や判断を模倣したシステム)が期待ほどの成果につながらなかったことからAI技術に対する失望感が拡がった1990年代は「AIの冬の時代」と言われているが、この当時開発されていたIBMのAIシステム「Watson」はあえてAIという言葉を避け、「コグニティブコンピューティング」と呼んでいた。当時のWatsonはハードウェアと関連ソフトウェアを組み合わせた専用システムだったが、その後発展した現在の「watsonx」はソフトウェア中心の技術となっている。現在はさらに、AIを活用するためのプラットフォームに関連する技術/製品を含む「watsonx」プラットフォームと、具体的な業務支援に活用するためのAIアシスタントツールである「IBM watsonx Assistant」の大きく2分類で提供されている。
田中氏は「AIの適用ではお客さまの業務課題に合わせてAI活用の姿を変えていくところが重要になるため、中心的な位置を占めるのはユースケースとなる。すべからく何でも答えられるAIソリューションを作ろうという考え方ではなく、お客さまの特化した業務課題、それに対応するユースケースに合わせてAIソリューションを一緒に作ってご提供していくという考え方だ」と説明する。その考え方を踏まえて開発されるAIモデルがGraniteだ。
Graniteは2023年9月から提供開始されたIBMの独自開発による基盤モデルだ。田中氏は「ビジネスの現場で使うために最適なモデルであるかどうかがポイント。闇雲に大規模なモデルを目指すのではなく、軽量かつ高精度なモデルを提供する。それによって、レスポンスの速さや、オンプレミス/エッジ環境でモデルを動かせる、そういった特性を享受できるようになる。学習データまたは学習そのものに関しても安全性やビジネス特化の側面を意識して提供する」とその位置付けを説明した。
同社の東京基礎研究所の技術理事である倉田岳人氏は「事後学習時の強化学習の利用、実行時のより多くの計算量の利用により高い推論能力を獲得できることが分かり、さまざまな推論モデル(Reasoning models)が登場」したと紹介、こうした流れを踏まえてGraniteでもGranite 3.1に対して追加で強化学習を適用することで推論機能を強化したモデルとしてGranite 3.2の提供を開始しているとした。パラメーター数をどんどん増やしていく形の規模拡張でより高い性能を実現することを目指していくという開発の方向性は既に転換されており、多くの企業が規模一辺倒ではなくさまざまな方向に分化する傾向となってきているが、IBMのGraniteは当初から大規模化に頼らない形での性能向上に取り組み、ビジネス価値つなげるためにもリーズナブルなコスト感でのAI活用を実現することを念頭に開発が強化されている点が特徴となる。
既にAI機能をITインフラのあらゆる局面で利用可能とするための取り組みが始まっている。今後は「AIプロジェクト」として特別な取り組みを要する形ではなく、必要に応じて組み込まれる便利な機能として当たり前にAIが活用される形となり、急速に一般化していくことが見込まれる。ブームを超えた先の本格展開時代を見据えた取り組みが必要となるだろう。
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