意思ある“ベンダー任せ”が、人手不足に悩む企業のERPを実現ERP導入事例:GLOVIA

多品種少量生産の典型ともいえる香料ビジネスにおいて、ERPを活用した生産管理は欠かせない。その細密かつ大規模なシステム構築の原動力になったのは、意外にもベンダーの技術者たちだった。

2008年04月07日 08時00分 公開
[谷川耕一]

すべてが専用品である香料の生産管理は困難を極めた

 塩野香料は、薬種問屋として文化5年(1808年)に創業し、その歴史は200年以上を数える。香料の取り扱いを始めたのは、今から80年以上も前にさかのぼる。現在は、香料の製造・販売・輸出入を主な事業とし、そのほかに医薬品、化学製品の製造販売も手掛ける。

 国内で香料を取り扱う企業は、輸入代理店を含めあまたある。とはいえ、その中でも大手食品メーカーと取引できる企業は多くない。それだけメーカーの要求が厳しい業界なのだ。その例として、香料には規格品というものが存在しない。ある製品で使われる香料はその製品専用のものであり、常に新しい「香り」をタイムリーに提供できなければならない。

塩野香料 取締役総務部長 三宅健一氏

 「香料の提供という長い歴史を経て、わが社には莫大な数の製品群があります。例えばレモンの香り1つとっても、現在把握しているものだけで200種類から300種類はあります。過去にさかのぼれば、数千種類に及ぶかもしれません」と、取締役総務部長の三宅健一氏は語る。

 これだけ多くの商品種を取り扱う香料ビジネスだけに、生産管理の重要性は極めて高い。1つの香料を作り出すために少なくとも20種類から30種類の原料を必要とし、その原料もまた、産地や生産時期などに細かな違いがあるためだ。

 「香料作りは、顧客が抱いている香りのイメージを共有するところから始まります。その香りのイメージを実現するために研究開発を行い、顧客の了承を得ると、使用する原料がシステムに登録されます。実際に注文が来ると製品在庫はあるのか、納期はいつになるのか、あるいは受注生産であればどのように原料を調達するかなどを確認します。ERPが導入される前は、これらの作業をほとんど人手で行っていました」(三宅氏)

 もちろん塩野香料は、それまでにも会計などの基幹系業務を中心に、メインフレームやオフコンを利用したバッチ処理型のシステムを導入していた。香料のレシピともいえる「処方せん情報」の管理に加え、製品や原料の在庫管理も行っていた。しかしながら、それらのシステムに製造や調達の指示を自動化する仕組みまでは構築されていなかったのだ。

業務をGLOVIAに合わせなさい

 2006年、この生産管理の在り方を改善するために導入されたのが、富士通のERP「GLOVIA」だった。

 「生産管理をオフコンベースのシステムからERPへ移行した目的は、顧客からの注文や納期に合わせ、各部門のプロセスが自動的に走るようにすることでした。GLOVIAを導入したことで、受注に合わせて必要な原料の自動発注が行えるまでの仕組みが完成しました」(三宅氏)

塩野香料 総務部 主席 中澤 俊氏

 また、総務部 主席の中澤 俊氏は、GLOVIA導入後の効果を次のように語る。「GLOVIAの導入により、伝票を書くといった人手が必要な業務は確実に減りました。一方で、新しい業務プロセスを実施するための管理項目は増えたように思います。しかし、全体として効率化が進んだことで、人員の柔軟な再配置が可能になりました」

 塩野香料は長い歴史の中で、既に数世代にわたるITシステムを会計や生産管理などの業務に活用してきた。富士通製は2世代目からで、今回のGLOVIAは5世代目に当たるという。

 そもそもERPの導入は、作業が比較的容易な会計や人事などから始めるのが一般的だ。生産管理は企業の根幹となる部分であり、各社独自の業務プロセスを持っている。それを一般化されているERPで実現するのは簡単ではないからだ。そういう意味で塩野香料は、当初からERPの導入を目的としていたわけではなかった。生産管理を効率化したい。最終的には生産管理と会計を連携させたいと考えた結果の選択だった。

 また、通常のERP導入時は、企業の業務プロセスとERPとの間でフィット&ギャップ分析が行われる。その分析結果を基にギャップとなるプロセスの洗い出しが行われ、その洗い出されたプロセスが重要と判断されればアドオン開発が行われる。つまり、ギャップをERP側で埋めていくという作業だ。しかし、この方法ではギャップの分だけ手間と時間がかかってしまい、導入コストの大幅な増大を招きかねない。そのため、可能な限り自社の業務プロセスに合ったERPパッケージを選択するか、あるいはその製品が持つ柔軟性や拡張性に任せてギャップを吸収していくのが賢明な策といえる。しかし塩野香料では、これらとまったく異なる方針で導入プロジェクトが進められた。

 「『出すならフィットを出してほしい。ギャップを出すならやらなくていい』。手厳しいかもしれませんが、富士通さんにはそう言って導入プロジェクトを進めてもらいました」(三宅氏)

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