JAXA、衛星「きずな」を利用した遠隔医療の実証実験NEWS

高速通信回線がない地域における遠隔医療の実証実験として、小笠原村診療所と東京都立広尾病院の間を衛星「きずな」で結んで通信実験を行い、その結果を発表した。

2010年12月02日 18時30分 公開
[TechTargetジャパン]

 宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)と東京都小笠原村(以下、小笠原村)は12月1日、インターネット衛星「きずな」を使用して小笠原村診療所と東京都立広尾病院(以下、広尾病院)を結んで11月30日に行った遠隔医療の実証実験の結果を発表した。JAXAによると、この実験によって高速通信回線がない「デジタルディバイド(情報格差)」地域を対象にした遠隔医療で衛星通信の有効性が実証できたという。

photo 実証実験概要図

 小笠原村診療所と広尾病院の間での既存回線は64kbpsだが、きずなの衛星通信を使用することで24Mbps、3チャンネルの各種データを伝送できた。その内訳は放射線画像などのハイビジョン映像が約12Mbps、内視鏡映像やエコーが約3Mbps、ハイビジョンTV会議が約9Mbps。

 今回の実験は、以下の実験項目に関する模擬患者、シミュレータを用いて実施された。

実験項目とその内容
項目 内容
複数の多発外傷患者発生時の初期救急対応 小笠原村診療所から、放射線画像やエコー映像、外傷状況などのハイビジョン映像を伝送し、広尾病院医師が初期救急対応のアドバイスや緊急性・治療の優先度判断などを行った
症例カンファレンス 小笠原村診療所医師の診断や治療に関して、放射線画像の参照も可能なハイビジョンTV会議を用いた広尾病院医師とのディスカッションを行い、治療方針を検討した
上部消化管内視鏡動画伝送による診断支援 内視鏡検査映像を伝送し、広尾病院からその診断や処置のアドバイスを実施
血液型判定のダブルチェック 小笠原村で輸血が必要な救急患者が発生し、広尾病院から輸血製剤の飛行艇搬送を実施したケースを想定し、小笠原村診療所で血液型判定を行った判定用シャーレ画像をハイビジョン映像で伝送し、広尾病院においても検査誤認防止のためのダブルチェックを実施
処置の技術指導(穿頭血腫ドレナージ(※1)、胸腔ドレーン挿入(※2)) 頭蓋内出血や緊張性気胸のため、飛行艇で本土へ搬送できないような重症患者に対して救急救命処置を行う際に、ハイビジョン映像を通じて広尾病院の医師がその指示や処置の指導などを実施

※1:頭蓋内出血により脳が圧迫され脳に異常をきたしそうなときに、頭蓋骨に穴を開け血腫を外に出して減圧し、救命すること。 2:肺表面が破れて空気が漏れ、肋骨と肺の間(胸腔)に空気がとどまり、肺や心大血管を圧迫しているときに、胸腔ドレーンを挿入し、空気の漏れを外に排除し呼吸ができるように処置すること。

 JAXAでは「安定した高速通信を行うことで、緊急性が高い処置を搬送前に安全に行うことができ、患者の状態の改善につながる」としている。また、「現場で治療を完結でき、飛行艇搬送を減らすことにも効果がある」ほか、「複数の医師の目を通すことで、診療の正確性の向上にも役立つ」ことが実証できたとしている。

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