モバイルミドルウェアはモバイルアプリケーションの将来にとって、もはや重要ではなくなっている。
モバイルデバイス用のアプリケーションを実現する方法は、モビリティの進化を促進するとともに、その進化によって影響も受けてきた。これまで利用されてきた主な方法は2つある。1つは、アプリケーションをモバイルプラットフォームに移植するというもの。これは実のところ非常に大変な作業だ。もう1つは、モバイルミドルウェアと総称される一連のツールを使って、リモートサーバ上で動作するアプリケーションを作成し、各種のモバイルデバイスおよびプラットフォームからアクセスできるようにするというものだ。
実際、従来のモビリティのスローガンは、「あらゆるデータを、あらゆるネットワーク経由で、あらゆるデバイスで使えるようにする」だった。ほんの数年前には、200社以上の企業がモバイルミドルウェア製品を販売していた。わたしはそれらを多数試してみた。ツールセットの多くは苦痛になるほど複雑だったものの、かなりシンプルで洗練された製品もあった。例えば、わたしが使ったあるパッケージでは、株価データを取得して携帯電話の画面に表示させるためだけの作業に3時間近くもかかったが、別のパッケージでは5分もかからなかった。
しかし、これまでモバイルミドルウェア業界の目標となってきたスローガンには根本的な誤りがある。あらゆるデータをあらゆるネットワークで送れると考えるのは、現実的ではない。スピードが重視されるサービスの要件が、すべてのネットワークで満たされるわけではないという問題はもとより、データの量が選択されたネットワークには大き過ぎるかもしれないからだ。ネットワークが過負荷状態になっていたり、不通になっている可能性もある。また、多くのモバイルミドルウェア製品で遅延バインディング(事前にではなく、アプリケーションの実行時にネットワークを選択できるようにする)の考え方が非常に一般的となり、それを実装した機能が中核機能の1つと位置付けられたが、ユーザーや企業にとって多数の異なるネットワークのアカウントを持つのは非現実的だった。
また、データをデバイスに対応させるのが困難な場合もある。大画面での表示が前提のデータは小さな画面にはうまくマッピングできないため、込み入ったプロセスになりがちなデータのフォーマット変更が必要になる。スクリーンスクレーピングもうまく機能しない場合が多い。そしてもちろん、モバイルデバイスのプラットフォームとAPIは多種多様だ。これらのことから、ノートPCが人気を保っている一因は、アプリケーション実行エンジンを完備しており、データのホスティングがごく当たり前にできることにあるということが分かる。だが、ノートPCはかさばるし価格も高く、サポートコストもかさむ。このため、やはり望ましいのはモバイル性の高いデバイス、つまり少なくともスマートフォンで、理想的には(すべてではないとしても)ほとんどの携帯電話で、アプリケーションを利用できるようになることだ。しかしもちろん、これらのプラットフォームはPCのような処理能力やストレージは備えていない。
ごく少数の従来型パッケージが生き残っているが、現在ではアプリケーションをモバイル化するアプローチは大きく異なっている。多様なネットワークをサポートする必要はあまりない。重要なプロトコルはIPだけだからだ。ただし、予想されるネットワークスループットと、アプリケーションの要件の適合を確保しなければならない。無線ネットワークのパフォーマンスを保証するのは非常に困難なだけに、これはやはり厄介だ。
現在のアプローチによるアプリケーションのモバイル化では、2つの大きな問題を検討することが必要となっている。
これらの問題への答えが近い将来に出ることはないだろう。われわれは長年、堅固なプラットフォームを、同様に堅固な(「肥大した」と見る向きもある)OSとともに構築してきた。これは1つの明確な方向性だ。しかしモバイルデバイスでは、コンパクトさ、安価さ、十分なバッテリー駆動時間が求められる。このことは多くの場合、逆のアプローチを要求する。1つはっきりしているのは、堅固なOSで提供されるAPIと、現在のデスクトップクラスのブラウザで利用可能なサービスの内容から見て、モバイルミドルウェアはモバイルアプリケーションの将来にとって、もはや重要ではなくなっていることだ。
本稿筆者のクレイグ・マシアス氏は、無線ネットワーキングとモバイルコンピューティングを専門とするコンサルティング会社Farpoint Groupの代表。同社は無線およびモバイル全般の支援サービスをメーカー、企業、キャリア、政府機関、金融サービス会社に提供している。
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