複数の調査機関が「医療機関の倒産件数や負債総額が増加傾向にある」と指摘するなど、その経営は危機的な状況にある。そんな中、医療機関を支援するBIソリューションの導入が進んでいる。
公共サービスとしての側面を持つ医療機関は、単に利益を追求するだけが目的ではない。しかし、その経営がうまくいかなくなると、診療行為を受けられるはずの地域住民に与える影響は大きい。
帝国データバンクが2010年2月に発表した調査によると「2009年4月から2010年1月までの医療機関の倒産件数は41件」となった。これは現在の集計方法となった2005年度以降、過去最悪の倒産件数である。また、東京商工リサーチの調査では「2009年に倒産した医療機関の負債総額は前年同期比128.7%増の250億6000万円に上り、負債10億円以上の大型の倒産が増えている」という。原因別では「業績不振」が25件で最も多く、「放漫経営」「既往のシワ寄せ」「設備投資過大」などが続いている。最近は自治体病院の閉鎖も相次ぐなど、医療機関の経営は深刻な状況にある。
医療機関の経営に役立つITの活用方法はないだろうか?
最近、病院における「ビジネスインテリジェンス」(以下、BI)ソリューションの導入が進んでいる。BIソリューションとは「組織内外のデータを収集して加工し、それを分析した結果を基に経営上の意思決定や業務改善に活用する」というものだ。本稿ではその中の1つである、アシストの「Dr.MPM」を紹介する。Dr.MPMは、2010年6月に販売開始された、病院の経営管理に特化したBIソリューションだ。
Dr.MPMはアシストとジールが共同開発した製品で、米国のInformation Builders社が開発した企業の業績管理ソフトウェア「WebFOCUS Performance Management Framework」(以下、WebFOCUS PMF)がベースとなっている。
WebFOCUS PMFは「バランスト・スコアカード」(以下、BSC)を取り入れた経営戦略の達成状況を評価/分析する機能を持つ。BSCとは「財務の視点」「顧客の視点」「内部業務プロセスの視点」「学習と成長の視点」という4つの視点を軸にして、企業や組織の経営方針とその戦略を具体的なアクションへと落とし込み、その計画立案や実行評価を行うという考えや仕組みを指す。BSCを利用すると、経営戦略に応じた個人や部門ごとの実施項目(CSF)や数値目標(KGI)、業績評価指標(KPI)を設定し、その計画・実行、評価を繰り返すことで、組織内の業務プロセス改善や各個人のスキルアップを促すことが可能になる。
WebFOCUS PMFは、組織の経営目標に応じたKPIを設定して「戦略マップ」を作成する。また、実績管理機能によって現場の実績データと連動させることで、戦略策定から実行までのモニタリングを可能とする。業種ごとのテンプレートを保有しており、米国では流通業や製造業、公共機関などでの活用事例が多い。
アシストのIBソフトウェア事業部 事業部長、上村雅豊氏は「BSCや戦略マップなどの管理手法は一般企業の中でも取り入れているが、日本では特に医療従事者が先行的に研究しており、その知識を習得していることが多い。BSCが受け入れらやすい分野ということで、Dr.MPMを市場に投入した」と説明する。
Dr.MPMは、WebFOCUS PMFの機能とジールがノウハウを持つ日本の病院経営における独自の評価指標(KPI)テンプレートやBSCを組み合わせた製品。病院経営向けに約300種類のKPIが標準搭載されている。具体的なKPIとしては「実稼働率」「医師の確保」「平均在院日数」「ヒヤリハット件数」といった項目がある。さらに「長期療養型」「救急救命型」「専門病院型」など病院の特性に応じたフレームワークライブラリも用意されている。導入時にはこのライブラリを活用しながら、各病院に適する形で戦略目標やKPIを選択することが可能だ。
BSCの分類 | 主要CSF | 主要KPI |
---|---|---|
研究型病院BSC | 研究活動の活性化 教育体制の拡充 従業員満足度の向上など |
学会発表数 専攻医医師数 病院外での研究講師など |
専門病院型BSC | 効率的医療サービス 組織風土 最新・最適医療の提供など |
専門特殊外来の設置 がん科学療法チームへの参画数 逆紹介率など |
救急・救命型病院BSC | 救急医療サービスの提供 医療付加価値の向上 最新医療機器の導入など |
救命センターの実稼働率 救命認定医の確保 チーム医療推進数など |
長期療養型病院BSC | 患者QOL(Quality of Life)の向上 地域連携の推進 安全性の確保など |
平均在院日数 地域連携クリニカルパス数 ヒヤリハット件数など |
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