電子カルテを中心に院内のIT化を進める「いむれ内科クリニック」診療所の電子カルテ導入事例:ユヤマ「Brain Box V II」

地域に根ざした信頼されるクリニックを目指している「いむれ内科クリニック」。開院と同時に電子カルテを導入し、ネットワーク統合やリモートデスクトップ環境の構築など院内のIT化を進めている。

2013年03月14日 08時00分 公開
[翁長 潤,TechTargetジャパン]

専門的な医療サービスも提供する、地域のかかりつけ医を目指す

photo いむれ内科クリニック

 2011年2月に開院した「いむれ内科クリニック」(愛知県豊橋市)は、感染症や呼吸器疾患、アレルギー疾患を中心に内科全般の診療を行っている。クリニックの名前に地域名の「飯村(いむれ)」を付けるなど、地域住民に親しまれるかかりつけ医を目指し、患者の話をよく聞いて分かりやすく説明することを心掛けている。また、日々進歩する医学・医療をキャッチアップしながら、最新かつ最良な医学知見を用いる「根拠に基づいた医療」を実践。豊橋市民病院で感染症内科の部長を務めた山本景三院長を中心に、高度で専門的な医療サービスを提供している。1日の平均来院数は60人ほどで、感染症などが流行する時期には100人以上が訪れることもある。

カルテデータを人質に取られるのは避けたかった

photo いむれ内科クリニックの山本院長

 勤務医時代に電子カルテを使っていた山本氏は「開院を決めた時点で、電子カルテPACS(医用画像管理システム)の導入が念頭にあった」と語る。

 まず、「レセプトコンピュータ(レセコン)一体型であること」を要件に対象候補をリストアップ。その中には、インストール作業やバージョンアップなどを自身で実施する電子カルテや導入実績が一番多い電子カルテなども含まれていた。しかし、「自ら電子カルテを構築することは難しい。また導入コストもなるべく抑えたい」と考えて候補から外し、システム設定から運用までをフルサポートする3社に絞った。

 その後、電子カルテを導入しているクリニックを見学したり、実運用におけるさまざまな要望に対するベンダーの回答を参考にした。最終的に2010年9月、ユヤマの無床診療所向け電子カルテ「Brain Box V II」(以下、Brain Box)の導入を決めた。

 山本氏は対象候補3社に「解約時やメーカー撤退時などに、診療録内容をXMLやCSVなどのファイル形式の電子データとしてクリニック側に渡すこと」を要請していた。診療録は5年間の保存義務がある。例えば、「電子カルテを乗り換えても、参照したい過去の診療録が旧カルテシステムにしかなければ、そのシステムを参照する必要がある。そのためだけに、旧システムの保守料やリース料を引き続き取られるという“データを人質に取られる”ようなことは避けたかった」と説明する。

 画面構成や表示などが気に入った電子カルテが他にあったが、そのベンダーにはデータ出力を断られた。いむれ内科クリニックの要請に全て応えてくれたのがユヤマだったという。山本氏は、2010年秋にユヤマの担当者と電子カルテの各種マスター作成を開始し、クリニック開院と同時にシステムを本稼働させた。

導入メリットは「情報の検索性」

 いむれ内科クリニックでは、受付カウンターに患者の受付用と会計用で2台、2つの診察室に1台ずつ合計4台の電子カルテ端末を設置している。「稼働当初は入力に多少戸惑っていたが、1週間ほどで慣れて普段の診察スピードに戻った。病院向け電子カルテと比べて操作性はいい」という。

 Brain Boxは、独自の入力ツール「ユヤマ・キーパッド」でその操作性を高めている点が特徴だ。ユヤマ・キーパッドはSOAP入力項目ごとに候補項目を表示し、それを選択して入力する。同時に表示されるボタンが少なく、テンキー操作のみで入力できる(関連記事:進化する電子カルテの入力支援機能)。

photo ユヤマ・キーパッド

 マスター作成では、診療科や医師ごとに詳細な設定が必要な「問診」「問診票」などはカスタマイズした。ただ、「もう少し改良してもよいと感じている」という。一方、「注射・手技」「用法」などのマスターでは標準項目をそのまま使用している。

photo 「問診票」マスター

 Brain Boxのカルテ画面は、紙カルテ2号紙のイメージを踏襲。画面配置や文字色などは編集画面で変更でき、画面レイアウト用テンプレートを使用することも可能だ。Brain Boxは2012年にワイドモニターに対応した。山本氏は「3カ月分のカレンダーが表示できるなど、より使いやすくなった」という。

photo カルテ画面《クリックで拡大》
photo

 電子カルテ導入メリットについて、山本氏は「情報の検索性に優れている点」を挙げる。過去の診療における病状や検査結果などの詳細な内容をすぐに把握できる。Brain Boxの過去カルテの表示は他の電子カルテが採用するスクロール方式ではなく、左右ボタンで切り替えるページアウト方式を取っている。また、「書類作成が非常に楽になった」。例えば、インフルエンザの証明書などはテンプレートを使用すれば、必要事項を埋めるだけですぐに作成可能だという。

 レセコン一体型の電子カルテを選定した理由は「業務の効率化」にある。医療事務スタッフがレセコンへ転記入力する必要がなく、レセプト請求用データ作成の手間も省けるからだ。また、「勤務医時代は、医学管理料の入力などよく理解できていない面もあった。カルテ入力の結果が直接反映されることで、レセプトの仕組みを医師自らが学ぶ機会にもなった」と語る。

患者説明にも効果的

 いむれ内科クリニックでは、検査画像を電子カルテに表示して患者説明などに用いている。特に、患者からは検査結果のグラフ表示が好評だという。糖尿病患者の場合、血糖値の推移をグラフ形式にして、経過状況を患者と一緒に確認できる(関連記事:積極的な治療参加に活用! 患者説明用iPadアプリ「IC動画 HD」)。

photo Brain Boxの検査結果のグラフ表示例

 また、同クリニックでは、Brain BoxとコニカミノルタヘルスケアのPACS「REGIUS Unitea」を患者IDなどの頭書き情報で連携し、顕微鏡検査の検査結果なども表示できる。

photo REGIUS Uniteaの顕微鏡画像の表示例

 電子カルテの稼働前後2週間やレセプトオンライン請求時などには、ユヤマのインストラクターが立ち会った。同社は、電話(フリーダイヤル)対応やリモートメンテナンスなどのサポートを提供している。Brain Boxの運用コストは、リース料金と保守サポート費用を含めて1カ月当たり10万円程度。山本氏は「決して安いとはいえないが、電話がすぐにつながって的確に返答してくれるなど、同社のサポートは優秀」と評価する。

 また、電子カルテの導入に当たっては「ITにあまり詳しくない場合はサポートの充実面を、ある程度の知識がある場合は柔軟にカスタマイズが可能な点などを重視して選定していいと思う。また、リース終了時やシステム切り替えなどの際、カルテデータをどう扱えるかという自由度もポイントになるのでは」と語る。

ネットワーク集約やリモートデスクトップ環境、ビデオ会議システムも

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