住宅金融組合のNationwideは、英国の当座預金口座の移管に関する規制変更の機に、大規模なIT刷新が威力を発揮することを期待している。だが、本当に10億ポンドのIT投資が役立たないという声もある……。
住宅金融組合の英Nationwideが10億ポンドを投じたIT刷新の威力が発揮され始めた。同組合では、英国のリテール銀行顧客のシェアを拡大しようと、最新の当座預金サービスの提供を開始した。
この最新の当座預金サービスFlexPlusは、同組合の新しいバンキングプラットフォームがなければ提供できなかったという。これでNationwideは、2013年後半に英国で施行される預金者の口座移管を容易にする新たな法律を機に、他の銀行から顧客を獲得する体制が整った。
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Nationwideのトニー・プレステッジCOOは、次のように説明している。「われわれのあらゆる取り組みの中心にある思いは、顧客のニーズに応えることだ。ITへの投資が、そのために必要なツールをもたらす」
Nationwideは、長年にわたり過少投資でシステムを更新してこなかったため、10億ポンドを投じてバックエンドシステムを刷新した。数十年前に社内開発されたコアシステムを独SAPの市販のバンキングソフトウェアに入れ替え、同時に利用者向けのデリバリーチャネルを米Microsoftのソフトウェアに移行した。また、初めてITのアウトソーシングも行った。
この刷新プロジェクトは、商品やサービスの新システム導入を容易にする計画の一部だった。Nationwideは、2012年11月にモバイルバンキングアプリをリリースし、これは40万人以上にダウンロードされている。また、新しいオンラインバンキングプラットフォームもリリースしている。
金融不安の中にあって、現在でも多くの金融機関が不況の間は裁量支出を控えていた。これに対してNationwideは投資に積極的で、2008年に古くなったITシステムの入れ替えに乗り出している。
調査会社IDCで欧州の金融市場担当リサーチマネジャーを務めるアレックス・クヴィアトコヴスキ氏によると、Nationwideは英国において優位な立場にあり、顧客が銀行口座を移管しやすくする規制が発効したら、大きな恩恵を受ける可能性があるという。
「Nationwideは、すばらしいITプラットフォームを導入できていて、他の銀行のように古いシステムが足かせになることがない。これは、組合員が所有する相互会社だからこそできたことだ。また、成長目標とカスタマーサービスレベルに注力する必要性とが、うまくマッチしている」(クヴィアトコヴスキ氏)
業界規制によって、2013年9月までに、英国の銀行の預金者は7日間で口座を他の金融機関に移管できるようになる。これは金融機関にとって、顧客ベースを拡大できるチャンスだ。「7日以内での口座移管規制は、Nationwideにとって有利に働く可能性が非常に高い」と、クヴィアトコヴスキ氏は言う。
調査会社の英Ovumのアナリスト、ダニエル・メイヨー氏も同意見だ。「Nationwideは、新しいシステムを備えながら確固たる既存ブランドの信頼性も併せ持ち、金融危機による影響も比較的軽くて済んでいることが主に奏功して、幾つかの新規参入の銀行よりも有利な立場にいる。さらに、支店ネットワークにおける物理的なリーチと既存の市場シェアも、Nationwideの競争力を大きく引き上げている」
しかし、調査会社の英SRNのリサーチャー、ラルフ・シルヴァ氏は、Nationwideの名声をもってしても、他の金融機関からリテール預金顧客を多数獲得できるとは思わないと言う。「Nationwideは非常に力のある住宅金融組合だが、口座移管の規制変更がNationwideの有利に働くとは思わない」
「銀行口座を変える人はいないだろう。米国では口座を2日間で移管できるが、誰も移管しようとしない」。その理由は、口座の移管は簡単でも、口座引き落としなどの変更に依然としてかなりの手間が掛かるためだとする。
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