買収が続くモバイル管理市場、迷惑するのはユーザーだけ?無傷の2大ベンダーの行く末は?

2013年11月にエンタープライズモバイル管理(EMM)ベンダー2社が買収された。いまだ無傷のベンダーや、ユーザーへの影響を分析した。

2013年12月27日 08時00分 公開
[Jake O'Donnell,TechTarget]

 ベンダーの統廃合はITの世界では珍しいことではなく、「エンタープライズモバイル管理」(EMM)もその道をたどっている。中には、現在利用しているベンダーの買収に備えて対策を迫られるIT部門も出てくる。

 2013年11月、EMMベンダー2社が買収された。まず米Fiberlink Communicationsが米IBMに、米Bitzer Mobileが米Oracleに飲み込まれた。

 どちらも大地を揺るがすような動きではないと受け止められたが、ある種のトレンドは間違いなく進行中で、企業は変化に注意を払う必要があるというのが、IT業界ウオッチャーの印象だ。

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 米ITコンサルティング会社Envision Technology AdvisorsのCEOであり創設者のトッド・クナップ氏は、「良かれ悪かれこのトレンドはやってくるし、“良かれ”な出来事になり得る」と語る。

 「IBMなどの大企業であれば、特に(買収された側の)規模の小さい会社が市場で優位を確立できていた場合、買収後の方がより多くの資本を投じて、買収された側の会社が始めたプロジェクトを発展させることができる」とクナップ氏は説明する。

 クナップ氏の会社はFiberlinkのリセラーでもある。同氏のチームは、Fiberlinkの他のリセラーたちと「定期的に連絡を取り合って」いて、Fiberlink製品の扱いには大きな変更はなさそうだという感触を得ている。また、IBMのことを、買収の経験が豊富な「チャネルを非常に重視する企業」として肯定的に捉えている。

 中小のITベンダーを利用しているIT部門には、買収の影響を被るリスクがある。米Blue Hill Researchの現CEO(前CTO兼アナリスト)のラルフ・ロドリゲス氏によると、問題は、買収される可能性がある中小のモバイル企業を利用し続けるかどうかではなく、コストがどうなるかだ。

 「結局は、私が必要としているプラットフォームをベンダーが提供するかどうかだ」とロドリゲス氏は語る。「大企業はリスクを取ることができず、(取引先の)会社の財務状況を見てからでないと、先には進めない」

 モバイル専門の米調査会社VDC Researchのシニアモバイルアナリスト、エリック・クライン氏は、EMMベンダーの多くは、買収されることを期待していても、利益が出ていないか、出ていてもわずかだと指摘する。モバイルベンダーを必要とする組織はその点をよく認識していて、(Oracleに買収された)Bitzer Mobileのような会社の場合、主要顧客の多くが初期投資家であったと思われる。

 「規模の小さいベンダーを利用し続けるのは、サポートのレベルが変わる可能性があるため、リスクを伴う」とクライン氏は説く。

 買収されることを希望している会社は、上得意先に対して、買収が発生した場合に、どのような状態になることを望むかアドバイスを求めてもよいだろうとロドリゲス氏は言う。

 「アドバイスを求められる立場にない顧客の場合は、不測の事態に備えた計画を考える必要がある」(ロドリゲス氏)

残っているEMMベンダーは?

 Fiberlinkが買収されたことで、米AirWatchと米MobileIronが無傷の2大EMMベンダーとして残された。

 「このことが、この2社にとって、ちょっとした市場に関する問題を生んでいる」と語るのは、モバイルを専門とするコンサルティング会社の米Paladorでアナリストと社長を兼務しているベンジャミン・ロビンス氏だ。

 「企業価値評価の点で問題がある。既にかなりの投資を受けているため、現在、この2社を買収できる買い手は多くはない。その一方で、この2社より下位層に位置するベンダーの中には、買い時になっているベンダーもある。しかし今の時点では、これらの企業が買収されることはないだろう」(ロビンス氏)

 クライン氏は、この2番目の層に含まれる会社として中堅ベンダーの米Boxtoneとカナダに本社を置くSOTIの名を挙げている。また、AirWatchとMobileIronについては、新規株式公開(IPO)の道に進む可能性も示した。

 しかし、こういった中堅・中小のベンダーも、いつの間にか、大手インフラ企業のイノベーションへの新しいアプローチが生んだ潮流に飲み込まれているかもしれない。IBM、Oracle、独SAPなど、中堅・中小のビジネスを買収した企業は、(買収された側の技術を)より有利な条件で、自社のポートフォリオに新しいサービスとして取り込み、発展させることができる。

 「以前、IBMなどの企業は、新しい分野への進出を図る際、自前で事業部を設立して、その事業部を製品のテストと開発に割り当て、その製品の出来不出来に関係なく、ポートフォリオに導入するという時代があった。それにはコストも時間もかかった。最初は、予備調査にあたる部分を他社にしてもらって、導入がうまくいくかどうかを見守る方が賢明だ」と、クナップ氏は説明する。

統合によりMDMを超えたソリューションを

 ロビンス氏は、EMMベンダーの統合の動きは、企業にとって朗報だとする。モバイルが普及したことで、企業は思い通りに使える、モバイルデバイス管理(MDM)以上のソリューションが必要になっているからだ。

 「MDMだけでは不十分だ。モビリティの場合、そういった一面的なソリューション以上の機能が必要だ。MDMは1コンポーネントにすぎない。限られた機能しか提供しないのでは、実効性がない」(ロビンス氏)

 最近の買収の規模は、2010年のSAPによるモバイルソフトウェア会社の米Sybaseの買収と比べると見劣りすると話すのは、前出VDC Researchのクライン氏だ。

 「この10年は、(統合が)ITに大きな影響を与えた。モバイル市場は顧客全体の規模からすると、依然として小さい。Fiberlinkのような会社にとって(買収の)影響は、どのようなサポートが得られるかになる」とクライン氏は語る。

 また、クライン氏は、統合はIBMのような大企業が絡んでくると容易になること、また、ほとんどのケースにおいてITプロはスムーズな移行とサービスの継続を期待できることを認めて、次のようにコメントしている。

 「(統合については)長年何らかの批判があるし、違う見方をする人間もいる。しかし、買収される企業の規模自体を考慮する必要がある。IBMやOracleは、かなりよい仕事をしている」

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