凡ミスと思ったら実はファインプレー?
スポーツ界にもデータ分析の波、データが裏付ける“奇跡の逆転”とは
スポーツの世界では、データ分析に注目が集まっている。スポーツメディアはこれまでにない新たな“ストーリー”を伝えることができると期待を寄せる。一方、そうした情報に無関心なファンやコメンテーターもいる。
2015年の「スーパーボウル(※)」について、全米のコメンテーターとインターネット上のファンは、シアトル・シーホークスのヘッドコーチであるピート・キャロル氏が采配を誤ったと確信している。その采配とは、キャロル氏が、試合の終盤でランプレーではなく、パスプレーを指示したことだ。そのパスはインターセプト(妨害、阻止)され、シアトル・シーホークスは敗者となった。
※スーパーボウル:米国のプロアメリカンフットボールリーグであるNFLの優勝決定戦。毎年2月に開催され、全米で注目を集めるスポーツイベントとなっている
スポーツ専門チャンネルの米ESPNで運用分析担当ディレクターを務めるベン・アラマー氏は、次のように自身の見解を述べている。「過去のデータを確認したところ、あのフィールドポジションからインターセプトをスローする確率は0%に近いことが分かり、この状況に対する見方が変わった。キャロル氏の采配のまずさではなく、インターセプトを決めたニューイングランド・ペイトリオッツのマルコム・バトラー選手によるファインプレーだった」
「議論している人は、持論をサポートするデータを探している。真実を特定するデータに目を向けることで、より良いサービスをファンに提供できるようになる」(バトラー氏)
ここ数年、スポーツ放送とメディア報道に新たな潮流が見られる。それは至るところで数値が用いられていることだ。これまでもスポーツファンは統計データに関心を持っていた。だが、分析のレベルは格段に高くなり、分析は大幅に普及している。その結果、ある疑問が生まれる。一体誰がスポーツの分析に関心があるのだろうか。
統計分析を主要サービスとして提供するように方向転換したメディア企業は、予想外の議論に巻き込まれることになった。米FiveThirtyEight.comなどのメディア企業は、データによって新たな話題を提供できると主張している。一方で、理解できないか、価値が限られている新たな統計データの使用に反対するファンやコメンテーターが存在するのも事実だ。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)とESPNの共催によって米ボストンで行われた「Sloan Sports Analytics Conference」で、この全てについて議論がなされている。メディア企業は、これまでにないほど視聴者に詳細な統計データを提供するのに最適なポジションにいる。だが、問題は一般的なファンが統計データを入手することに関心があるか否かだ。
米Advanced Football Analyticsの創設者であるブライアン・バーク氏は、次のように語る。「世界中の他の業界は、少しでも多くの利益を上げるために分析を活用している。分析データが手の届く距離にある10億ドル産業はスポーツだけだ」
「試合のプレーやアスリートの成績を数値化することで、コンテキスト(文脈や背景)を提供できる」とバーク氏は言う。つまり、このような数値化をスポーツの試合の放送で行うことで、ファンは試合の重要さを理解したり、選手の相対的な価値について情報に基づいた議論を行えるようになる。
一方、全てを数値化すると、特定の状況について曖昧さがなくなる。だが、この曖昧さこそが、人々がスポーツに魅了される主な要因の1つだ。NFLの試合のデータを分析して分かったことがあるとバーク氏は言う。多くの試合において、劣勢のチームが優勢のチームを追い抜いて勝利する可能性はゼロに近い。これは3クォーターの前半までに決まることが多い。また、米プロバスケットボールリーグであるNBAのデータを分析しているときに気付いたこともあるという。それは、公式戦が正式に終了するのは4月だが、1月までにプレーオフに進出するチームを正確に予測できることが多いという事実だ。
アラマー氏にとって、適切なタイミングで正しい統計データをファンに提供するのは重要なことである。アメリカンフットボールの試合を中継しているとき、3クォーターの段階で、劣勢のチームが勝利する可能性が0.5%しかないことを視聴者に伝えても意味がない。だが、劣勢のチームが見事な巻き返しを図って勝利した場合は、試合終了後に、奇跡のような勝利だったことに思いを巡らすのは適切かもしれない。重要なのは適切なストーリーを伝えることだとアラマー氏は強調する。
結局のところ、単純にデータをファンに提供して、好きなように使ってもらうのが最善策だろう。これはNBAが採用しているアプローチだ。NBAのコミッショナーを務めるアダム・シルバー氏は、あるパネルディスカッションで次のように述べている。「NBAは独SAPと協力して、当リーグのWebサイトで全ての試合の統計データを整理して視覚化している。ファンは全てのデータに自由にアクセスできる」
シルバー氏によると、データフィールドを操作して、自由に選手のデータを比較できることは一部のファンから好評を得ているという。だが、関心を示さないファンもいる。重要なのは、ファンに選択肢を提供することだ。
「データを利用できるようにした結果、多くの関与が生まれた」とシルバー氏は語る。
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