複雑なデジタル署名の仕組みが裏目に
PDFを気付かれずに改ざん? デジタル署名を無意味化する手口
ボーフム大学の調査によって、PDFビュワーの署名検証機能に脆弱性があることが判明した。PDFのデジタル署名機能は、ファイルや署名の改ざんを検出できない可能性がある。
PDF形式のファイルには、デジタル署名を埋め込む機能がある。こうしたデジタル署名付きPDFファイルは広く普及しており、特に欧州連合(EU)のデジタル署名規則「eIDAS」への準拠が必要な政府機関でよく使用されている。
こうしたPDF署名はどの程度安全なのか。ドイツのボーフム大学の研究者チームは、各PDFビュワーのデジタル署名関連機能の実装状況を調査し、調査結果を公開した。
この調査結果は、PDF署名のセキュリティの脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにした。研究者は、デジタル署名機能を実装している調査対象のPDFビュワーの全てで、仕掛けを工夫してデジタル署名やファイルを改ざんすることに成功した。DocuSignの同名サービスのようなデジタル署名/契約サービスも、評価は芳しくなかった。同様の改ざん攻撃が成功したからだ。
なぜデジタル署名の改ざん攻撃は成功してしまうのか
研究者は幾つかの攻撃手法を用いた。根本的な問題は、PDF署名が複雑なシステムであることに起因している。PDF署名は、必ずしもファイル全体に適用されるわけではない。例えばPDFファイルは署名を適用した後に、新たな要素を加えることができる。その場合、追加部分は署名の対象外となり、結果的には部分的にしか署名されないことになる。
PDFビュワーのデジタル署名検証機能は、こうしたシステムで安全に運用するには適していない。調査対象のPDFビュワーのほとんどは、デジタル署名されたPDFファイルに単純な変更を加えると、部分的な欠陥があるファイルだと認識する。しかしPDFビュワーをだますことは可能だ。
調査で検証した攻撃の一つでは、デジタル署名済みPDFファイルを対象に、ファイル内容を変更しながらも、署名がファイル全体に対して有効だとPDFビュワーに誤認させた。暗号化の秘密鍵を使わずに作成した欠陥のある署名を、署名検証機能に有効だと誤認させる攻撃も成功した。
PDF署名のセキュリティが問題視されるのは初めてではない。2010年にもセキュリティ専門家のフロリアン・ザンビエール氏が、同様の攻撃が可能なことを実証したが、あまり注目されなかった。
ボーフム大学の研究者チームが公開した調査結果は、PDF署名の検証機能を正確に実装するのは難しく、実装上の欠陥が発生しやすいことを示している。これは古い暗号規格に特にありがちなケースだ。こうした暗号規格は理論上安全だが、多くの場合落とし穴がある。古くからある暗号規格を実装したソフトウェアには、重大な脆弱性がある可能性が高い。
デジタル署名検証機能のあるPDFビュワーを使うときは、ベンダーに「その製品の署名検証機能は、暗号技術の専門家によってセキュリティを保証されているか」と尋ねるべきだろう。
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