安全・便利に業務データやツールを利用
清水建設は全社スマホ導入で直面した端末管理の限界をどう乗り越えたのか
全社的に「Android」スマートフォンの導入を進めている清水建設は、それまで利用していたモバイルセキュリティ製品から「moconavi」へ切り替えた。どこに課題を感じ、何を重視して切り替え先を選んだのか。
清水建設は、モバイル端末のセキュリティ対策としてレコモットのセキュアコンテナ製品「moconavi」を導入した。固定電話から「Android」搭載スマートフォンへの移行を全社的に進める上で、モバイル端末管理体制を強化する必要があったことが背景にある。moconaviの利用により、インターネットなどの社外ネットワークからモバイル端末を利用して、社内ファイルサーバやイントラネットなどにセキュアにアクセスできる環境を構築した。
ユーザー数の増加に伴う運用面の課題
2018年1月から、清水建設はPBX(構内交換機)の更新に伴う電話システムの刷新プロジェクトに取り組んでいる。従来の固定電話を撤去し、会社から支給する電話端末をAndroid搭載スマートフォンにして、内線電話端末化するプロジェクトだ。
上記プロジェクトの発足時、清水建設はすでに一部の従業員が業務用途でモバイル端末を利用していた。業務でモバイル端末を必要とする従業員が、任意で利用申請して端末を借りる運用形態だ。BYOD(私物端末の業務利用)も合わせると5000人以上がモバイル端末を利用していたという。
清水建設はモバイル端末の運用に際して、Webサイトの安全な閲覧や社外からの業務アプリケーション利用をWebブラウザで実現する「セキュアブラウザ」製品を使用し、モバイル端末のセキュリティ対策を実施していた。それにより、モバイル端末ユーザーが外出先や自宅からメールやファイルサーバを利用できる環境を提供していた。
社内の電話システムを更新し、全社的にモバイル端末を配布する上で、この運用体制に問題が生じた。
大規模利用時の安定稼働への懸念が移行のきっかけに
1万人以上の従業員を擁する清水建設が、全社的にAndroidスマートフォンを導入するとなると、セキュアブラウザのユーザー数も相当な数になる。そのため同社は、社内でセキュアブラウザを稼働させているサーバを、安定稼働のためにそれまでの1台から2台へと増やす必要があると判断した。だがこのセキュアブラウザ製品は2つのサーバ間で自動負荷分散ができず、従業員ごとにセキュアブラウザを稼働させるサーバを手動で選択しなければならなかった。
「セキュアブラウザ導入当初のユーザー数と利用目的であれば管理できたが、全社導入に伴ってユーザー数が増えるとなると、そのような手動調整は難しいと考えた」。清水建設のシステム運用を担当する中村壮吾氏はこう語る。
データを残さないのでリスクもない
そうした問題を受け、中村氏はモバイル端末のセキュリティ製品の切り替えに踏み切った。異なるセキュアブラウザに切り替える選択肢もあったが、Android搭載スマートフォンの支給を契機として、あらためてセキュリティ製品を検討し直すことにした。選定に当たってはセキュアブラウザ導入当初の要件も含め、セキュリティと利便性を両立できることを重視して、以下の機能を持つ製品を探したという。
- 社外から安全に社用メールと社内ファイルサーバを閲覧できる
- データをモバイル端末に残さずに利用できる
- 清水建設では私物端末や、一部の支給モバイル端末でのデータダウンロードを禁止している。
- 内線電話からの着信時に、発信元が誰かが分かる
- 内線番号を基に発信元の氏名を特定する作業を省きたいという従業員の声があった。
これらの要件を満たすセキュリティ製品として中村氏らはmoconaviを採用した。電話帳アプリケーションが比較候補として挙がったが、全ての要件に合致する機能を持った製品はmoconaviのみだったという。
moconaviは社用メールシステムや社内ファイルサーバ、オフィススイート「Office 365」をはじめとするSaaS(Software as a Service)などを、モバイル端末にインストールした専用アプリケーション内で実行可能にする(写真)。清水建設が以前利用していたセキュアブラウザ製品は、ログアウト時にモバイル端末に残ったデータを削除する仕組みがあったものの、ログアウトをし忘れるとデータが残ってしまう危険性があった。moconaviはそもそも端末にデータを残さない仕組みだ。同社の社内規定に反することなく、必要な機能の提供を可能にする。
エンドユーザーと管理者の双方にメリット
清水建設は2018年11月からmoconaviを試験利用し、2019年1月に本番利用を開始。同年2~3月にはセキュアブラウザ製品からの移行を完了させた。導入対象は全社で、2019年7月現在は約1万人が利用しているという。Android搭載スマートフォンの内線電話端末化は進行中で、2019年4月末から順次着手している。
moconaviは従業員に支給する端末だけでなく、私物端末もmoconavi利用端末として1ユーザー当たり最大5台まで登録できる。中村氏と共に清水建設のシステム運用を担当する大野 剛氏は、支給端末以外にもAndroid搭載スマートフォンや「iOS」搭載端末など複数の私物端末を登録しているという。「細かい空き時間を使って業務メールを確認するといった使い方ができ、効率的な業務につながっている」(大野氏)
システム管理者の作業負担が減ったことも、moconaviの導入で得られたメリットだ。従業員はシステム管理者の認証なく、ファイルサーバを閲覧できるようになった。セキュアブラウザ製品利用時と比べて必要なライセンス数が増えた一方で、1ユーザー当たりのライセンスコストがおよそ半分になり、コスト削減効果もあったという。
従業員視点では、個別アプリケーションへのログインの手間が省けるというメリットがある。moconaviはシングルサインオン機能を備えており、清水建設が導入しているOffice 365でもこの機能を利用できる。加えて同社は、従業員がmoconavi経由でイントラネットを利用する際にはイントラネットへのログインを要求しないよう設定しており、このことも従業員の負担軽減を後押しする。
新たなサービス導入時のセキュリティ強化を実現
moconaviの導入後、特定の時間に「moconaviを利用できない」と訴える従業員が多発したという。中村氏らが原因を調べたところ、moconaviのユーザー認証用サーバと、清水建設の社内システムを運用するサーバの通信で問題が発生していたことが分かった。該当の通信は同社のプロキシサーバ経由で送受されていた。始業後など一度に多くの従業員が利用する時間帯でトラフィックが集中すると、プロキシサーバが不安定になり、障害の原因となっていた。プロキシサーバを経由させないようにし、代わりにセキュリティをファイアウォールで強化することで、この問題は解決した。
中村氏はmoconaviの課題として、OSの更新に応じた専用アプリケーションの更新が遅れることがある点を挙げる。moconaviは、専用アプリケーション内で個々のアプリケーションを実行する仕組みだ。その都合上、機能の一部のみを更新する場合でも、1つの大きなアプリケーションとしてモバイル端末用OSの公式ストアから承認を得なければいけない。
OSのアップデートに伴い、moconavi専用アプリケーションの一部機能が正常に動作しなくなる場合がある。その際はmoconavi専用アプリケーションを更新し、あらためて公式ストアの承認を得る必要がある。レコモットがmoconavi専用アプリケーションの更新版を迅速に開発したとしても、公式ストア側の都合で審査に時間がかかることがあり、「moconaviを介した電話機能を使えない状態が、1カ月ほど続いたことがあった」(同氏)という。
変更履歴(2019年9月11日10時3分)
掲載当初、moconaviの課題として、OSの更新に応じた専用アプリケーションの「更新が遅い」と記載していましたが、常に遅れるわけではないことを明確にするために、「更新が遅い」から「更新が遅れることがある」へ変更しました。またmoconavi専用アプリケーションの更新とそれに伴う公式ストアからの承認に関する説明について、レコモット側のmoconavi専用アプリケーションの更新が早く済んだとしても、公式ストア側の承認が遅れる場合があることを明確にするために、説明を補足しました。本文は変更済みです。
今後ファイル共有サービスの導入を検討しているという中村氏は、「該当サービスをmoconaviから利用してもらうことによって、モバイル端末にデータを保存させない運用が実現できるだろう」と期待を寄せる。
大野氏はクラウドサービスのセキュリティ対策としてmoconaviに加え、CASB(Cloud Access Security Broker)の可能性に注目している。清水建設は、事業部門がクラウドサービスをはじめとするIT製品/サービスを導入する際に、システム管理者への申請を必須にしている。承認したクラウドサービスの運用実態を正確に把握する手段として、CASBが利用できるとよいと同氏は考えている。
モバイル端末の業務利用に欠かせないセキュリティ対策を考える上で、今回紹介した清水建設の事例は手掛かりとなるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略 -
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「サプライチェーン最適化」実践ガイド:効果的な意思決定を実現する秘訣とは? -
製品資料
[株式会社リンプレス] 非デジタル/IT人材を「自走するDX推進者」に変えるための育成ロードマップ -
市場調査・トレンド
[ワンアイルコンサルティング株式会社] AI時代の組織設計:「判断と責任」を人に残すための2つの原則とは? -
技術文書・技術解説
[ワンアイルコンサルティング株式会社] システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
2
「完璧な設計」なのに3000万円溶けた AWSの失敗事例から学ぶ3つの教訓
-
3
クラウド資格コレクターは評価されない? 年収1000万を分ける“OSの理解度”
-
4
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
5
「AIバブル」は崩壊するのか? 熱狂の後に来る“尻拭い”と4つの防衛策
-
6
高額な「AI PC」を一般従業員も使えたら? 費用のハードルを一気に下げる方法
-
7
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
8
「コピペ運用の限界」に直面するAI活用 7割超が“別画面”のまま使う理由は?
-
9
IT調達担当者が知るべき「IT機器 大インフレ時代の前向きな選択肢」
-
10
「RAGの利用」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
2
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
3
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
4
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
5
「Google Workspace」活用事例34選、先進の生成AIによる組織変革の全貌
-
6
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
7
「人員を増やす」という選択肢はない 情シスが負の連鎖から抜け出すには?
-
8
「問題が深刻化しやすいプロジェクト管理」から脱却する方法とは?
-
9
Linuxのスキルを証明する“激推し”の認定資格はこれだ
-
10
NTTドコモが実践したクラウド統合監視 業務量2倍でも残業削減を実現できた理由
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー