多国籍企業のID管理を解決するサービスとしてのIAMIAMに取り組む方法【前編】

法規制が変化する中、特に多国籍企業ではIDとアクセス権の管理が悩みの種となる。一貫性を確保して適切に管理するにはどうしたらいいのか。サービスとしてのIAMが解決の鍵になるかもしれない。

2020年10月21日 08時00分 公開
[Warwick AshfordComputer Weekly]

 業務、規制、IT環境が急激に変化する状況では、IDとアクセス権の管理はますます難しくなる。多国籍企業の場合、業務が分散するという性質からこれらの課題がさらに複雑化する。

 多国籍企業にとっては、IAM(IDおよびアクセス管理)が特に課題となる。多国籍企業は事業を営む全ての国や地域で従業員、パートナー、顧客、消費者、機器を管理しながら、その国や地域のデータセキュリティやプライバシーの規制も順守しなければならない。

 グローバルなIAM機能も課題となる。クラウドアプリケーションとデータ、フェデレーションアプリケーション、レガシーアプリケーションへのアクセスを可能にして制御するため、世界中のIDと権限を一貫して管理する必要があるためだ。

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 IAMに関する広範な課題がある中、多国籍企業が直面する特有の課題も幾つかある。その多くは、事業を営む各地域で異なるIAMを運用することに関連している。そうした特有の課題には次のようなものがある。

  • ある国や地域で顧客や従業員が最初に登録したIDを、別の国や地域のサービスやシステムへのアクセスに使用できるようにする
  • 国や地域でIAM技術の異なるスタック、プロセス、運用モデル、成熟度を使ってIAMサービスを提供する
  • さまざまな言語をサポートする
  • 従業員、パートナー、顧客、消費者に一貫したIAMを必要とする製品やサービスを、市場のニーズやビジネスチャンスに応じて迅速に投入する
  • 新たな複数の市場に、新しいアプリケーションを迅速に同時展開可能にする
  • 標準化と自動化によって社内ソリューションのコストとリスクを低減する
  • モノのインターネット(IoT)、DevOpsモデル、ローカルのDevOpsチーム向けに組み込みサポートを提供する
  • インフラ、変更、デプロイ、インタフェースの制御を維持する
  • データ保護、情報セキュリティ、製品の安全性と品質保証、輸出規制、金融規制に関して、グローバルな規制要件に加えて特定の国や地域の規制要件に準拠する

 IAMは、規制に対する非常に一般的な要素だ。各種規制では、IDの管理、オンボーディング、顧客の識別、認証、アクセス制御、アクセスガバナンスの要件が定められることが多い。

 多国籍企業はこうした規制に対処するため、ある地域では厳密であっても他の地域では寛大であるといった柔軟性がありながらも強力なIAMが必要になる。

as-a-service型モデルへの移行

 近年のas-a-service型のトレンドに沿って、IDaaS(IDentity as a Service)ソリューションが登場している。IDaaSソリューションは、多国籍企業がグローバルなIAMを運用する際の課題に役立つ重要なメリットを幾つか提供する。

 IDaaSが最初に市場に登場して以来、徐々に成熟度を高めてID管理、権限管理、IAMの重要な構成要素である認証と承認などを含むようになり、企業がセキュリティやコンプライアンスのリスクを軽減するために必要とする細かい機能が追加されている。

 以下を可能にするIDaaSの能力により、IDaaS市場はここ数年で大きく成長している。

  • IAMのオンプレミス導入よりも価値を提供するまでの時間が短い提案を実現する
  • SaaSの拡大に伴うセキュリティ要件を満たすようにIAMの機能を拡張する
  • 業界の専門知識にアクセスすることにより、IAMのグローバルな標準とプラクティスを導入する
  • 市場のトレンドに後れを取らないように、IAMに関する社内コストと社内での取り組みを削減する
  • プロジェクトの提供と運用中におけるIAMに関する社内でのミスを抑える

 ただし、ビジネスワークロードのクラウド移行は、大半の企業にとって長期の取り組みになる。同様に、オンプレミスのIAMをIDaaSに移行して全システムにまたがるIAM機能の包括的サポートを提供するのであれば、どのような導入モデルにするとしても複数の手順を必要とする取り組みになる。

マネージドサービスとしてのIAM

 包括的なIAM機能をマネージドサービスとして運用することは、サービスベースのモデルを基盤とする近代的なIT環境を目指す企業が進んで取り入れている実行可能な選択肢の一つだ。サービスベースのモデルは、世界中で標準化され一貫したサービスの使用をサポートし、登録、検証、ガバナンス、セキュリティ、プライバシーなど、IT部門が必要とする全てのサービスを1つのユーティリティーとして提供する。

 大半の企業にとってマネージドサービスの利用は、IDとアプリケーションを分離することで迅速性と柔軟性を高めるようにITアーキテクチャに根本的な変更を加えることを意味するだろう。マネージドサービスは、APIによって全ての接続に必要なバックエンドシステムを提供する。APIはクラウド(パブリックとプライベート)とオンプレミスで、サービス、マイクロサービス、コンテナの橋渡しをする。

 こうした変更が集約型のデジタルIDバックエンド、つまり「IDファブリック」につながる。IDファブリックとは、1つのエンティティーとして連携できる接続型ITコンポーネントのセットを表す。

後編(Computer Weekly日本語版 10月21日号掲載予定)では、IDファブリックの定義やIAMマネージドサービスの可能性、IAMマネージドサービスの選び方を解説する。

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