皆さんの会社や組織ではインタスタントメッセンジャー(IM)を利用しているだろうか? 積極的に利用している所、正式には認められていないが内々に導入している所、提案はしたものの認められなかった所、「IMって何なのそれ?」的な所など、状況はそれぞれだろう。
筆者の企業は、「Yocto(ヨクト)」というIMソリューションを多くの企業に導入してきた。その中で、ユーザー企業の経営層や現場の方々と話をする機会も多いのだが、導入した企業はどこもIMの特性をよく理解し、日々の業務で上手に活用しているなとつくづく感じている。しかし一方で、IMの導入メリットを話してもなかなか理解していただけない企業も残念ながら少なくない。「うちでは要らない」「メールがあれば十分」「新しいシステムを入れるのは面倒」といった反応のほか、「セキュリティ的に不安」といった誤った先入観があったり、IMそのものを知らないというトップもいる。
筆者は、ユーザー企業への提供や自社での活用を通じて、「IMは企業を便利にするツールの1つである」と言えるだけの確信を持っている。もちろん自社製品が売れればそれに越したことはないが、それ以上に、IMがもっと企業に浸透してほしいという思いが強い。そこで、IMに関する基本的な解説はWeb上のさまざまな掲載記事に譲るとして、ここではまず主にマネジャー層に向けて、少し違った視点から企業におけるIM利用の現状を取り上げてみよう。
筆者はいろいろな企業のユーザーにIMを提案する機会をいただくが、大体共通したパターンがあるように感じる。1つは、営業部門やカスタマーサポートなど最前線の現場を担当している社員は、ほとんどがIMの導入を強く希望(というより切望)する点だ。不在の営業担当者に顧客から電話連絡があったことをメモとして残したい、別フロアにいる生産担当者に納期を問い合わせたい、カスタマーサポートの担当者が開発者に技術的な質問をしたいといったこまごまとしたコミュニケーションや、さまざまな社内情報の共有が、IMを使うことでかなり楽になるというメリットを直感的に理解できるようだ。インターネットから入手できる無償版のIMをプライベートで使っている人も多く、IMに対する抵抗感はほとんどないといってよい。
一方で、導入の意思決定を担っているマネジャーや経営層は、IMそのものを知らなかったり、電子メールとの役割の違いを見いだせずに、導入に消極的な立場を取ることが少なくない。「IMはチャットソフトである」とする解説記事などから、チャット=出会い系的なネガティブな印象を抱いてしまうということもあるようだ。
また、導入や運用の際に実際に手を動かしてもらわないといけない情報システム部門の担当者は、ネットワークに関連した新しいアプリケーションが入ることを好まない傾向がある。もっとも、セキュリティで何か問題が起これば自分たちの責任になるので、「企業向けIMはセキュアですよ!」と説明してはいるのだが、警戒心が強くなる心理も分からなくもない。
IMに対する現場、経営層、情報システム部門それぞれの温度差はどこから生じてくるのだろうか。日本でIMがいまひとつ普及しない理由がこのあたりに隠されているようだ。

さて、わたしたちは多くの「揮発性情報」を生活の中で無意識に取り扱っている。家族間の会話は、恐らく99%が揮発性情報だろう。「フロ・メシ・ネル」の3点セットではないが、ほとんどの情報はその時々の意思の伝達が終われば用済みとなってしまう。わずかに、子どもの学校行事のお知らせだとか、料理番組のレシピのメモだとかが冷蔵庫の扉に張られるくらいだ。
会社の中で交わされているかなりの情報も、実は揮発性情報である。伝達が終わった時点で要らなくなる情報は意外と多く、その80%くらいは揮発性情報といわれている。「○○社のAさんから電話がありました。折り返し電話くださいとのことです」というメモなどは揮発性情報の代表例の1つだろう。
もちろん揮発させてはならない情報もたくさんある。受注情報や仕入れ履歴、設計仕様書や技術資料、人事記録や財務情報などは企業活動を進める上で残しておかなければならない。そして多くのITシステムは、こういった「揮発不可情報」を取り扱うために進化し、導入されてきた。
ところが、揮発性情報を扱おうというシステムがない。昔ながらの電話を使うか、メールで代用するか、「スニーカーネット」(人が歩いて情報をやりとりすること)でメモを渡しているのが実態だろう。ローテクにはローテクの良さがあるのも事実だが、人と人とのコミュニケーションのほとんどに揮発性があることを考えると、ITが介在することで効率は良くなるはずだ。回りくどくなったが、要は企業内の揮発性情報のやりとりを支援するツールがIMなのである。
先ほど、営業部門などの担当者はIMを欲しがる傾向が強いということを書いた。同じ例で恐縮だが、例えば顧客からの電話があったときに、社内にいるのかいないのか分からない担当者を探して、不在らしいと判断されれば顧客から用件を聞き、メモに書いて、その営業マンの机まで置きに行かなければならないという一連の動作が、いかに面倒で、しかも自分の仕事の集中を切らすかをよく認識しているからだろう。
逆にITマネジャーや経営者は、「そんな情報のやりとりはメモや電話やメールで間に合うじゃないか」と片付けてしまう。どうもこのあたりに1つのギャップがあるのではないかと考えている。
IMの特徴の1つに「プレゼンス」機能がある。ネットワークに接続されている相手の在/不在が分かる機能だ。正確にいうと、自分の在/不在を相手に意図的に知らせることができる機能である。つまり、自分の「状態」を発信できるということだ。これが日々の仕事の中ではとても重要な働きをする。
例えば、プレゼンスの欄にさまざまなステータスを任意に設定できるようになっている製品もある。日常の業務では「第1会議室」「昼食中」「退社」といった基本的なステータスで大体は事足りるが、若いエンジニアなどは夜になると「忙しいので受信不可」「追い込み中」「まだ帰れません」といったステータスを設定して発信してくる。
それを見た回りの人間は、彼(彼女)が頑張っていることが分かるし、同じような状況が続くようなら上司は会話や仕事量を調整するきっかけにもなるだろう。いわば“ミニアンテナ”になるというわけだ。こういう発信型メディアはIM以外に存在しない。マネジャーや周囲が社員の状態を検知できるという意味では、プレゼンス(presence)ならぬ「プリ・センス」(pre-sense)なのである。
プレゼンスはワンマン経営者の企業でも有効だ。規模のかなり大きな会社でも、創業社長やワンマンマネジャーがあらゆる意思決定を行っている場合が少なくない。逆にいえば、その社長やマネジャーが不在のときは社内や部内の意思決定が滞ってしまう。社長が出張から戻ってきた途端に、机の前に稟議書を持った部下がずらりと並ぶ風景を見ることもある。なかなかつかまらない社長の状況が気になり始めると仕事の効率は確実に下がる。そういう会社こそIMを活用してほしい。ワンマン社長がきちんとプレゼンスを示してくれれば(秘書が代行で設定しても構わない)、帰りを待ってチラチラと社長席を気にしながら仕事をしなくても済むようになる。
今回は企業におけるIMの役割を少し違う視点から見てみた。もちろん、迅速な情報伝達や情報共有といった本来の効果が高いことは言うまでもない。大規模な企業向けIMの導入事例としては、日本生命保険(ニッセイ)が挙げられる。同社は支店に相当する全国のライフプラザ40拠点でIMを利用している。内勤者と外勤者の情報伝達や顧客情報の共有が主な目的だ。
同社が社内アンケートを実施したところ、86%の社員がIMを重要なツールと評価しているという結果が得られたという。これは、現場のユーザーが利便性と機動性の高いツールとしてIMを利用していることを示している。本稿で書いたように、IMはメールとは違う特性を持ったコミュニケーションメディアだ。業績一辺倒で少しばかりギスギスした組織であれば潤滑油の役割を果たしてくれる。たとえオフィシャルな利用方法ではないとしても、水面下でのネゴや、社員同士のランチの相談に積極的に使われればいい。こうした「懐の広さ」が働きやすい職場を形作っていくと思うのだ。
次回の後編では、情報システム部門の担当者から見たIM導入の具体的なポイントについて述べる。
大阪外国語大学在学中にQriptの前身となるクリプトワンソフト設立、代表取締役に就任。中学時代からコンピュータと向き合うプログラマーだが、現在は社長業に注力。エンタープライズ向けのIMを中心に幅広いアプリケーションの開発・販売を行っている。