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“医療ビッグデータ”の主役に躍り出た「IBM Watson」に死角はないか
「IBM Watson Health」では医師が健康データや情報にアクセスして治療をパーソナライズできる。最高情報責任者(CIO)にとってはどのようなチャンスがあるのか。
米IBMがこのほど創設を発表した事業部門「Watson Health」では、さまざまな医療従事者や保険会社、医療研究者、そして患者に対してパーソナライズされた情報を提供する。Watsonの技術はクラウドベースサービスとして提供され、IBMが同時に発表した多数の提携や買収のおかげで、豊富な患者のデータの利用や分析が可能になる。
このヘルスベンチャー事業でIBMはまず、AppleやJohnson & Johnson、大手医療機器メーカーのMedtronicと提携する。同社はまた、医療技術を手掛ける新興企業のExplorysとPhytelの買収を発表した。両社ともクラウド分析技術を提供している。IBM研究所の上級副社長、ジョン・E・ケリー氏は米紙ニューヨーク・タイムズに「パーソナライズされた医療を大きなスケールで実現する」とコメントした。
Watsonの登場で医療ビッグデータの機は熟した
IDCのHealth Insights担当調査副社長、リン・ダンブラック氏によると、IBMがWatson Healthをクラウドベースサービスとして提供することで、中堅・中小の医療機関は普通では手の届かない2つのリソースを活用できるようになる。つまり、Watsonが提供する自然言語処理とコグニティブコンピューティングの強力な組み合わせに加え、IBMの提携関係を通じて提供される大規模かつ多様な顧客ベースからのデータが利用できる。例えばExplorysは5000万人の患者のデータを使って疾病のパターンや治療法、結果を分析している。
こうした情報の利用によって、医療機関による患者の治療の在り方は激変するかもしれないとダンブラック氏は話す。今現在、医療機関が収集するデータの80%は構造化されていないことから、分析して患者の治療に応用するのは極めて難しい。だがWatsonはこの状況を一変させるかもしれない。「臨床医が医学的決定を下す時点で適切な情報を提示できれば、それだけでも治療結果が大幅に改善され、診療実績も向上する」とダンブラック氏。
Watson Healthに先立ち、IBMはコグニティブ技術の商用化を目指す2つのプロジェクトを発表していた。TwitterおよびThe Weather Companyとの提携では、それぞれが持つ豊富なコンシューマーの感覚と気象に関するデータを掘り起こす。さらにInternet of Things(モノのインターネット=IoT)部門も創設した。
Forresterの首席アナリスト、マイク・ガルティエリ氏は、Watson Healthにとって機は熟していると解説する。IBMは長年の間に培った高度な分析能力を持ちながら、そうした能力の事業価値を実証するために必要とする豊富なデータにはアクセスできていなかった。「データなしの素晴らしい分析能力は、燃料のないジャンボジェット機のようなもの」。ガルティエリ氏は電子メールでそう指摘し、さまざまな情報源からの豊富な医療データが利用できるようになった今、「こうした分析能力は真に輝き始める」と予想する。
パーソナライズの時代
だが、パーソナライズされた情報の恩恵を受けるのは医療機関だけではない。ダンブラック氏はさまざまな業界の最高情報責任者(CIO)やIT部門にも、Watson Healthの進展を注視するよう促している。同氏はIBMが2014年のイベントで使用事例のデモを披露したWatsonアプリケーション「Discovery Advisor」を引き合いに出す。
同アプリケーションでは何百万もの研究や科学論文などのデータポイントを解析し、より迅速に仮説を立てられるよう、医療研究者や科学者を支援する。また、同コンピュータシステムは電子技術者協会や料理教育協会、トゥーソン警察といった幅広い組織に利用されている。トゥーソン警察では捜査の過程で生成される何万件という報告書や取り調べ記録などの分析にWatsonを活用したい考えだ。
相手が企業であれコンシューマーであれ、顧客向けサービスのカスタマイズのために、あらゆる業界が分析の利用に目を向けるべきだとガルティエリ氏は言う。こうしたパーソナライズ提供のために予測的分析を活用している企業は競争で優位に立てる。ただ驚くべきことに、それを行っている企業はまだそれほど多くない。
「統計によると、予測的分析を行っている大企業は33%に満たない。つまりほとんどの競合相手は(これを)やっていないことになり、ここに大きなチャンスがある。CIOはあの『ビッグデータ』の浮かれ騒ぎを乗り越えて、予測的分析を使ったそのデータの分析という事業価値に踏み込む必要がある」。ガルティエリ氏はそう話している。
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