7月12日から28日、全国6都市で「LotusDay 2006」が開催された。IBMのLotus製品に関し、スポンサー17社と共にさまざまな展示やセッションが行われた。今回は基調講演の後半部分、日本アイ・ビー・エムのテクニカル・セールス・サポート技術理事である関 孝則氏の講演内容を紹介する。Lotus製品アーキテクチャの将来像をはじめ、新しいLotus製品の機能や構成する技術の紹介、作業環境のトレンド、SOA時代への対応などについてふれる。
7月12日から28日にかけて、全国6都市の会場で開催された「LotusDay 2006」。今回は「SOAが変える、リッチクライアントが変える、Lotusが変える企業の未来」と題して、Lotus、Domino製品やこれらを活用したビジネスパートナーによるソリューションがセッションや展示などで紹介された。基調講演は、日本アイ・ビー・エムのLotus事業部長である澤田 千尋氏、テクニカル・セールス・サポート技術理事である関 孝則氏が登場した。今回は基調講演の後半である、関氏の講演内容を紹介する。
基調講演の前半部分では、澤田氏がLotus Notes / Dominoのシェアが増加していること、多くの企業が「イノベーションが必要である」と感じていること、さらにIBMのSOAに対する考え方、Lotus製品の今後のロードマップなどを紹介した。後半ではこれを受け、関氏による新しいLotus製品の機能やアーキテクチャの紹介、作業環境のトレンド、SOA時代への対応などを解説した。
関氏は、Lotus Notesが90年代から培ってきた技術が、「Lotus Notes」と「Workplace Client」を統合した「Hannover」ではWebやオープンな環境においてどのように発展、実現されているのかを紹介した。まずはLotus製品アーキテクチャの将来像が掲出された。
このアーキテクチャを完成させることで、Lotus製品を核とする業務環境ができあがる。そして、これを実現するのが「Lotus Notes」と「Workplace Client」を統合させた次期クライアント環境「Hannover」であり、次期サーバ環境である「Portal 6.0」「Domino 8」「WCS 3.0」なのである。Lotus製品は、常に最新の技術を取り込み、最適なコラボレーションの「場」を提供してきた。これらのバージョンアップも、最新の技術に対応させるためのものなのだ。
また、管理性が高いこともLotus Notesの特徴の1つである。新しいバージョンがリリースされた場合でも、サーバ側の対応で済むため、エンドユーザーコンピューティングの環境は常に安定している。このため、企業内で開発されるアプリケーションは膨大な数に上り、しかもその資産を引き継いでいけるのだ。Lotus Notesから別のものへ乗り換えるという話も聞くが、そのほとんどはグループウェアの部分であり、エンドユーザーコンピューティングの部分はLotus Notesを使用しているという。
関氏は続いて「Hannover」の紹介に移った。Hannoverは、2007年に登場予定のクライアント製品で、「Lotus Notes」と「Workplace Client」を統合させたものになる。Hannoverの特徴は、Lotus Notesで作成したアプリケーションがそのまま動作できるという「継続性のある機能拡張」に対応していること。また「Activity Centric」や「Contextual Collaboration」によって仕事の流れを乱さないよう、見失わないようにする「革新的な方法での作業改善」の実現がある。
さらにHannoverの特徴として、関氏はエンドユーザーコンピューティングを一歩進めた「Conposite Application」による「オープン・スタンダードなアプリケーションモデル」。そして、クライアント側にコードがあってもサーバ側から管理ができる「集中管理」を挙げた。これらの特徴は企業にとって重要なものばかりであり、しかもLotus Notesで作成したさまざまな資産をそのまま引き継ぐことができることも大きなメリットといえるだろう。
続いてHannoverの機能紹介が行われた。まずは「人」による検索である。特定の人物とコラボレーションした仕事や、やり取りしたメールなどを、人の名前から検索できるようになっている。クイック検索の入力窓に人名を入力し検索することで、その人物とのメールやチャット記録、作成したプレゼンテーションなどが検索結果として表示される。仕事の流れの中で結果が表示されるため、わかりやすく活用しやすくなっている。
また「Customer Profiles」の項目では、Lotus NotesやHannoverで作成されたアプリケーションの一覧を確認できる。任意のアプリケーションをクリックすることで、アカウントマネジャーの情報やその仕事の履歴を表示できる。これらが同じ画面上に表示されるため、効率のよい作業が可能だ。さらに、プロジェクト名から検索することもできる。例えばメール画面では、検索したプロジェクト名に関連したメールがハイライト表示される。プロジェクトの流れを確認しながら、誰と仕事したかといった情報を容易に知ることができるのだ。
ここで関氏は「WCS(Workplace Collaboration Services)」の紹介に移った。WCSは、Webブラウザ上でエンドユーザーコンピューティングを実現するコラボレーション環境であり、冒頭で述べた「社内で複数進行するビジネスプロセスのうち、利用する個人に関係する要素を抜き出して表示する」というポータル的な画面表示機能だ。
WCSは、Webブラウザ上でサーバにあるさまざまな機能を利用できるものであるが、リッチクライアント環境でも接続できることが特徴となっている。これを実現しているのが、Lotus Notesに搭載される「WMC(Workplace Managed Client)」である。これは、Webブラウザでオンラインの作業環境を使用できることも重要だが、同時にブラウザベースの限界も考慮した結果となっている。
Webブラウザベースのサービスは、Webメールをはじめサービス内容が充実してきており、非常に使いやすくなっている。しかし、だからといってメール環境をOutlookから全面的にWebメールに移行する人はいない。また、Webブラウザベースのサービスはオンラインであることが前提となるが、ありとあらゆる場所で常に高速なインターネット環境を使用できるわけではない。そこでWMCでは、オフラインの重要性に着目し、リッチクライアントをオフラインで使用できる機能を装備したという。
また、WMCにはデータ同期機能やオフィスアプリケーションへの対応、完全なデータ暗号化によるセキュリティ、そしてLinux、Windowsなどマルチプラットフォームに対応していることなど、多くの利点がある。高度なコラボレーション機能や文書管理機能、既存のアプリケーションとの統合機能などにより、拡張可能なクライアントとプラットフォームとなっている。
ここ数年の流れとして、リッチクライアントの浸透が加速していると関氏はいう。ガートナーの発表では「2005年、デスクトップの48%がリッチクライアントになる」と予測しており、「ブラウザベースのシンクライアントから中程度にリッチでスマートなクライアントへ戻りつつある」というトレンドがあるとしている。一時期は「ブラウザですべてできる」と言われて移行しつつあったことが、やはりリッチクライアントへ回帰しているという。
この理由には、リッチクライアントが持つ高速な応答性、ブラウザよりもリッチなユーザーインタフェースを使用できること、既存のクライアントベースのアプリケーションを統合できる能力があること、ローカルでのビジネスプロセスの実行が可能であり、モバイル運用も可能であることなどが挙げられるとしている。関氏はこの流れを図で説明し、Lotus Notesの流れとブラウザベースの流れは、Managed Clientによって互いの要件の溝を埋め、統合できるとしている。
Managed Clientによって満たされる「要件の溝」は、インタラクティブ性や操作性、複製・オフライン・ローカルストレージの高速性、ネット環境に依存しない安定運用、オフィスツールのカバー、コードのメンテナンス性、セキュリティ、標準準拠、クライアントのインストール・展開の容易性、アプリケーション展開の容易性があるとしている。
作業、開発環境には対話性に優れていることが条件だが、ここでフランスのダッソー社が導入したCADアプリケーション例が紹介された。このアプリケーションはWMCを使用して実現されたもので、3D機能が実装されている。Webブラウザベースでは、次期Ajaxが3D機能を実装するとされているが、WMCはすでに3D機能を実装したコラボレーション環境を実現している。
また、WMCやHannoverのアーキテクチャが紹介された。Notes 7ではWindowsをベースにNotes 7クライアントが動作し、その上にNotesアプリケーションが動いていた。これがHannoverでは、ベースがWindowsだけでなくLinuxにも対応し、その上で「WebSphere Everyplace Deployment」が動作し、さらにその上位でJavaアプリケーションやNotes、Notesアプリケーションが動作する。将来的にはHannoverと「Workplace Managed Client 2.6」がWMC 3.0として統合されることになる。
なお、WMCのアーキテクチャには、クロスプラットフォーム、OSユーティリティの上に、「Eclipse 3.0 Foundation」に対応したUIフレームワーク、コンポーネント統合などのレイヤがある。EclipseはIBMも参加しているファウンデーションであり、共通のプログラミングモデルやSWTによる高速動作を実現している。この上にIBMの拡張サービスがあり、Eclipseベースのプラグインによって拡張できるようになっている。
機能拡張部分では、アプリケーション配付や修正などの管理作業をサーバ側で一元化できるプロビジョニング、SyncMLによるデータ同期、ローカルおよびサーバデータの自動暗号化や詳細なアクセスコントロールによるセキュリティなどの機能が用意されている。これらWMCのアーキテクチャは、オープンなものの上に付加価値を付けるというスタンスであることが分かる。なお、IBM社内ではすでにWMC 3.0がテスト導入されており、WMCのみの環境で仕事ができるよう検証が進んでいるという。
WMCのソリューション例として、ブルーリーフ株式会社のポータル環境および文書管理システムの構築事例、株式会社ノムラシステムコーポレーションの「Workplaceによるフロントエンド統合とリッチクライアント環境の構築」、株式会社Justsystemのxfy technologyを利用したソリューション開発などが紹介された。
関氏は、SOA時代のクライアント環境として、どのようなものに接続でき、かつ、それを意識させないことが重要だという。また、クライアント・ミドルウェアには、組み込み型WCT-ME(WCT Micro Edition)や業務アプリケーション(WED)、リッチコラボレーション(Workplace Managed Client)といったあらゆるクライアントを通じて、場所を選ばずすべての人がアクセスできることが思想であるとした。
さらに関氏はまとめとして、次世代の企業クライアントはリッチなユーザエクスペリエンストと共に、自由なプラットフォームでさまざまなサービスに接続できるリッチクライアントが求められているという背景がある。そしてIBMは、クライアント・ミドルウェアの思想のもとで、それを実現する本格的なリッチクライアントとしてWMCに重点的な投資を行っていくという。
その上で、Lotus Notes/Dominoは、過去の資産を保護すると共に、次世代のコラボレーション環境として新しいユーザエクスペリエンストをリッチクライアント上で実現していくとまとめた。これは、今まではNotesの中だけの環境であったものが、Notesのよさを引き継いだままオープンな環境に移行していくことを意味するという。つまるところ、これがSOA時代への変革なのである。
全国6都市で開催された「LotusDay 2006」だが、Lotus製品の注目度が非常に高いことを実感したイベントであった。どのセミナーも満席であり、参加者は真剣に講演に耳をかたむけていた。また、パートナーによるブースで多くのソリューションが出展されていたが、こちらでも真剣に質問する来場者が目立った。おそらく来場者のほとんどがLotus製品のユーザーであり、急激に移り変わるビジネスシーンにおいて、Lotus製品に何ができるのか、どう対応していくのかを気にしていたのであろう。
Notes/Dominoは常にビジネスパートナーと共にコラボレーション市場をリードしてきた。Notes/Dominoのアプリケーション開発プラットフォームとしての高い資質が多くのパートナーソリューションを生み、それが多くのユーザー企業で活用されているのだ。今では既に定着したEUC(End User Computing)の先駆けであり、今なお多くの事業部門で活用されているNotes/Domino。次世代バージョン「Hannovor」の姿が見えたことでユーザーにとって、使い続けることへの安心感が生まれたのではないだろうか。来場したユーザーたちはその安心感と期待感を胸に会場を後にしたに違いない。
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