これからIFRS導入のプロジェクトにかかわる人が最初に考えないといけないことは何なのか? 考慮すべきポイントを「5W+1H」で解説する。これまでの勉強を生かして、次のアクションに利用してほしい(清文社刊:『成功する! IFRS導入プロジェクト』からの抜粋記事です)。
すでに、IFRSの会計基準そのものについての学習を進めている企業は多いと思います。しかし、いざIFRS導入プロジェクトを立ち上げようとしたとき、何から考え始めればよいのか、戸惑いを感じている方も多いのではないでしょうか。
“自社のIFRS導入方針を考える”という段階においては、いくら個々の会計基準の内容を理解しても、そこから答えは見つけられません。
本稿は清文社の書籍『成功する! IFRS導入プロジェクト』(デロイト トーマツ コンサルティング編)の第3章を抜粋して掲載しています。購入はAmazon.co.jpにアクセスしてください。
【清文社Webサイトから】これからIFRS導入プロジェクトの立ち上げを計画中の経営者、プロジェクトのご担当者の方々必見! IFRS導入を企業にとって価値のあるものにするために、その考え方、具体的な作業ステップ、システム対応等の実務的な面からIFRS導入プロジェクトについて解説。実際に多数のIFRS導入を手がけている著者が、プロジェクトの現場で起こっている、疑問や悩み、課題やリスクに対しての対応策を解説。
ここでは、IFRSの持つ特徴や、導入の意義、取組みのスタンスといったIFRS導入において思慮すべきさまざまなポイントを踏まえて、IFRS導入を検討するうえで考慮すべきポイントを5W+1Hの観点で整理します。
IFRS導入を検討するうえでは、最初にIFRSそのもの(What)を理解する必要があります。ここでいうWhatは、IFRSの「特徴」を意味しています。
IFRSは「資産・負債アプローチ」や「公正価値重視」等の多くの特徴があります。IFRSと現行会計基準の違いを分析し、IFRSに準拠した会計方針を策定するという観点だと、こうしたIFRSの会計方針を特徴づける事項の理解は大切です。
しかし、IFRS導入プロジェクトのなかでは会計方針を決めるだけでなく、会計方針を運用・維持していくための経理体制の構築が不可欠です。
ここでは、そうした経理体制構築を検討するうえでの重要な観点として、IFRSの特徴のうち「原則主義」と「ムービング・ターゲット」の2つに焦点を当てます。
「原則主義」とは、細則を設けない、原則的な会計基準やフレームワークを示すスタイルであり、各社が自己の適切な判断のもと、原則に照らして、経済実態に基づいた会計処理を行うことを促すものです。
すなわち、各社は自社グループのビジネスモデルに即してIFRS基準を具体化したグループ会計方針を策定し、グループ会社に展開する必要があります。これを実現するためには、親会社経理部門の強いリーダーシップに基づく、グループ全体の経理体制の構築が強く求められます。
IFRSは年々、改訂が重ねられていく「ムービング・ターゲット(動く標的)」です。
現在も、すでに複数の基準改訂が予定されています(2010年5月現在)。そのため、IFRS導入プロジェクトにおいては、改訂が予定されている基準について、改訂に先んじて検討を進めるか、確定を待つかといった検討開始タイミングの判断を要することになります。
また、IFRSプロジェクトは導入して終わりではありません。導入後も続く改訂に対応するため、継続的に改訂内容をタイムリーに把握し、必要な会計処理へ変更を行う体制の構築が不可欠です。
IFRSの特徴である原則主義とムービング・ターゲットに適応するための経理体制としては、どのような要件が求められるでしょうか。
まずは「個人的能力の向上」という点です。IFRS基準を理解することはもちろん必要ですが、それだけではありません。グループ全体のビジネスを理解し、会社の採用する会計方針の適正性について、開示や監査対応に際して明快な説明を行うことのできる人材育成が重要となります。
加えて、IFRS基準改訂の最新動向の把握や、海外関係会社向けのグループ会計方針の改訂、海外関係会社との密なコミュニケーションに対応するため、英語力等の向上も重要な課題の一つとなります。
さらに、こうした個人の能力向上に加えて、「組織的対応力の醸成」が不可欠です。
たとえば、新たな取引パターンが発生した時に、最適な会計処理方針を判断できるよう、グループ会社の経理部員などに対する基礎教育制度を充実させる必要があります。それと同時に、会計に関するナレッジセンター機能を親会社経理部門やSSC(シェアードサービスセンター)に持ち、IFRS基準の最新動向を把握・管理するとともに、グループ会社とのコミュニケーションの中心となって、各社で標準的な会計処理が行われるよう統制していく仕組みが必要です。
制度対応だから、強制適用だから、「なぜ(Why)?」を問う余地はない、と考えるのは早計です。
あまりに「義務感」が強調されてしまうと、IFRS導入に対する視野を狭め、導入作業や新業務に対する負担感が先に立って、IFRS適用に対するモチベーションの低下を引き起こす恐れもあります。
ここでいうWhyは、IFRS導入の「意義」とその「必要性」です。IFRS導入のメリットをよく理解し、中長期的な視点で自社にとっての「Why」の答えを明確にすることが重要です。
すなわち、IFRS導入を「制度対応型」で進めるか、継続運用と業務効率化も視野に入れた「業務効率指向型」を進めるか、IFRS導入を機に「経営改革指向型」を目指すのかという3つのレベルのうち、どの方針で取り組むか、ということです。
IFRSが大きな改善機会であることを考えれば、「制度対応」だけで終わらせるのではもったいない、というのが筆者の所感です。
IFRS導入は、時間も手間もかかる、それだけでも非常に難しい仕事です。多くのコストと時間を費やして得るものが単なる制度対応では士気も下がります。ゴールを高く設定すれば、それだけプロジェクト遂行の難しさは増すことになりますが、業務効率化や経営改革という自発的な目的を持つほうが、プロジェクトの範囲が広がり、プロジェクトメンバーや関係者のモチベーションも高まり、より良い結果が期待できるのです。
(次回へ続く)
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