2010年11月24日 08時00分 UPDATE
特集/連載

【IFRS】IFRS基準書テーマ別解説【15】IFRSの中間財務報告、1株当たり利益、関連当事者の開示

IFRSの3つの会計基準について説明する。1事業年度に満たない期間における財務報告を指す「中間財務報告」、企業の収益率と1株の価値を測る指標として使われている「1株当たり利益」、そして「関連当事者についての開示」の3つ。それぞれ日本基準との共通点、相違点を解説する。

[榎本尚子,仰星監査法人]

 IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の中間財務報告(IAS第34号)、1株当たり利益(IAS第33号)、そして関連当事者についての開示(IAS第24号)をそれぞれ解説する。日本基準との共通点、相違点を説明したい。

中間財務報告

 中間財務報告とは、1事業年度に満たない期間における財務報告のことである。半期財務諸表や四半期財務諸表はこれに該当する。

 以下では、IAS第34号の規定に従って要約財務諸表を作成する場合の取り扱いについて、日本基準との差異のある項目を中心に解説する。

準拠すべき会計基準

 IFRSでの中間財務報告では、完全な1組の財務諸表か要約財務諸表を作成するが、前者の場合にはIAS第1号の規定に従い、後者の場合にはIAS第34号の規定に従うこととされている。

 これに対し日本基準では、四半期財務諸表は「四半期財務諸表に関する会計基準」に準拠して作成することとされており、年度と同じ基準で作成するという実務は行なわれていない。

作成すべき財務諸表

 IAS第34号では、要約財政状態計算書、要約包括利益計算書、要約キャッシュ・フロー計算書、重要な事象と取引の注記のほかに、要約持分変動計算書も作成する必要がある。

 日本基準では、四半期連結株主資本等変動計算書の作成は要求されていない。これは主に事務負担を軽減するためであるが、株主資本の金額に著しい変動があった場合には主な変動事由を注記することが求められている。

 なお、重要な事象と取引の注記は、2010年度の年次改善により従来の「精選された説明的注記」から「重要な事象と取引の注記」に変更され、2011年1月1日以後開始事業年度から適用される。

重要性

 IAS第34号では、重要性は中間期間の財務データとの関連において検討しなければならないとされている。日本基準では、四半期財務諸表の表示区分の重要性については数値基準が設けられているが、会計処理の判断における重要性について具体的な規定はない。

認識と測定

・会計方針

 IAS34号では、中間財務諸表では年次財務諸表で適用しているのと同様の会計方針を適用しなければならない。中間期間の資産、負債、収益および費用を認識するための原則は、年度の財務諸表におけるものと同様である。ある中間期間に引き続く中間期間において、見積もりが変更されることになった場合には、当初の中間期末における見積もりを修正することになる。

 これに対し日本基準では、原価差異の繰延処理や税金費用の計算における四半期特有の会計処理や、棚卸資産の評価方法や固定資産の減価償却費の算定方法などの簡便な会計処理が認められている。

・税金費用の計算

 IAS第34号では、事業年度全体についての予想加重平均税率を用いて税額を算定する必要がある。日本基準では、予想加重平均税率を用いる方法は例外として認められているが、年度と同様の方法で算定することが原則とされている点に留意が必要である。

修正再表示

 会計方針の新たな適用や変更あるいは誤謬(ごびゅう)の訂正は、別に定めのある場合を除き、表示されている要約財務諸表の最も古い期間の期首の累積的影響額を含め修正再表示する。これは、ある取引に対して年度を通じて単一の会計方針を適用するためである。

 日本基準では、これまで会計方針の変更や誤謬の訂正に伴う遡及的修正は行なわれていなかったが、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)が適用されるのに伴い、四半期報告も年度同様の取り扱いとなることが決まっている。すなわち、2011年4月1日以降開始事業年度より、会計方針の新たな適用や変更あるいは誤謬の訂正は、別に定めのある場合を除き、表示されている要約財務諸表の最も古い期間の期首の累積的影響額を含め修正再表示する。

今後の動向

 中間財務報告は、IASB(国際会計基準審議会)の財務諸表プロジェクトのフェイズCで取り上げられる予定であるが、現在は同プロジェクトのフェイズB(財務諸表の表示およびキャッシュ・フロー計算書)が完了していないので、未着手となっている。

1株当たり利益

 1株当たり利益は、企業の収益率と1株の価値を測る指標として財務諸表の読者により広く利用されている。IFRSではIAS第33号に、日本基準では「1株当たり当期純利益に関する会計基準」およびその適用指針にその算定方法を定めている。以下ではIAS第33号の取り扱いについて、日本基準との差異のある項目を中心に解説する。

 なお、IAS第33号における「基本的1株当たり利益」「希薄化後1株当たり利益」が、日本基準ではそれぞれ「1株当たり利益当期純利益」「潜在株式調整後1株当たり当期純利益」という用語になっているが、実質的な差異はない。

適用範囲

 IAS第33号が適用されるのは、公開企業または公開準備企業である。日本基準の「1株当たり当期純利益に関する会計基準」は、1株当たり利益を開示するすべての場合に適用されることになっており、開示の要否はほかの開示規定に従うこととされている。

遡及修正

 IAS第33号では、(1)対応する資産に変動がなく発行済み株式が変動する場合、および(2)会計方針の変更または誤謬の訂正が行なわれる場合には、過年度の1株当たり利益を修正する必要がある。(1)には、無償交付や株式分割などにより株式数が変動する場合が該当する。この場合、表示されている最も古い期間の期首に無償交付や株式分割が行なわれたかのように取り扱い、その後の期間の損益を調整する。

 日本基準では財務諸表の遡及的修正の実務がなかったために、上記のような取り扱いはなく、(1)の場合にのみ前期首に株式分割等が行なわれたものと仮定した場合の前期の1株当たり利益の注記が要求されていた。2010年6月の改正によりIAS第33号と同様の取り扱いが行なわれることとなった(適用開始は2011年4月1日以後開始事業年度から)。

当期純損失の取り扱い

 IAS第33号では、利益・損失にかかわらず、1株当たり利益に関する数値を開示するように求めている。日本基準では、1株当たり当期純損失の場合にはその旨を開示し、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は開示しない。

継続事業と非継続事業

 IAS第33号では、1株当たり利益について企業全体としての利益のほか、継続事業と非継続事業に区分した利益の表示が求められている。日本基準では非継続事業に関する規定がないことから、現在のところこれらの区分は求められていない。ただし、2009年7月に公表された「財務諸表の表示に関する論点の整理」では、非継続事業に関連する損益の表示について取り上げられている。日本においても非継続事業に関する取り扱いが規定されることとなった場合には、併せて1株当たり利益についての開示も検討されると考えられるので、今後の動向に留意が必要である。

今後の動向

 1株当たり利益プロジェクトは、IFRSと米国の会計基準の差異を解消するために行われているが、現在活動を休止している。日本基準でも、コンバージェンスの項目の1つに掲げられているが、現在休止している。

関連当事者についての開示

 関連当事者との取引は、第三者間の取引と同一条件で行われない可能性がある。また、ある関連当事者の存在が企業の財政状態や損益に影響を及ぼす可能性がある。関連当事者についての開示は、これらの影響を財務諸表利用者が把握できるように情報を提供するものである。

 IFRSではIAS第24号に、日本基準では「関連当事者の開示に関する会計基準」およびその適用指針に関連当事者の開示に関する規定がおかれている。両者には大きくはないが差異があるので、以下では主な差異について述べる。

適用範囲

 IFRSでは、連結財務諸表だけでなく、個別財務諸表を開示する場合には個別財務諸表においても関連当事者に関する開示が求められる。日本基準では、連結財務諸表に関連当事者の開示を行っている場合には、個別財務諸表での開示を要しないとされている。

関連当事者の範囲

 IAS第24号において関連当事者は具体的に列挙されているが、関連当事者であるかどうかの判断に当たっては、単に法的形態ではなく関係の実質に留意しなければならないとされており、実態による判断が必要となる。日本基準では、関連当事者を「ある当事者が他の当事者を支配しているか、又は、他の当事者の財務上及び業務上の意思決定に対して重要な影響力を有している場合の当事者等」と定義したうえで、項目を列挙している。規定の定め方に若干の差異があるが、実質的な関連当事者の概念はほとんど同様であると考える。

 またIAS第24号では、必ずしも関連当事者に該当しないものを定めているが、日本基準にはこのような定めはない。日本基準では、取引相手の態様から開示対象とするかどうかの判断をするのではなく、取引条件から開示対象取引とするかどうかを判断することとなっている。例えばIAS第24号では、金融機関、労働組合、公共事業体、政府機関がその通常の活動により企業と取引を行っている場合には、必ずしも関連当事者にならないとしている。これに対し日本基準では、一般競争入札や取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引は、開示対象外とすることとなっている。

開示内容

 IAS第24号における開示内容は、支配関係、関連当事者との取引および経営幹部に対する報酬である。支配関係とは、親会社と子会社の間の関係であり取引の有無にかかわらず開示を求められる。

 経営幹部に対する報酬については、IFRSでは退職後給付や株式報酬といった報酬の分類ごとに金額を開示する必要がある。日本基準では、非財務情報として(即ち財務諸表の注記ではない個所に)役員報酬の開示が求められている。

重要性

 IAS第24号では、関連当事者に関する開示の要否にかかわる重要性の判断基準は規定していないので、重要性の基本的な考えに従って判断する。ただし、関連当事者との取引は「関連当事者間の資源、役務または債務の移転をいい、対価の有無を問わない」と定義されているので、対価がゼロであることをだけをもって重要性がないと判断することができないことに留意が必要である。日本基準では、開示の要否にかかる重要性の数値基準が定められている。

今後の動向

 2009年11月にIAS第24号が改訂され、政府関連企業に対する開示要求の簡略化と関連当事者の定義の明確化が行われた。改訂IAS第24号は、2011年1月1日以後開始する期間から発効する。日本基準については、現在のところ大幅な改定の予定はない。

榎本 尚子(えのもと なおこ)

仰星(ぎょうせい)監査法人

パートナー 公認会計士

一橋大学商学部卒。監査法人朝日新和会計社国際事業本部アーサー・ヤング(現新日本有限責任監査法人アーンストアンドヤング)、監査法人芹沢会計事務所(現仰星監査法人)にて会計監査業務に携わる。現在は、国際業務の責任者として、国際会計基準への移行支援業務及び研修企画、所属する国際ネットワークへの対応業務、国際的な監査業務などに従事している。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。


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