早くからIFRSに取り組んでいる富士通。IFRS解釈指針委員会の委員も務める同社のIFRS推進室長はIFRS適用について「日本基準による従来のやり方がIFRSでも問題ないことをあらためて確認することが、現実的な作業の中心」と話す。同社がこれまで行ってきた取り組みを紹介する。
富士通の財務経理本部でIFRS推進室の室長を務める湯浅一生氏が5月18日の同社イベントで講演した。同氏はIASBのIFRS解釈指針委員会の委員も務める(関連記事:富士通「IFRSは真のグローバル企業になるために」)。「今、IFRSとどう向き合うか」というタイトルで話されたセミナーの内容をお伝えする。
富士通はロンドンに上場しており、2000年代前半にはIFRSが上場維持の要件とされたことから検討に取り組み始めた。2004年には「IAS推進準備室」を組織(2005年に「IFRS推進室」に改組)した。その後、同等性評価が得られて日本基準のままでもロンドン上場が維持できることとなったが、同社は日本基準をベースにIFRS適用に向けて会計方針の変更などを行ってきている。「IFRSに関わりはじめて既に7年になる」(湯浅氏)。現在はIFRSの任意適用を目指して社内での取り組みを続ける一方、積極的に意見発信するなど、IFRSの基準開発にも深く関わっている。
湯浅氏は自社での経験から、「IFRSに向けての取り組みは、日本基準による従来のやり方がIFRSでも問題ないことをあらためて確認することが、現実的な作業の中心だ」と話す。もしこれまでのやり方を変える必要があるなら、それはIFRSが要因ではなく「もともと抱えている本質的な経営課題ではないか」。実際、富士通もIFRSに取り組む中で、さまざまな会計方針を変更してきた。だが、その多くは同社のビジネスの変化によってそれまでの会計方針が適合しなくなってきたのが大きな理由だ。
例えば同社は2007年に固定資産の減価償却方法、耐用年数を変更した。固定資産会計は日本基準からIFRSに移行をする上で最も大きな障害になるといわれている。しかし、湯浅氏は「IFRSへの移行のために問題になったから、という理由で変更したわけではない」と話した。
「IFRSは定額法、定率法、生産高比例法を認めている。どの方法が最もビジネス実態を反映しているのか、会社が決めるのが重要だ。税法ベースの耐用年数についてもある程度の使用期間の実態やビジネスサイクルを反映していると言えるのであれば、必ずしも駄目というわけではないはず。実態を説明して監査法人と合意できれば定率法や法定耐用年数でも十分行けると思う」
実際、IASBでは減価償却について「基本的には判断の問題」であることを説明する「教育文書」を公開している(リンク)。
富士通は、2007年に減価償却方法を全てのビジネスユニットで定額法に変更した。その背景には「富士通のビジネスがサービス中心に変わってきた」ことがある。特にアウトソーシング事業は顧客から継続的に収益を得るビジネスで、定率法でデータセンターの設備を償却する方法ではビジネス実態を反映できないと考えた。そのため定額法の採用が浮上した。
LSI事業についても同様に定額法に変えた。LSIは工場立ち上げ後、歩留まりが安定するまで時間がかかるのが一般的。「そのため当初は利益が上がらない。歩留まりが安定すると生産が一定になり、値段が下がる。定率法で償却すると1年目と2年目に大きな損が出る。本当にそれでいいのか。もっと長期的に均質に利益が上がるような償却方法の設定をすべきではないかと議論になった」
一方、すぐに陳腐化し、価格が下落するHDDの事業などはむしろ定率法が適していたかもしれないと湯浅氏は話す。だが、富士通の場合はビジネスユニット全てが定額法を採用する方針の中で、「最終的には合わせた」という。
また耐用年数についてもこれまでの実績やビジネスサイクルなどを考慮し、ビジネスユニットごとに独自設定した。
日本企業がIFRSを適用する上でのもう1つのハードルが開発費の資産計上だといわれている。6つの要件を立証できる場合に、開発費を資産計上する必要がある。「この立証が難しい」と湯浅氏は話した。
研究開発の各フェイズの中で、基礎研究フェイズは費用処理し、製造フェイズでは棚卸資産となる。難しいのはその間にある開発フェイズ。開発フェイズも企画、基本設計、詳細検討、量産設計と段階が分かれている。富士通では「量産設計が終わって実際にものを作るかの判断をするまで試行錯誤が続く」としていて、「結果的に資産計上をする対象はほとんどなく、ほぼ全てを費用計上することになるだろう」と判断している。また開発フェイズのどこで6つの要件を満たすことになるかを立証するには、ドキュメントや承認プロセスの整備が必要かもしれないが、既に実施している開発の管理プロセスを変更する必要はないはずだという。
現在、IASBで議論が続いている収益認識についても、IFRSへの対応よりも、富士通のビジネス上の課題解決が優先して考えられている。富士通では総合的なITサービスの提供拡大によって、製品とサービスの区別や、プロジェクトの進捗管理、製品とサービスを組み合わせた新しい形のビジネスへの対応などが求められている。これらの事業を正確に認識し、適切にセグメントに配分することは「従来から富士通にとっての課題だった」。配分のルールがあいまいになってしまうとビジネスユニットの業績評価が左右され、ビジネス実態を正確に表すことができなくなる。「この課題は日本基準でも、IFRSでも変わらない」(湯浅氏)。
富士通は2005年にソフトウェア開発(SI)の売上計上基準を工事進行基準に変更した。開発を細かいフェーズに分けることで進捗を管理し、契約も分割するようにした。工事進行基準自体はIFRSあるいは現行の日本基準でも対応が求められるが、これも「プロジェクトを見えるようにして、タイムリーにアクションを取れるようにすることが根本的な理由」(湯浅氏)。結果的にプロジェクトにあるリスクの認識が早くなり、不採算事業の減少につながっているという。
システム的には同社は2011年度に連結決算システムを刷新した。導入したのは自社の「SUPER COMPACT Pathfinder」で、IFRS実現のために連結決算業務全体の運用効率化・高度化を目指した」という。現行の運用フローは変えずに業務サポートするシステムの実現が目的だった(TechTargetジャパン関連記事[要会員登録]:IFRS任意適用企業が評価する「SUPER COMPACT Pathfinder」の強みとは)。
湯浅氏はこれまでの会計方針変更の経験から「日本基準からIFRSへの移行のハードルは低いはず」と話す。ただ、IFRS適用自体をプロジェクトの目的にするのではなく、「取引の実態、ビジネス実態をよりよく反映する仕組み作りのきっかけとしてIFRSを前向きに捉えるべき」と強調した。「個人的には早くIFRS適用の取り組みは終わらせて、経理としての本業である、ビジネスへのサポートに注力したいと思っている」
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