3Dプリンティングが企業や技術の在り方を変革する中で、CIOはビジネスを実現する存在としての新たな役割を担い得る。
3Dプリンティングの利用は単なる拡張製造ツールや技術ではなく、根本から異なる製造プロセスと能力を創出する。3DプリンティングはStratasysと1984年の熱溶解積層法(FDM)の発明にさかのぼるが、3Dプリンティング技術の多くはRepRapのようなオープンソースコミュニティーに貢献してきた関係者の熱意に根差している。
当初の3Dプリンタが利用できる材料はプラスチックに限られていたが、さまざまなサプライヤーが幅広い材料で印刷する技術を開発し、新しい用途をひらき、3Dプリンティングの機能をさらに高めて拡張性の高いプロセスへと転換させてきた。
価格の低下とコンポーネント技術によってハードウェアの革新に弾みがつき、3Dプリンティングの市場は拡大した。2013年にミシガン工科大学のチームが開発したレーザー焼結印刷のコストは、当時のハイエンドプリンタの1%にも満たなかった。
印刷コストが低下すれば、ハイエンドメーカーはKickstarter上の「技巧的」DIY新興勢力に対抗するために価格を引き下げる。
現在の3Dプリンティング市場は、高度に専業化された用途向けと汎用(はんよう)マシンとに細分化されたが、そのルーツは革新的なメーカーが過去20年以上かけて開発してきた多様な技術にある。
プリンタメーカーを越えて補完的なソフトウェアやサービスを提供するプロバイダーが台頭し、機能やノウハウの溝を埋め、3Dプリンティング技術のリーチを拡大させている。
レガシーな設計ツールは、3Dプリンティング技術を前提としてない。そのためソフトウェアサプライヤーは標準的なモデリングツールの開発を進めている。デジタル界に存在する3Dボクセル(容積ピクセル)を3Dプリンタで造形する物体へと転換させるには、依然として複雑な技術的課題が残る。
Tech Soft 3Dが開発した「3D PDF」のように、2次元印刷分野のPostScriptやPDFに似たイノベーションが今後も続くだろう。AdobeやAutodeskはポートフォリオを拡大し、さまざまなソフトウェアとハードウェアで横断的に相互運用性を実現する製品を打ち出している。
必要なスキルや資本を持たない個人や組織のために、この技術を模索し、さまざまなビジネスモデルを立ち上げさせてくれるサービスが存在する。こうしたサービスは、エンドツーエンドの3Dプリンティング製造プロセスをアウトソースすることによって顧客を支援する。例えばNeiman MarcusはShapewaysと組み、注文に応じてカスタマイズできるジュエリーを提供している。
だがそうしたビジネスモデルはまだ初期の段階にある。プリンタの価格が下がり製造時間が短縮されれば、顧客にシームレスに対応できるキオスクモデル(例えば「Kinko」のような)が台頭するだろう。
現在の3Dプリンティングは、大量生産品に比べて高い単価を支払っている精密度の低い小さな部品の製造に最も適している。だがいずれ革新が進み、ハードウェアと材料が拡大して複雑な工業部品も製造できるようになり、現在は限られている高額な航空宇宙部品への用途も拡大する。
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3Dプリンティングの最初で最も有望な用途は高速プロトタイプ製作で、アジャイル製品開発の新たなペースを生み出している。プロトタイプ印刷はわずか数時間しかかからないこともあり、設計とテストのサイクルを数カ月から数週間へと短縮している。
ドイツの家電および商用車メーカーSeufferは、Stratasysの3Dプリンタを使ってリードタイムを98%短縮した。
競って市場に参入するライバルに追い付くため、プロトタイプ製作の高速化はB2C製品からB2B製品に至るまで、設計組織にとっての標準プロセスになるだろう。
印刷可能な物体が拡大すれば、カスタム生産に対応できる製品やサービスが増えるとForrester Researchは予想する。現在、3Dプリンティングは急速に、人工装具や補聴器、歯科インプラントなど、注文に応じて生産する医療器具製造の標準的な手法になりつつある。
汎用消費者製品としては、個人に合わせたチェスセットからジュエリー、サングラスに至るまで、注文に応じた形やサイズ、色を実現できる。例えばSculpteoは、顧客が自分の好みに合わせたスマートフォンケースをデザインしてカスタマイズし、注文できる。
材料が多様性に欠けること、そして印刷の精密さに限界があることから、複雑な製品の製作は研究開発や芸術、一部の工業グレード部品に限られる。材料の範囲が広がり、プリンタの精度が高まれば、新しい製品の商業的可能性が増し、複雑な工業課題を解決することによって新しい市場が創出される。
NASAは既にこの可能性に目を向け、微小重力下で印刷できる3Dプリンタの開発に向けてMade In Spaceと契約した。3Dプリンタを使えば、入手に何カ月も何年もかかっているスペア部品が造形できるようになる。
3Dプリンティングは製造工程の初期段階における柔軟性と転換を実現し、複数の部品から成る部分組立品の代替となる1つの部品を製造できる。例えば製造と組み立てを行って次の段階へと移送しなければならない複数の個々の部品を、プラスチックフィラメントのスプールや粉末の容器に入れ替えることが可能だ。
色や材料を変えるためのコストやセットアップ時間がほとんどあるいは全くかからないことも多いので、新しい金型や鋳型にコストや時間をかけることなく、デザインや色、風合いといった特性を簡単かつ即座に変更できる。従って部品や部分組立品がインターネットの速度で変更でき、サプライチェーンにとっては工場や輸送上の柔軟性が増す。
3Dプリンティングが部品の製造に使われる場合、工程のその部分は必然的にデジタル化され、全要素がソフトウェアの継続的なコントロール下で製造される。対照的に、従来型のスタンピングや組み立てラインプロセスでは、製造は完全なアナログで、そのプロセス上にデジタル認識とコントロールを組み込むためにセンサーと自動化が使われる。
企業が柔軟性や可視性の価値を認識すると、アナログ製造プロセスにビジネス技術を付加して、3Dプリンティングに由来する新しい形態のデジタル化を補完し拡張しようとする。
ハードウェアコストの低下に伴い、さらに多くの製品やサービスがカスタマイズ化の余地を吸収できるようになり、ロングテール生産の経済に弾みがつく。
ForresterはCIO(最高情報責任者)に対し、製品工学やプロトタイプ製造、生産に関する現在の技術管理プラクティスを評価して、3Dプリンティング技術の採用でそれがどう変わるかを予想するよう促している。
柔軟性の低いERPやサプライチェーンおよびPLM(製品ライフサイクル管理)ソリューションは、コストや管理体系が変化する動的な製造環境に対応した最善の専用システムに取って代わられる。
ビジネス分析は製造プロセスをエンドツーエンドで分析するために新たなデータに備える必要がある。高速分析と生データの極度なスケールでの運用を特徴とするシステムも、もう1つの条件となる。
IT部門は大量カスタマイズのためのバックエンドインフラ合理化に備える必要がある。大量カスタマイズのビジネスモデルを導入すれば、管理しなければならない固有の製品の数が急増する。
データの洪水状態を処理できる設計になっていないデータベースは失敗する。例えばCMS(コンテンツ管理システム)は、デジタル青写真の形で存在する製品の単一ソースを中心として、数千とはいわないまでも、数百種類の製品のバラエティに対応しなければならない。
デジタル製品の青写真は顧客とサプライヤー、パートナーの間を行き交うことから、CIOはセキュリティ慣行とデジタル権利管理(DRM)についても再考する必要がある。
製品の完全性を保つためには、暗号化を強化してアクセスプロトコルの厳格化を図り、設計図と製品青写真を守る必要がある。CIOは、共有クラウドとファイアウォールの背後のシステムを横断するDRMの未成熟な市場に直面する。
3Dプリンティングの利用は、ビジネスと技術の在り方を変革させる可能性を秘め、CIOにとってはビジネスを実現させる存在としてふさわしい役割を担う新たな機会が開ける。
ForresterはCIOに対し、製造部門や工学部門との調整役を置いてその事業の革新的な慣行やニーズについて理解を深めることを提言している。
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