2021年07月09日 08時00分 公開
特集/連載

メールセキュリティ最大のリスクは送信メール情報漏えいはいつ起きる?

受信メールの安全性をチェックすることは重要だが、そこにセキュリティ対策が偏り過ぎている。情報漏えいは送信メールでこそ発生するのだ。

[Alex Scroxton,Computer Weekly]

 多くのメールセキュリティ製品は、受信メールをスキャンし、フィルターで安全性を確認する。だが、医療情報学を携えてサイバーセキュリティ分野に参入したリック・グード氏のアプローチは少し違う。同氏は統計上、メールの最大の脅威は受信ではなく送信にあると言う。

 グード氏はオランダ企業Zivverの共同創設者兼CIO(最高情報責任者)だ。「GDPR(EU一般データ保護規則)の立法手続きが進んでいた約6年前、人々はメール、『Dropbox』『WhatsApp』、郵便、宅配便、FAX、安全性の低いSaaSツール、ユーザーフレンドリーなポータルを使って非常に機密度が高い情報を共有していた」

 「人々にその理由を尋ねると、決まって“簡単・安全に共有する方法が分からない”という答えが返ってきた。恐らくそれは本当の理由ではないと思って探したが、十分なセキュリティを確保したユーザーフレンドリーな製品は見つからなかった」(グード氏)

 グード氏が見つけた製品は全て、メールを暗号化してサイバー犯罪者にデータを傍受されないことに重点を置いていた。だが当時の統計によると、情報漏えいの原因はサイバー犯罪者ではなく、ユーザーのエラーが大半だった。

 「全情報漏えいの80〜90%は従業員のミスが原因だった。ミッションドリフト、脆弱(ぜいじゃく)なパスワードの使用、適切ではないファイルの添付、宛先をBCCではなくCCに入れるといったミスが多かった。誰もこの状況に真剣に取り組んでいないと考えた。それがZivverの出発点だ」(グード氏)

送信メールのセキュリティに取り組まない理由

 グード氏によると、送信メールのセキュリティに注意が払われない理由は主に2つあるという。まずセキュリティのさまざまな側面を1つの概念に押し込んでしまっていることにある。その概念がセキュリティのニーズに合っているとは限らないのにだ。

 「これまで、メールのセキュリティを1つのことのように話してきたが、実際には3つの異なる領域が集まっている。脅威保護、ブランド保護、メールデータの保護(メールで共有する機密データのセキュリティ確保)だ」

 だが、伝統的に重点が置かれてきたのは脅威保護の領域だ。それが不当だということではないとグード氏は言う。フィッシングはユーザーが最も認識しており、セキュリティチームが容易に定量化して解決できる接点だ。

 「送信メールのセキュリティに目を向けると、エラーが発生する可能性のあるフェーズが10種類ある。1つの接点のセキュリティを確保するだけでよい受信メールよりも複雑になる」(グード氏)

 2つ目の要因は、GDPRとヨーロッパ以外の関連法規の導入だ。これにより、ユーザーが雇用主のデータを独自に処理することがリスクとコンプライアンスの点で複雑な問題になる。

 複数の宛先をBCCではなくCCフィールドに追加することがGDPR違反と見なされる場合、組織の誰かが間違って規制に違反しないように気を付けるのは難しい。

 「解決が難しいことと認識不足が重なって、大半の企業はこの問題を放置しているのだろう。その状況は急速に変化しているが、こうしたリスクの対策をしている企業が5%を上回ることはないだろう」(グード氏)

 テレパシー通信が実用化されないのであれば、今後しばらくはメールが使われるだろうから、こうしたリスクへの対処は重要だ。既に数十年この問題は放置されている。

 「メールのプロトコルは1970年代にさかのぼる。当時はセキュリティを考慮していなかった。メールがグローバルに使われるようになった今、そのプロトコルを進化させなければならない。それには多くのステークホルダーを巻き込まなければならず、GDPRが求めるセキュリティのプラクティスに追い付くことはできない」

 「その結果、ジレンマが生まれる。みんなが使っているのでメールを使いたい。GDPRの要件に準拠していないのでメールを使いたくない。このギャップをどのように埋めるかが企業にとって最大の課題の一つになる」(グード氏)

 このギャップを埋める方法として従業員トレーニングがある。だが「PowerPoint」を使った退屈なプレゼンテーションに従業員を導くことは難しく、ほとんど効果はない。

 「使いやすいメールデータ保護製品を導入する必要がある。こうした製品があれば、従業員が機密情報を含むメールを送信する際に適切かつ安全な意思決定が可能になる」(グード氏)

 「セキュリティとユーザビリティーの適切なバランスが重要だ。シームレスに組み込まれた直感的で使いやすいセキュリティ製品があれば、技術に詳しくない従業員でもサイバーセキュリティの取り組みに参加できる」

 「この多層アプローチによって送信メールのセキュリティが最適化され、個人情報の安全な取り扱いによって顧客の信頼を高め、GDPRや英国のData Protection Actなどのプライバシー規制の違反が防止される」

ギャップを埋める、Teslaスタイル

 自動車メーカーのTeslaは、基本的なルック&フィールは変えずに自動車の考え方を根本的に設計し直している。同社の「Model S」は電気自動車には意味のないラジエーターグリルを装備していた。他社の電気自動車にラジエーターグリルはない。

 グード氏は、急進的なデザインは顧客に受け入れられない恐れがあると考えている。Teslaが斬新なデザインを導入した部分では実際に課題が生じている。後部座席のガルウイングドアはクールに見えるが、立体駐車場でこのドアを開けてしまうと問題が発生する恐れがある。

 Zivverはルック&フィールの点でメールセキュリティに期待されるものを全て複製することで、「Microsoft Outlook」「Microsoft 365」「Gmail」などの既存のインフラにシームレスに統合される。一方、ボンネットの下では全く異なることを行い、メッセージングを全く新しいものにすることをグード氏は考えている。

 ZivverのSaaSは監視と機械学習を組み合わせて、メールの作成中に内容やユーザーの行動を構成する要素を検査し、コンテキストに基づいて適切なセキュリティを適用する。

 よく使う宛先に「遅れてしまった。5分後には到着する」という簡単なメールを送信することは恐らく問題ない。だが、医療情報や社会保障データに見えるものを新しい宛先に送信しようとするとユーザーに警告が送られ、暗号化などの対策が適用される。

 「これらはキー入力中に検出する。送信する前だ。メールクライアント内で機能を偽装することで、ユーザーがメールで起こし得る間違いを防ぐことが可能になる」(グード氏)

 ZivverのSaaSは送信時にメールを必要な形式や通信プロトコルに変換し、デジタル署名やメールシステム以外(ERPやCRMなど)にリダイレクトする機能などを追加する。

 個人の習慣やビジネス上のメリットというレンズを通してメールを組み立てることで多数のユースケースをサポートし、偶発的な情報漏えいを防げるとグード氏は話す。

 「Teslaは、未来の自動車も現在の自動車を模倣しなければならないことを理解していた。模倣すれば人々は運転方法を理解できる。だが、内部では過去の自動車とは全く異なることが行われている。同じことをデジタルコミュニケーションで行おうとしている。メールを模倣するため、人々は扱い方を変える必要はない」

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