コンピュテーショナルストレージの最新技術動向コンピュテーショナルストレージ最新動向【前編】

データをCPUに転送することなくストレージで処理するコンピュテーショナルストレージ。その定義と技術動向を紹介する。

2021年07月07日 08時00分 公開
[Stephen PritchardComputer Weekly]

 データ増とその迅速な処理の必要性が高まるにつれて、ネットワークエッジにおけるデータ処理はますます重要になっている。その延長線にあるのがコンピュテーショナルストレージだ。

 コンピューティング、ネットワーク、ストレージが分離している従来のITシステムには、各コンポーネント固有のボトルネックが伴う。これに対する一つの選択肢がHCI(ハイパーコンバージドインフラ)だ。

 コンピュテーショナルストレージはこれをさらに一歩進め、ストレージサブシステムに演算能力を組み込んだ。このアイデアの支持者は、これによりさまざまな状況で高い効率性を発揮するという。例えばセンサーやIoT(モノのインターネット)の急増によってデータ量が増加する状況やAIで迅速な処理が必要な状況だ。

 ただしコンピュテーショナルストレージは比較的未熟で、サプライヤーもわずかだ。

コンピュテーショナルストレージを必要とする要因

 ストレージの業界団体SNIA(Storage Networking Industry Association)は「コンピュテーショナルストレージのターゲットは増え続けるストレージワークロードを処理する需要が従来のサーバアーキテクチャを上回る場合」としている。その例として、SNIAはAI、ビッグデータ、コンテンツ配信、暗号化と復号、データ圧縮、重複排除、ストレージ管理などのワークロードを挙げている。

 データの増加がきっかけになっているのは確かだ。ただしデータ増だけではなく、処理速度の向上や反復タスクのオーバーヘッド削減へのニーズも後押ししている。

 PA Consultingのアンドリュー・ラーセン氏は次のように話す。「当社は機能が段階的に増えていくと見ている。つまり画期的な変化ではなく漸進的な変化だ。この技術が主流になるにつれ、前処理、圧縮、暗号化、重複排除やデータ検索など、もっと幅広く使われるようになるだろう」

 資料によると、コンピュテーショナルストレージは従来アーキテクチャよりもCPUやエネルギーの負荷が低いという。コンピュテーショナルストレージは、サーバにデータを送信する前にデータをフィルタリングできる。CPUワークロードの一部がコンピュテーショナルストレージに引き継がれるので、データセンターでも有効だ。

 従来のサーバストレージアーキテクチャは、CPUがデータを要求してタスクを実行し、そのデータをストレージに送り返す。コンピュテーショナルストレージならば、CPUは暗号の復号のようなタスクを「インテリジェントな」ストレージに送り込む。データをドライブから移動する必要がないためセキュリティ的にもメリットがある。

技術とデプロイのオプション

 コンピュテーショナルストレージは高速なSSD、低価格のプログラマブルアレイや処理コア、効率の高いインタフェースで構成される。

 フォームファクターは通常、U.2ドライブかM.2 NVMeドライブ、PCIeカードだ。EDSFF(Enterprise and Data Center SSD Form Factor)の製品を提供するサプライヤーもある。例外はSamsung Semiconductorの「SmartSSD」で、標準の2.5インチSSDベースだ。

 コンピューティング機能は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)またはArmベースのSoC(System-on-Chip)で提供される。

 現在はFPGAを採用する製品が多く、特定の機能(通常はストレージ管理の共通機能)がプログラミングされた「固定」のシステムを購入できる。カスタムシステムまたはプログラム可能なシステムであれば、低レベルのFPGA言語またはXilinxの「Vitis」などのツールを使って独自機能を追加できる。

 ArmコアSoCを使うサプライヤーも登場した。ArmコアSoCベースの製品は「Linux」を実行でき、コンピュテーショナルストレージをさらに拡張できる可能性がある。

 SNIAがサプライヤーに期待するのは、イーサネットなどのネットワークを追加してコンピュテーショナルストレージ同士がピア・ツー・ピアで通信可能になることだ。だが、今のところArmベースのコンピュテーショナルストレージを製造しているのはNGD Systemsだけだ。

 コンピュテーショナルストレージには多数の用途があるため、この技術の市場は均一ではない。今のところ、サプライヤーは用途別、インタフェース別、プログラミング方法別、管理方法別の機器を開発している。専用サブシステムに重点を置くサプライヤーもあれば、コンピュテーショナルストレージを既存のストレージのアップグレードと位置付けているサプライヤーもある。

 業界は、コンピュテーショナルストレージを次のように定義している。

  • CSD(コンピュテーショナルストレージドライブ)

ストレージにコンピューティング機能を追加したもの

  • CSP(コンピュテーショナルストレージプロセッサ)

ストレージアレイにコンピューティング機能を組み込んでいるが、独自のストレージを備えていないハードウェア

  • CSA(コンピュテーショナルストレージアレイ)

複数のCSDを提供するもの、または通常のドライブにコンピューティング機能としてCSPを追加したもの

 SNIAはサービスレイヤーとしてCSS(コンピュテーショナルストレージサービス)も定義している。このレイヤーではコンピュテーショナルストレージ機器の検出、操作、場合によってはプログラミングを処理する。

後編では、コンピュテーショナルストレージのユースケースと主要サプライヤー&製品を紹介する。

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