小学校でプログラミング教育が必須化したのは、何のためなのか。理想的なプログラミング教育の在り方とは。先駆的なプログラミング教育を実践する、東京学芸大学付属小金井小学校の教員に話を聞いた。
東京学芸大学付属小金井小学校(以下、小金井小学校)の教諭である小池翔太氏は、教育現場のIT活用やプログラミング教育を積極的に推進する。小池氏はプログラミング教育を実践する上で、過度な“お膳立て”をせず、児童による能動的な行動を促すことを重視しているという。本稿は、同氏が考えるプログラミング教育の理想像と、それを具現化した取り組みを紹介する。
小学校におけるプログラミング教育必須化に対して、産業界を中心に「IT人材の育成推進」への期待が広がるのは自然なことだ。一方で小学校はIT専門家の養成機関ではないため、IT人材育成を目的とした高度なIT教育を実施するのは現実的ではない。学習指導要領がプログラミング教育の目的として、IT人材の育成ではなく「論理的思考やプログラミング的思考の育成」を挙げるのには、こうした背景がある。
それでも小池氏は「あふれ出る興味や知識を邪魔しないように、学習環境を整備することが重要だ」と話す。例えば学習指導要領で定義される「D分類」(クラブ活動など、特定の児童を対象として、教育課程内で実施するもの)や「E分類」(学校を会場とするが、教育課程外で実施するもの)といった、授業外に実施するプログラミング教育を充実させたいという。
プログラミング教育を実施する際に小池氏が重視するのが、自ら積極的に行動する「自発性」と、相手の立場で考えて行動する「他者志向性」だ。「児童が授業内だけではなく、授業外でもプログラミングツールを自発的に使ったり、他者のために課題を解決したりすることが、理想的なプログラミング教育の在り方だ」と同氏は話す。
小池氏は、これらの理想を具現化した一例として、小金井小学校の「係活動」を挙げる。
小金井小学校の児童は、より豊かなクラス生活の実現に貢献することを目的に、自発的に係活動に取り組んでいる。例えば児童にアンケートを取る「アンケート係」やクラス新聞を制作する「新聞係」に加えて、お笑いライブをする「お笑い係」といったユニークな係がある。各係はMicrosoftのユニファイドコミュニケーション(UC)ツール「Microsoft Teams」(Teams)のチャット機能を活用し、情報交換をしたり、クラスメートに情報を発信したりする。
プログラミングツールを特に積極的に活用するのが「動画・ゲーム制作係」だ。動画・ゲーム制作係に所属するある児童は、ブロックやアイコンといった視覚的なプログラム部品の組み合わせでプログラミングをするビジュアルプログラミング言語「MOONBlock」で、ゲームを制作した。制作過程では、Teamsのチャットで同じ係の児童に連絡し、プログラミングツールに関する情報交換を重ねた。ゲーム完成後は他の児童もプレイできるように、Teamsのチャットでクラスに向けて公開した。
Unity Technologiesが提供するゲームエンジン「Unity」を利用してゲームを制作した事例もある。きっかけは、Unityで3Dのロールプレーイングゲーム(RPG)を制作したいという、ある児童の要望だ。Unityの動作にはシステム要件を満たすIT機器が必要で、従来の教室備え付けのIT機器では利用が難しかった。動画・ゲーム制作係の児童は、ゲーム制作の企画書を教員に提出して、IT機器導入の合意を取得。Unityを用いたゲーム制作を実現した。
「児童の自発的な行動の手助けをしているにとどまる」と、小池氏は自らの活動を自己評価する。教育ITベンダーに対して「児童の自発性や他者志向性を引き出すプログラミング教材をもっと出してほしい」と期待を寄せる。
自発性や他者志向性を引き出すプログラミング教材の一例として小池氏が挙げるのが、日本放送協会(NHK)のプログラミング教育番組「Why!?プログラミング」だ。Why!?プログラミングはストーリー仕立ての番組で、登場人物は各回でさまざまな問題に直面する。視聴者は物語を見ながら、問題をビジュアルプログラミングツール「Scratch」を用いて解決するといった具合だ。例えば「キラキラフィッシュの仲間を増やそう!」という回では、仲間がいなくて寂しい思いをしている魚のキャラクター「キラキラフィッシュ」の仲間を増やすために、視聴者はScratchの機能を用いてプログラミングをする。
プログラミング教育の実施に当たり、教育課程内のプログラミング教育を実施するだけでも、小学校にはかなりの負担が掛かる。教員が過度に疲弊することなく、プログラミング教育の狙いを実現するためには、プログラミング教材のさらなる充実やプログラミング授業の実施など、教育ITベンダーの継続的な取り組みが必要だと言える。
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