中国製AI「DeepSeek」の登場がAI市場に大きな波紋を広げている。これまで同市場で圧倒的な優位を誇っていたAI関連ベンダーへの影響とは。
2025年1月、中国のスタートアップDeepSeekは、高度な回答精度を誇るAI(人工知能)モデル「DeepSeek-R1」を発表した。同モデルは、Appleの公式アプリケーションストア「App Store」において、スマートフォン「iPhone」へのダウンロード数ランキングでトップに躍り出た。
この事態は、AIチャットbot「ChatGPT」を提供するOpenAIをはじめ、米国の大手AIベンダーの立ち位置に変化をもたらすとの見方を生んでいる。20世紀に米国が宇宙開発でソビエト連邦に先行された「スプートニクモーメント」の再来を予感する声もある。米国が軍事力や技術力で他国に出し抜かれる瞬間が再来するのではないかという懸念だ。
DeepSeek R1が関心を集める背景には、コストを抑えた効率的な開発が実現したことに加え、競争力の高い料金設定、LLMがオープンソースであることなどがある。
DeepSeekの開発者によると、DeepSeek R1の開発では、インターネットやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上で収集したデータを用いた事前学習や、教師データを用いたファインチューニング(ユーザー企業による独自トレーニング)は実施しない。代わりに、アルゴリズムが取った行動に応じて報酬もしくはペナルティーを与えて学習させる「強化学習」でモデルの精度を向上させているという。
強化学習の過程では、独自の「コールドスタートデータ」を活用する。コールドスタートデータは、AIモデルに初期段階で手掛かりや方向性を与えるための少量の高品質データを指す。コールドスタートデータを用いることで、強化学習プロセスを効率化することが可能だという。
OpenAIは、LLM「GPT-4o」の利用料金を100万入力トークン(テキストデータを処理する際の基本的な単位)当たり2.50ドルに設定している。対するDeepSeekの料金は、AIエンジンが事前にキャッシュされた情報を活用する場合、100万入力トークン当たり0.14ドルという低価格を実現している。キャッシュが利用できない場合でも、価格は0.55ドルに抑えている。
こうした中国製LLMに対する関心の高まりは、米国株の評価にも影響を及ぼした。2025年1月27日(現地時間、以下同じ)に半導体ベンダーNVIDIAの株価は17%下落し、実質的に5930億ドルの企業価値が吹き飛んだという。
米国のドナルド・トランプ大統領は2025年1月27日、米議会の共和党議員向けに実施した演説の中で、DeepSeekの登場を「米国の技術産業に対する警鐘だ」と表現した。
トランプ氏は、ジョー・バイデン前大統領が2023年10月に発令した「AI規制」を撤回すると明言。「今後、いかなる大統領も、過剰な規制によってわが国の経済を妨害してはならない」と述べ、「バイデン前大統領のAI規制を撤回する大統領令に署名したことで、企業は政治的な配慮ではなく、技術革新に専念できる環境を取り戻した」と力説した。
AI分野の規制緩和の重要性について語る中で、トランプ氏は「中国のある企業が、より高速かつ低コストのAI開発手法を生み出したと聞いた」とDeepSeekを引き合いに出し、「DeepSeekの登場は警鐘であり、われわれは競争に勝つために全力を注ぐべきだ」と強調した。
DeepSeekはわずか2カ月で開発され、その開発費は600万ドルに満たなかったと発表されている。使用されたのはNVIDIA製の半導体製品だったものの、高性能のモデルではなく、機能制限のある廉価版のモデルだったという。オンライン投資サービスを提供するSaxo Capital Marketsで最高投資ストラテジストを務めるチャル・チャナナ氏は、「2023年にバイデン政権がNVIDIA製GPU(グラフィックス処理装置)の対中輸出を規制していたことを振り返ると、この衝撃は大きい」と話す。
「近年、米国のIT企業は割高な評価を受けている」とチャナナ氏は指摘する。特にNVIDIA、Microsoft、Alphabet(Googleの親会社)といった主要なAIベンダーのPER(株価収益率)は、過去の水準を大幅に上回っている。これら銘柄の株価は、成長に対する期待が織り込まれている。高性能の半導体を使わなくても高度なAIモデルが開発できることが証明されれば、AI関連ベンダーの株価にも既存の事業にも大きな影響を及ぼしかねない。中でも、AI技術向け半導体の主要サプライヤーであるNVIDIAは、ハイエンド半導体製品の需要が低下するという影響を直接的に受ける可能性がある。
次回は、DeepSeek登場が与える影響を開発効率やエネルギー消費の観点から解説する。
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