現場が喜んで使うUC製品の条件は? 主要2社に聞くできる「ユニファイドコミュニケーション」【第2回】

一口に「ユニファイドコミュニケーション(UC)」といっても、提供されるサービスによって性質は異なる。今回は2大UCベンダーに自社製品の目指す方向性と導入の成否を分けるポイントを聞いた。

2015年02月25日 12時00分 公開
[織茂洋介,TechTargetジャパン]

 米Gartnerのベンダー評価リポート「Magic Quadrant」(マジッククアドラント)によれば、2014年のユニファイドコミュニケーション(UC)市場において、リーダーに位置付けられるのは米Microsoft、米Cisco Systems、米Avaya、カナダMitel Networksの4社。実行能力(Ability to Execute)においては前2社が同格、ビジョンの完全性(Completeness of Vision)においてMicrosoftがややリードする形だ。

 日本国内に限って言えば国産ベンダーのシェアもまだまだ高いが、今後本格的にUC導入を検討する上では、やはりMicrosoftとCiscoは重要な選択肢になるはずだ。

 UC市場において競合する両社は、それぞれ背負った歴史も掲げる理想も異なる。そこで今回は、両社のUC事業担当者を取材。目指すサービスの在り方やUC導入に成功するためのポイントを聞いた。製品選択の際の参考にしてほしい。

連載:できる「ユニファイドコミュニケーション」


ビジネスソフトにコミュニケーション機能が付いた「Microsoft Lync」

 まずMicrosoftから見ていこう。同社では、古くからITのインフラでコミュニケーションを取るためのツールを模索しており、「Live Communications Server(LCS)」を2003年から発売していた。それが「Office Communications Server」と改称され、何度かのバージョンアップを経て2010年に現在の「Microsoft Lync」になった。

 Lyncのコンセプトは音声通話、ビデオ会議、インスタントメッセージングなど、社内で発生するコミュニケーション手段を単一の製品で提供することにある。チャットをしていて、やはり電話の方が話が早いとなったとき、わざわざ使っていたツールを閉じて別のツールを立ち上げるということなく、シームレスな切り替えが可能だ。

 だが、それだけではない。世界で15億人のWindowsユーザーと10億人の「Microsoft Office」ユーザーを擁するMicrosoftの製品として、社内のITインフラ上で数多く使われる他のMicrosoft製アプリケーションと容易に連係できることが、Lyncの最大の強みだ。

図 日本マイクロソフトの小国幸司氏

 具体的には、「Microsoft Outlook」の予定表からクリック1つでWeb会議に入るなど、手段の切り替えを意識せずにコミュニケーションを発展できる。また、Lyncでは「連絡可能」「退席中」といったプレゼンス状態を表示する機能を持つが、これはエンドユーザーが使用しているデバイスのステータスに連動する。例えば、電話をかけていれば自動的に「通話中」になったり、予定表に会議の予定を登録しておけば、その時間になると「会議中」にプレゼンス状態が更新されたりする。他にも、「Microsoft PowerPoint」が立ち上がってスライドショーが表示されていれば「発表中」に変わるという具合に、情報が細かく更新される。相手の状態をリアルタイムで見えることが当たり前になるので、電話の取り次ぎロスなどがほとんどなくなるという。

 日本マイクロソフト Officeビジネス本部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの小国幸司氏は語る。「Microsoft自身も全世界で10万人以上の従業員がLyncを使っています。Lyncを使うようになってコミュニケーションの作法自体も変わってきました。プレゼンスが緑色(連絡可能)の状態であってもいきなり電話するのではなく、まずチャットで一言話しかけるようになります。UC導入では音声通話をIP化する結果として回線コストが下がると言われますが、その場に必要な最適な手段でコミュニケーションを取ることが習慣になると、そもそも電話をかける機会が減るので、むしろそうした面からのコスト削減効果もあるのではないでしょうか」

 使い慣れたビジネス用アプリケーションにコミュニケーション機能が統合されるメリットは大きい。

図 どこにいても、隣の席にいるような会話を実現する「Microsoft Lync」

現場で使えるUCへシフトするCisco

 オフィスで使うビジネスアプリケーションからコミュニケーションの領域に機能を拡張させてきたMicrosoftに対して、企業内の音声通話のIP化に取り組み、そこからテレビ会議、Web会議とソリューションを広げてきたのがCiscoだ。ネットワーク機器ベンダーの老舗であり、ビデオの圧縮技術や音声の品質、Web会議で採用されているセキュリティのテクノロジーなど、品質面では依然として評価が高い。

 そんな同社だが、今や社内のコミュニケーション環境を統合(unify)するということ自体はもはや目的ではないという。

図 シスコシステムズ 石黒圭祐氏

 「『ユニファイドコミュニケーション』というと何でもできるイメージがありますが、最近、当社では何でも統合することがいいとは限らないと考えています。何でもできるというと、お客さまは逆にどこに重きを置いて投資すればいいか分からず混乱してしまいます。やはり、本当に必要なことを理解してもらい、その具体的な実現方法へと導いていくというアプローチが必要です」(シスコシステムズ コラボレーションアーキテクチャ事業コラボレーション営業部 部長 石黒圭祐氏)

 Ciscoが強調するキーワードは「現場で使えるツール」だ。IT部門や総務部門以外の人たちに現場でいかに使ってもらえるか。そのために、営業施策においても、あらかじめ使い方を想定するというよりも、実際にユーザーとなる人々に製品を見てもらい、型にはまらない使い方を発見してもらえるようなアプローチを取っているという。

図 シスコシステムズ 板垣利和氏

 「もはや利用シーンはオフィス内にとどまりません。工場や学校、医療機関なども含め『現場』でどう使えるかがテーマであり、実際に問い合わせ内容もオフィス以外での用途に関するものが増えています」(シスコシステムズ コラボレーションアーキテクチャ事業 ビジネスデベロップメントマネージャー 板垣利和氏)

 型にはまらない使い方を自由に想像してもらうために、大前提になるのが、誰にでも簡単に使えるシンプルな製品であるということだ。例えば、ビデオ会議1つにしても、製品をテレビにつないでリモコンで操作するようなものであれば、当然リモコンがなければ使えない。そして、リモコンが見つからないということはよくある。使いたいときに使えないツールに存在意義はない。そうした考えから、タッチパネルで誰でもマニュアルなしで操作でき、ケーブルが不要な一体型のテレビ会議製品が生まれたという。

写真 現場レベルでの使いやすさを重視して設計された「Cisco TelePresence MX200 G2」

拡張するコミュニケーション基盤

 UC基盤が大企業のオフィス内にとどまるという考えはMicrosoftにもない。オンプレミス環境では大規模な投資を必要とされたLyncだが、「Microsoft Office 365」の機能の1つとして「Lync Online」というクラウド方のサービスも提供しており、こちらでは中小企業の利用が増えている。

 また、2011年に買収したSkypeは現在Lyncの事業部に統合されており、LyncとSkypeの相互接続が既に実現している。2015年前半にリリースされる次期バージョンではLyncから「Skype for Business」へと名前が変わることが決まっている。

 「Microsoftでは、企業内や企業間の統合されたコミュニケーションといった枠を超えて、人をベースにした『ユニバーサルコミュニケーション』というビジョンを掲げています。Lyncを軸にしたコミュニケーションは大規模企業から中堅中小企業、BtoBからBtoCへと裾野を広げつつあるといえるでしょう」と前出の日本マイクロソフト 小国氏は語る

 シスコシステムズの板垣氏も「お客さまの層も使われ方も急速に広がっています。もう一歩低価格化すれば、コンシューマー市場も視野に入ってくるかもしれません。また、今後はよりクラウド志向が強くなっていくでしょう。ユニファイドコミュニケーションでは、さまざまなものを組み合わせてシステムを構築する必要が出てきますが、迅速かつ簡単な展開を可能にするために、クラウドの活用は不可欠です」と語り、UCの概念を超えたコミュニケーションの新たな可能性を示唆する。

うまくいく/いかないを分けるもの

 もっとも、いかに可能性を秘めたコミュニケーション基盤であっても、実際に導入に失敗するケースは存在する。大きな原因として上がるのがエンドユーザーの視点の欠如だ。

 「『新しいツールを買ったから使って』では、なかなか根付かないものです。うまく使っている企業はツールを導入するだけでなく、コミュニケーションの課題や導入後の生産付加価値というものを意識していると思います。ITはあくまでそれを実現するためのツールにすぎません」(日本マイクロソフト 小国氏)

 利用方法をあまり制限し過ぎるのもよくないという。実際、「チャットができると遊びに使われる」などと考えて、従業員には機能を限定して使わせようとする企業は少なくないようだ。だが、制約の多いツールを使いたいユーザーはいないだろう。

 また、ITの利便性を逆手に取って従業員を監視するツールとして使うというような発想も、ユーザー視点から懸け離れたものだ。

 「ワークスタイルの変革が進むと、労働の価値を時間で測るという評価軸自体がなじまなくなる可能性があります。仕事に費やした時間より成果で評価されるようになれば、仕事とプライベートの切り分けに悩む必要はありません」(小国氏)

 労務管理に関わる問題はもはやIT部門だけで解決できないが、システムの導入が利用者を不幸にする愚は避けたいものだ。

 現場ニーズとのミスマッチの回避はCiscoが一貫して主張するところでもある。

 「コミュニケーションのツールを全く必要としない企業はないでしょうが、現場が必要としないツールを導入してしまうというケースはあると思います。ミスマッチを生む最大の要因はIT部門と現場とのコミュニケーション不足。ITの立場でしかものを見ないから現場のニーズと合致しない。もちろん、それはこれまでIT部門のニーズしか見てこなかったベンダー側の責任でもありますが」(シスコシステムズ 石黒氏)

 現場が満足できないシステムは導入しても定着しない。これは、Ciscoが過去の経験から学んだことでもあるという。

 現場の声を聞きエンドユーザーを味方に付けることは、IT部門にとってもメリットのある話だ。コミュニケーション手段の改善はインパクトも大きいからうまくいけば自身の評価にもつながる。また、最初からエンドユーザーが使いやすいものを導入することで、クレーム対応のコストも削減できるだろう。

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