小さな会社の働き方革命
「ホッピー」社員にハッピーな仕事環境を提供――次世代ビデオ会議導入事例
「ホッピー」を製造販売するホッピービバレッジでは2014年4月からシスコシステムズの「Cisco TelePresence」を全社で利用している。導入の目的と効果、今後の展望を担当者に聞いた。
赤ちょうちんの下、凍らせたジョッキによく冷えたホッピーと焼酎を注ぎ、勢いよくあおる。そんなひとときを仕事帰りのささやかな楽しみにしている読者も少なくないのではないか。この「国民的飲料」であるホッピーの発売元がホッピービバレッジだ。社員数37人(2014年8月現在)の小さな会社である同社は東京都港区赤坂に本社を構える一方、創業の地である東京都調布市に製造拠点を置いている。このため、これまで社長以下本社スタッフは、双方の地を頻繁に行き来していた。
質の高いコミュニケーションと業務効率化を両立する
現在、ホッピービバレッジを率いるのは代表取締役社長の石渡美奈氏。同社の「3代目跡取り娘」としてメディアで取り上げられることも多く、複数の著書も出版している。中小企業が価値を生む源泉は他社にまねのできない企業風土を築くことにあると信じ、そのために社内では質の高いコミュニケーションを重要し、対面での会話を大事にしてきた。しかし、多忙を極める石渡氏にとって、何かあるたびに、時間をかけて本社と工場を行き来するのは非効率だった。もちろんそれは他の社員にとっても同じだ。
「本社のある赤坂から調布の工場まで、車で少なくとも30分はかかりますから、往復するだけで約1時間が無駄になってしまいます。交通渋滞があればもっと時間が取られることありますから、移動時間をいかに削減するかは大きな課題でした」。ホッピービバレッジ 営業部門お客様サポートセンター係長兼ホッピー未来開発室Corporate Communication System担当の原 知代氏は、こう語る。
そんな悩みを抱えていた2013年11月、石渡氏がシスコシステムズの本社を訪問する機会があり、そこでビデオ会議システム「Cisco TelePresence」シリーズのデモンストレーションを目の当たりにしたという。
原氏は当時の様子を次のように語る。「シスコの平井康文社長がホッピーをお好きでもあり、また目指す経営スタイルが大変近いというところから社長同士気も合い、良いお付き合いをさせていただいているのですが、九州にご出張中でその場にいらっしゃらなかった平井社長から『iPad』を通してごあいさつをいただきました。映像も音声も鮮明で、しかも全くタイムラグがないので驚きました。その場にいるかのように話ができる。社長の石渡も感じるものがあったようで、『社長の大人買い』をしたいと、導入に向けて動き出しました」
そして2014年4月に、本社と工場双方の会議室用の大型端末「Cisco TelePresence SX20」を2台、社員それぞれのデスクに既存の電話機をリプレースする形で電話機型端末「Cisco Desktop Collaboration Experience DX650」を21台、また、社長とゼネラルマネージャー、営業部長の自宅用にデスクトップ型端末「Cisco TelePresence EX60」を3台導入した。さらに、社員に1人1台のiPadを支給し、コラボレーションクライアント「Cisco Jabber」を通じてどこにいてもリモートでアクセスできる環境を整えた。
「電話だけだと空気感が伝わらないというか、なかなかうまく意思疎通が図れないことがあります。お客さまから何かクレームが入ったときでも、電話で話すだけではどのくらいの緊張度なのかが伝わらない。そして現場で何かトラブルがあったときにも、電話だけでは設備の状況が把握できず、適切な指示ができないということもありました。Cisco TelePresenceを使えばリアルな状況を映像付きで共有できることから、問題の深刻さを理解し合い、より適切な対応が可能になりました」。原氏はシステムの導入効果をこう説明する。
実はホッピービバレッジにとって、ビデオ会議システムの導入はこれが初めてではない。過去に国内ベンダーの製品を2回導入しているが、いずれも満足のいく使い勝手ではなかったという。映像や音声に遅延があり、複数の人間が参加すると誰が何を言っているのか分からなくなってしまうのだそうだ。これではいくら画面に顔が映っていても「質の高いコミュニケーション」には程遠い。
「今までのシステムでは、結局、直接会って話した方が早いということになりがちだったんですね。その点、シスコ製品にしてからは話がスムーズに進むようになり、社員の移動も目に見えて減るようになりました」と、原氏は明かす。
ワークスタイル変革
「無駄な時間≒コスト」という感覚は、ともすると忘れられがちだが、時間の削減効果は小さくない。また、iPadから利用できることによって、場所に縛られず利用できるという点も、業務の効率化に貢献している。
「酒類業界というのは、朝早く夜が遅くなりがちです。出先を回って帰社してから日報を書いて、そのチェックを上司と1対1で行うので、なかなか早く帰れないという状況がありました。弊社には若い女性も多いため、社員の帰宅が遅くなることについて、石渡もとても心配していました」(原氏)。現在はiPadがあるので、出先や自宅からでも顔を見ながらコミュニケーションが取れるようになったという。
「ビアテイスト飲料」であるホッピーを発売する同社の顧客には飲食店が多く、夜にならないと訪問できないお店も当然ある。だから、仕事の終わりが遅くなるのは仕方のない面はあるだろう。しかし、「会社にいなければできない仕事」を減らすことによってオプションは広がる。
「例えば家に帰って家族と夕食を取るとか、英会話に通った後でCisco TelePresenceを使って、後でミーティングをするとか、時間の使い方も変わってくるかもしれません。実際、現在子育て中の女性社員が1人いるのですが、他の社員よりどうしても早く帰宅しなければいけない。それがiPadでその日のうちに日報を共有できるようになったのです」(原氏)
ホッピービバレッジが本格的に新卒採用を始めたのは2006年。現在は若い社員が多く平均年齢は30歳に届くかどうかというところだ。また女性の比率も高く、3分の1以上は女性社員が占める。現時点では独身者が多いが、今後彼女たちが結婚・出産というステージを迎えたとき、働やすい職場を用意したいという思いがある。コミュニケーションの質を改善し、ワークスタイルの選択肢を増やす。これもCisco TelePresenceの副次的な効果といえるかもしれない。
社員数37人の会社に2000万円の製品はアリか?
ホッピービバレッジでは、現在はCisco TelePresenceを社内のコミュニケーションに活用しているだけだが、将来的には顧客の声をじかに聞くためのツールとして使っていくことも考えているという。「試飲販売会などを行うこともありますが、現場の雰囲気を中継して上司から指示を出すといった使い方もしています。現場から新しい使い方が広がっているところはありますね」(原氏)
ホッピービバレッジにおいて、Cisco TelePresenceの導入は期待以上の効果を生んでいるようだが、日常的に使うコミュニケーション手段を総入れ替えするとなれば、混乱は付きものだ。また、ビデオ会議自体は過去にも使われていたとはいえ、電話機を映像付きのものにリプレースされることに抵抗を覚える社員がいても不思議ではない。導入はスムーズに進んだのだろうか。
原氏はこう打ち明ける。「最初の頃は、タッチパネルの操作や通話中に顔が見えることへの戸惑いはあったようですが、若い社員が多いこともあって、特に混乱もなく受け入れられたと思います。何しろ社長が前面に立って推し進めた『社内改革』ですから、従うしかないというのもありますが(笑)」
今回の一連の製品の導入に掛かったコストを尋ねると「2000万円をちょっと飛び出るくらい」だという。一般的な感覚からすると決して安い買い物ではないようにも思えるが、石渡氏の強い意志で押し切ったようだ。
「確かに大きな投資でした。他方、体力の小さな中小企業だからこそ、最先端の文明の利器を積極的に活用して社員のパフォーマンスを最大限に高め、組織力を補強する必要があると考えています。効率よく働ける環境を整えてお客さまにより質の高いサービス、もう一歩踏み込んだサービスの提供を実現させていくと、常々言っています」(原氏)
新しいシステムへの移行がうまくいくためには、製品の出来の良さもさることながら、強いリーダーシップと頭の柔らかい現場、そしてお互いの信頼関係が重要といったところか。
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