ITマネジャーのための超実践的なBIシステム導入ガイドの第2回目。アプローチ法と導入工程の概要を解説した第1回目に続いて、導入工程で一番重要である企画フェーズ部分の具体的な進め方を紹介する。現状把握から企画立案まで、実行する際に重要なポイントを解説していく。
第1回目では、BIシステム導入の全体像と企画フェーズの概要、およびその重要性について説明しました。第2回目の今回は、企画フェーズでのタスクである「活用診断」、「基本計画立案」の2つの具体的な進め方について紹介していきます。
活用診断は前回の内容でも触れたとおり、企業内の情報活用の現状と課題を把握するのが目的で、「BI活用度」、「BIシステム化度」の2つの側面で診断を行っていきます。
まず、「BI活用度」の診断では、BIシステムもしくはそれに準ずるシステムがどれだけ業務に活用されているかという観点で調査・分析を行っていきます。具体的には、下記のような項目に関して調査を行います。
(1)業務活用度
業務を遂行していく上でBIシステムがどれだけ活用されているかを調査
例.業務フローにBIシステムが組み込まれて、担当者が実際に使用しているか
(2)戦略整合性
企業の戦略とBIシステムの使われ方がどれだけ合致しているかを調査
例.顧客数拡大が目標の場合に、進捗状況をモニタリングできる仕組みがあるか
(3)組織面の診断
BIシステムを活用していく上で、組織としての体制を構築できているかを調査
例.新たな要件が出てきた場合にその情報を共有する仕組みがあるか
(4)ユーザーリテラシー
BIシステムを活用していく上でツールおよび業務に生かすための知識や能力が十分なものかを調査
例.ユーザー教育が実施されているか、実際にどれだけ使用されているか
次に、「BIシステム化度」ですが、こちらはBIシステムもしくはそれに準ずるシステムがきちんと構築・運用されているかという観点で調査・分析を行っていきます。
(1)データ品質
各数値データやマスタの品質が業務に耐えうるものかどうかを調査
例.必要なデータの粒度(明細まで必要であれば明細データまで)があるか
(2)機能・ユーザビリティ
BIシステムとして、必要な機能や操作性が提供されているかどうかを調査
例.必要な情報がどこにあるかがわかりやすく設計されているか
(3)パフォーマンス
業務でBIシステムを使用していく上で、パフォーマンスが十分かを調査
例.レポートの表示レスポンスが十分か、バッチ処理が業務開始前に完了するか
(4)セキュリティ
企業内のセキュリティポリシーに沿ったセキュリティ機能が提供されているか
例.担当者別・部門別にレポートの表示/非表示を設定でき、運用されているか
上記に示した項目と例はあくまで一例であり、項目や各項目でどのような調査をどのレベルまで行うかということをきちんと調査開始前に決定をする必要があります。
それでは、上記を踏まえたうえで具体的な進め方を見ていきましょう。
(1)診断目的と項目の決定
診断項目については、予算やスケジュールなどに制限がある場合、明らかな部分は省略したり、逆に今後影響が大きそうな部分については詳細な調査・分析を行う必要があります。そこで効率よく作業を行えるように診断の目的とその目的に沿った現実的な診断項目を決定します。
(2)BIシステム現状調査・分析
現状のBIシステムの調査・分析を設計書などの資料とシステム担当者へのヒアリングの実施により行います。
(3)BI活用度調査・分析
現状のBIシステムの活用度の調査・分析をユーザー担当者・システム担当者へのヒアリングの実施により行います。
(4)課題分析
現状調査・分析で洗い出された課題を同一の原因であるものや相互に関連するのもなどでまとめていきます。その上で影響の大きいものなどを洗い出します。
(5)改善案の検討
整理された課題の具体的な改善案を検討します。まずは複数の可能性を検討し、その後予算や実現性から推奨されるものを決定します。ここでの作業で優先順位が明確化されます。
基本計画では活用診断での調査・分析の結果を元に企業内におけるBIシステム活用のロードマップを描いていきます。基本計画書の項目例は下記の通りです。
それぞれの大項目に関してポイントを紹介していきます。
(1)概要
企業内におけるBIシステム活用の目的や基本方針、対象範囲を明確にします。ここでの目的があまりにも漠然としすぎているとその後の計画もあいまいになりがちですので、出来る限り具体的に決定する必要があります。
(2)業務要件
BIシステムを業務に活用する上で必要な要件を明確にします。ここでは基本計画が対象とする範囲を業務、システム、組織面、ユーザー層などを利用して記載し、必要に応じて具体的な活用例なども挙げておきます。
(3)システム要件
システム構成やセキュリティ・パフォーマンスなどのシステム的な要件を明確にします。システム構成については、現状からの案であり、個別の開発プロジェクトを進めていく中でシステム構成を変更していく必要もあります。
(4)開発方針
システム開発をどのような手順で開発を行っていくのかを明確にします。プロトタイプの開発の有無や外部リソースの利用、開発環境の使用などを記載します。
(5)導入方針
研修などでユーザーリテラシーを向上させたり、BIシステムの使い方などをユーザーに広めていく手順を明確にします。
(6)プロジェクト基本計画
スケジュールや予算という制約条件から直近での開発範囲を決定し、具体的なプロジェクトの計画を立案します。外部リソースを使ってシステム開発を行う場合、この部分が各業者に提示するRFPとなります。
それでは、上記を踏まえたうえで具体的な進め方を見ていきましょう。
(1)現状分析
BI活用診断での結果を主な参考資料とします。
(2)導入目的・導入効果の策定
システム導入の目的と各業務において期待される効果をできる限り具体的に整理します。ここは予算やリソースを確保する上で重要な部分です。企画部門や情報システム部門だけでなく、多くの関係者をうまく巻き込んでいくことが重要となります。
(3)BIのあるべき姿の検討
企業内における理想的なBIシステムおよびその活用イメージを具体的に検討します。ただし、この時点で100点満点の理想を描き切ることはできません。実際にシステムを活用することで本当の理想の姿が徐々に見えてきます。
(4)全体基本計画作成
あるべき姿に向けて現状とのギャップを埋めていくための基本方針、手順を検討します。ここでは今まで調査、分析、検討を行った内容を整理します。
(5)次期スコープ検討
現状の課題や予算、人的リソース、スケジュールなどから次期プロジェクトのスコープを検討します。
企画フェーズを進めていく上でポイントになるのは、BIシステムの活用を推進しようとしているのが、担当者レベルなのか、経営層レベルなのかということです。
担当者レベルからのボトムアップアプローチの場合は、関係者をいかに巻き込んでいくか、導入効果をいかに現実的でわかりやすい数値で表現できるかなど、決済権限を持っている層にうまくアピールできるように企画を立てていく必要があります。
逆に経営層からのトップダウンアプローチの場合は、推進者が持っているイメージを具体化して、実現できる企画を立てていく必要があります。
それぞれの違いについては、次回の第3回、第4回でそれぞれのアプローチの具体的な成功事例を企画段階での成果物も交え、紹介していきたいと思います。
1998年に設立されたDWH、BI専門の独立系コンサルティング会社。金融、通信、製造、流通、サービスなど多岐にわたる業種のDWH、BIシステム構築プロジェクトに参画し、システム分析・設計・導入から運用までをトータルにサポート。 メディアへの寄稿、セミナー講演などを通じてDWH、BIの普及、啓蒙活動を実施。
TEL:03-3538-8277
お問い合わせ先:olap@iafc.co.jp
株式会社IAFコンサルティング マーケティング部所属。1998年にユーザー系情報システム企業にSEとして入社。その後、通信系企業にて、営業職としてさまざまな顧客の問題解決に従事。現職についてからは、セミナー講演や顧客への提案活動を中心として活動中。
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